■ベリーズでマナティーツアーに参加■

キー・カーカーのメイン・ストリート

ベリーズってどんな国?

ベリーズ、という国をご存知だろうか。
中米というと小国が連なり、もっと遠い南米の国々よりも名前になじみが薄いことが多い。ベリーズもそんな中米の小さな国のひとつで、メキシコとグアテマラの西、カリブ海に面した場所に位置する。

四国をひとまわり大きくしただけのベリーズに、何があるのだろう。一体行く価値があるのだろうか?しかもこの国は、入国にも出国にもお金がかかる、ちょっと腹立つ国なのである。ある旅人はベリーズは飛ばす予定だと言い、ある旅人はまったく素通りしていた。

だけどせっかく来たのだから、私は少しでもどんなところか見て行きたい。そしてどうせ行くなら何か面白い、この国ならではのものはないものか。ガイドブックをめくる私の目に「マナティーを見るツアー」という、片隅の小さな文字が飛び込んできた。おお、そんな動物が本当に見られるのだろうか?本当なら結構すごいことなのではないか。これで私の心は決まった。

「よし、これだ!マナティーを見に、ベリーズに行こう!」

かくして私は一路、キー・カーカーに向かう船に乗ったのである。

キー・カーカーにて

ベリーズの公用語は英語。中米の国々のほとんどがもとスペインの植民地だったのに対し、ベリーズはイギリス領だったためだ。スペイン語がまだまだの私にとって、旅するのにかなり楽な国だ。

「キー」というのは、英語で「砂洲」とか「小島」という意味だ。ベリーズの海には、こうしたキーが数多く浮かび、重要な見どころとなっている。そのうちのひとつ、キー・カーカーは、リゾートには程遠い雰囲気の素朴な小島だ。舗装道路は一本もなく静かで、ビーチリゾート的な雰囲気があまり好きでない私でも、ここは大いに気に入った。道路にも海岸にも白い砂が敷かれ、真昼の強烈な太陽に照らされて目が痛いほどまぶしい。島には大したものはないので、泳ぐか、うろうろ歩き回るか、夕日を眺めるぐらいしかすることがない。

しかしあちこちにある旅行会社では、シュノーケリングやスキューバダイビングなどのさまざまなツアーが用意されていて、海好きな人は長く楽しめそうだ。ベリーズには世界で2番目に大きなバリア・リーフがり、ダイビングのポイントも多いのだそうだ。私はマナティーだけが目的だったので、早速一日ツアーに申し込んだ。値段は75ベリーズ・ドル、約4100円。これで2回のシュノーケリングも体験できるのだから、なかなかお得だと思う。

ツアーに出発。まずはシュノーケリング

朝9時、ツアー客はモーター・ボートに乗ってキー・カーカーを出発した。爽やかな海風を満身に浴びながら、1時間ぐらい走っただろうか。ボートはリーフ(環礁)に囲まれた、水がきれいな浅瀬に止まった。ここでレンタルのシュノーケルとフィンをつけ、みなガイドのハリーさんに続いて海に入る。

実は私、スキューバダイビングは何度かしたことがあったが、シュノーケリングは初めてだということに今頃気付いた。しかもヒミツだけど泳げないのだ!もがいている私のために、ハリーさんは浮き袋を貸してくれた。他にも初めての人はいたようだけど、私だけこんな赤い浮き袋と一緒でちょっと恥ずかしい。

恥ずかしいことはほかにもあった。実は、私は水着を持っていないのである。いや、持っていることは持っているのだが、それは本当は下着だった。紺色とピンクのブラジャーで、前から見れば分かりにくいけれど、後ろからホックのあたりをじいっと見ればバレてしまうかもしれない。下にはマレーシアで買った綿の短いスカートをはいたが、その下は普通のパンツである。海中ではスカートがめくれないようにずいぶん気を使った。

幸い私の格好については、誰にもバレていないようだった。それともみんな、気付かないフリをしていただけだったのだろうか?とにかく、これからもこの格好でイケる!とすっかり自信(?)をつけてしまった私であった。

ツアー一行はリーフの内側から外側へ泳ぎ出た。ハリーさんが海の生き物の説明をしてくれる。さまざまな種類のサンゴがある。1種類だけ鮮やかな紫のがあったけれど、サンゴというのは、イメージと違ってカラフルではない。くすんだモスグリーンのような色をしていて、あまりきれいではない。

しかしそのサンゴの間をウロチョロしている魚がかわいい。目の覚めるような黄色だったり、きれいなコバルトブルーだったり。ほかにもアオブダイの小型のようなやつ、茶色のぼこぼこした模様があるやつ、細長くて3色のきれいな魚。私の後をつけてくるように見える、黄色い縞が入った銀の魚など、いつまで見ていても飽きない。

ハリーさんがつかまえた生き物を、時々私の手に乗せてくれる。白いとげのあるウニは、針の間からたくさんの触手のようなものが出ていて、それでものに吸い付いて体を固定できるみたいだ。とげは普段は寝ていて、何か刺激を与えると起きる。

一部に鮮やかなオレンジの水玉模様がついた、珍しい貝。その模様が段々動いていくのでびっくりした。なんとそれは、貝殻から出ていた体の一部だったらしい。あまりに薄くて貝に張り付いていたので、貝の模様だと思っていた。

海って面白いなあ。シュノーケリングって面白いなあ!

ゴフス・キーでハリーさんと話す

こうしてシュノーケリングを楽しんだ後は、すぐ近くにあるゴフス・キーへ。ここはヤシの木が数本生えただけの、5分もしないで一周できる小島だ。当然人は住めないけれど、ツアー客が休憩する場所となっていて、大勢の西洋人旅行者で賑わっていた。

ゴフス・キー。昼食時はすごい賑わい

昼食は持参のツアーだったけれど、私のほかの9人はイギリスやオーストラリアの同じ会社から来たひとつのグループで、彼らが用意させた料理を分けてもらってしまった。

食後、ガイドのハリーさんと2人で話した。
ベリーズにはメスティーソのほかに黒人も多いのが特徴だが、ハリーさんも黒人だ。彼らはアメリカ先住民みたいに、もともとの自分の言葉を今も持っているのかと聞いてみた。

するとハリーさん曰く、
「いや、英語だけだよ。イギリス人が我々をここに連れてきたとき、アフリカの言葉は忘れて英語だけを使うように強制されたんだ。でも学校では××という言葉を習わなくてはいけなかった。それはもともとは英語なんだけれど、英語を使うことを強制されたアフリカ人たちが反発して作り上げたブロークンな言葉なんだ」

早い英語で分かりにくかったが、なんとかこう聞き取った。××という言葉の名称は忘れてしまった。
そうだ、彼らは「侵略された人々」ではなくて、「連れてこられた人々」だったのだ。詳しくは知らないけれど、アメリカ先住民とはまた違った、きっとさらに悲しい歴史を持つ人たちなのだ。

自国の文化も言葉も完全に失った彼らが、どういう気持ちで生きているのか気になり始めた。今こうして西洋人のガイドをしているけれど、彼らに対してどう思っているのだろう。自分達の言葉を奪い、故郷を奪った人々の子孫が遊びにやって来るのを、一体どういう目で眺めているのだろう。

ハリーさんにこのことを聞いてみたかったが、質問を思い出したのはしばらくたってからで、もう西洋人も一緒にいたのでとても聞けなかった。私はいつもタイミングを逃してしまう。

ガイドのハリーさん。1人で参加した私のために気を使ってくれたりと、とてもやさしい人だった

いよいよマナティーを見に行く

さて、昼食後はいよいよ!!マナティーがいるという、スワロー・キーを訪れる。マナティーの生息地は、大西洋の西側や北アメリカのフロリダ周辺、南米アマゾン、大西洋東側からアフリカの西にかけて、そしてここカリブ海だ。

マナティーは淡水でも海水でも生きていける哺乳類で、水の底に生えている草を食べるので「水のウシ」とも呼ばれる。先住民の食用のための捕獲などによって減少し、絶滅危惧種となっている。15分ぐらい呼吸しないでも大丈夫だが、大体7分、もっと短い時間ごとに水上に出て呼吸をするという。

スワロー・キーはマングローブが生えた小島で、この南側がマナティーの保護区域となっている。本当にここで、マナティーがみられるのだろうか?

こういうマングローブの島近くの静かな海に、マナティーは住んでいる

スワロー・キーに近づくと、ハリーさんはボートのエンジンを止めた。長い竿を使って、静かに漕いで行く。水の輪ができているのは分かる。マナティーはそこにいるらしいが、ちゃんと見ることができるのだろうか。水の輪だけで終わりはしないだろうか。

「ここにいる」とハリーさんが言う。みんなカメラを構えてそちらを見る。白くて大きなものが、ぼんやりと水の中に見える。これだ。
「もうちょっと待って。息をしに上がってくるから」
そしてみな、息を詰めるようにしてそれを待つ。

来た来た。白くてぼわーんとしたものが、だんだん浮かび上がってきて鼻先だけ水の上に出し、プシューッと呼吸をする。本当に丸っこい体で、尻尾がへらのようで面白い。そうしてまた沈んでいく。私達は、それが数分後にまた浮かんでくるのを静かに待つ。沈んでいる間は、どこにいるのか分からなくなってしまうことが多いので、みんな息をひそめて探す。
「こっちにいる!!こっち!」

まるででかい魚のよう

マナティーは別に船から逃げているわけでもなく、時には向かって泳いで来た。そして一度などは船のまん前で、私達に向かって呼吸をした。絶好のシャッターチャンスだったというのに、私は撮りそびれてしまいものすごくくやしかった。私はいつもタイミングを逃してしまう。

私達はかなりの間、浮き沈みするマナティーを追っていた。2頭のマナティーがつながって泳いでいたり、キスするように顔をくっつけて浮き上がったこともあった。

今日はいつもより多かった、とハリーさんは言った。私もこんなに見られるとは思っていなかった。もっといい写真を撮れなかったのが心残りだったが、一応満足して次のシュノーケリングスポットへ。

これがベストショット。もっといい写真撮りたかったなあ

2度目のシュノーケリング

キー・カーカーにほど近い海のスポットで船を止める。このシュノーケリングはサメを見るものだと思ったが、こんな浅いところにサメがいるのだろうか。魚さえいそうにない場所である。

不思議に思って水中に入ると、どこからともなくものすごい数のエイが押し寄せて来た。わわわ、エイって危ないんじゃないの?尻尾に針が付いてるし、かなり大きなエイである。私があわててもがいた拍子に、一匹のエイの背中をキックしてしまった。何しろ足の踏み場もないほど集まってくるのだから。でも刺されはしなかった。それにしても恐かった。あまりにたくさんいるし、デカいのである。

しかし実は、サメとともにエイに会うのがこのシュノーケリングの目的だったようだ。エイは英語で「RAY」。私がその単語を知らなかったので、サメ(SHARK)だけが頭に残っていたのだ。でも事実サメは2匹しか見なかった。

ハリーさんは手にエサを持って、寄ってきたエイを捕まえる。それをツアー客に触らせてくれる。エイの背側はぬめぬめしていて、腹側はもう少しきゅっきゅっとしていて気持ちがいい。頭を抑えられても、ハリーさんが持っているえさを食べようと口をパクパク動かしている。とても貪欲なのだ。針はあるが、どうして人を刺さないのだろう。

このほかにも、ものすごくたくさんのエイが集まってきた

たくさんの大きなエイと一緒に泳ぐのは楽しかった。そうして遊んでいると、遠くに一段と大きな生き物が見えた。ハリーさんが何か叫んで、追いかけていく。その数メートルはある巨大なエイは、両側のひれを鳥のようにはためかせながら、長い尻尾をたなびかせて、ゆうゆうと遠くに去っていった。青い海の中、それはまるで夢のような光景だった。私も追いかけたが、しばらくして見えなくなってしまった。

あれは一体・・・?
もしかしたら、ダイバー憧れのマンタではないだろうかとちらりと思ったが、あとでハリーさんに聞くと、なんとかいう別の種類のエイだったらしい。マンタはあれよりもずっと大きくなるのだそうだ。そんな巨大なのを見ることができたら、きっとどんなに素晴らしいことだろう。

海にはまってしまう人の気持ちが、なんとなく分かるような気がした。

夕方4時ごろ、私達は帰途についた。
マナティーもたくさん見られたし、盛りだくさんで楽しい、ベリーズならではの体験ができた1日だった。「ちょっと寄ってみるか」そんなつもりで来たというのに、また家族で訪れたくなってしまうような、そんな素晴らしい場所だった。

(旅行時期 2003年11月)

 

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