アテナの物語A
蜘蛛にされたアラクネ
ベラスケス『織り女たち(アラクネの寓意)』
メデューサの他にもう一人、大した罪でもないのに、アテナの怒りを買って、酷い目にあった女性がいる。 彼女の名はアラクネ。 小アジア、コロポンの町に染物の名人の父親と住んでいた。 ギリシャ神話上、アラクネが美女だと言われることは無いが、彼女の機織は見事だった。そして彼女の仕事振りは美しかった。 側に住んでいるニンフたちがわざわざ覗きに行くくらい、素晴らしかった。 そして誰かが「工芸を司る、知恵の女神アテナに教わったに違いない」と噂した。 この言葉は、アラクネにとって誉め言葉とはとれなかった。むしろ自尊心を傷つけられた。 「オリンポスのどの神々でも、私ほど巧みに機を織れる者はいない」 とアラクネは自慢する。
ベラスケス『紡績機(アラクネの寓意)』部分
神が人間の愚かな発言を見逃すわけは無かった。おまけにアテナはかなりプライドが高いのだ。 最初、アテナは老婆に化けて、アラクネを諌めに行った。 自分の腕に慢心していたアラクネは、その忠告を受けなかった。「そんなら私と織り比べをしてごらん」 アラクネは言う。アテナは仕方なく変身を解いて、本来の姿を現した。二人の機織競争が始まった。 アテナとアラクネは金糸銀糸の美しい糸を惜しげも無く使い秘術を尽くした。 アテナが織り上げたのは、オリンポスの12神と神に懲らしめられる人間を模様にした布だった。 アラクネが織り上げたのは神々と人間の女性の恋愛模様だった。 アラクネが織り上げたのは非の打ち所の無い美しい布だった。 どちらが優れているか優劣の区別もつけようのない競争だった。 しかし、アテナはアラクネを許さなかった。アラクネの作品をズタズタに引き裂いて、なおかつアラクネを打ち据えた。 アラクネは絶望して自ら縊れた。これを見て初めてアテナは怒りを解いた。 死んだアラクネに魔法の水をかけると、アラクネは蜘蛛に変身して、巧みに織る技だけが残された。
続く