アルテミスの物語D
ニオベの悲劇


Hans Holbein the Younger『Tantalus』
 ニオベはゼウスの孫にあたる。
 彼女の父タンタロスは人間でありながら、神々に寵愛されてオリンポスの宴席にも参加した。
 しかしゼウスの息子にしては大変な愚か者で宴席での神々の噂話に尾ひれをつけ吹聴したとか、出されたネクタルやアンブロシアを持ち帰ってしまったとか、いろいろ言われているが、彼の悪行の中でもっとも有名なものは、なんと言っても息子ペロプスを殺害してその肉でシチューを作り神々に饗した事だろう。
 こんな事をすればいくら子供に甘い親ゼウスでも怒る。
 神々はその肉を口につける前に、人肉だと言うのをすぐに見抜いていたが、ただ一人デメテルだけは気づかずに食べてしまった。
 ちょうどこの時、娘のペルセポネがハデスに誘拐されている最中で、そっちの方が気がかりだったからだ。
 神々はすぐにペロプスを蘇生させたが、デメテルが消化してしまった肩の肉だけは元に戻らなかったので、その部分だけは象牙で補った。
 以降、ペロプスの子孫は肩の部分だけが白いと言われている。
 話はここで終わらない。
 タンタロスはタルタロスに落ち、未来永劫に続く厳しい罰を受けることになった。
 それは池の中に首まで水につかるというもの。
 喉が渇いて水を飲もうとするとその水はなくなり、 頭上にたわわに実っている果実は食べようとすると枝が遠ざかる。
 この飢えと乾きは永遠に続いた。

ブローマルト『ニオベ族の最期』
 
こんなタンタロスの娘がニオベ。
 彼女は殺されもせず無事に生き延びた。
 兄を殺してタルタロスで罰を受けている父でも、ニオベはそれでも神々の宴席に参加したタンタロスを父として尊敬していたようだ。
 ニオベはゼウスとアンティオペの間に生まれたテバイの王アムピオンに嫁いだ。
 そして彼女はアムピオンとの間に産みも産んだり、男女7人ずつの子宝に恵まれた(人数については諸説ある)。
 自らの美貌と夫婦ともにゼウスの血を引く家系と、優れた子供たち、広大な領土、ニオベの自慢の種はつきない。
 ニオベの自惚れはとうとう自分を女神にたとえるところまで行った。
 そのころ。
 テバイでは預言者テレイシアースの娘マントーが通りを触れ歩いていた。
 マントーはアポロンとアルテミスの母であるレト女神を崇拝せよ、と布教活動をしていた。
 ところがマントーが神殿の中に入るやいなや、ニオベが階に近づいてきて叫んだ。
「なんというキチガイ沙汰なの。レト女神はアポロンとアルテミスの二人を産んだだけ。私はゼウス様の子孫を14人も産んだのよ。私のほうがレトなどより遥かに幸運に恵まれた幸せ者よ」
 このような不敬な言葉をレトはオリンポスの山の上でアポロンとアルテミスとともに聞いていた。
 一般にレトは蜂蜜のように甘い女神のように言われているが、こんな温厚な人でも怒るときは相当怒る。
 レトは早速、アポロンとアルテミスに命じた。
 自分に対する不当な扱いに仇を討ち、アポロンとアルテミス、二人の神格を証明するように命じた。
 アポロンとアルテミスは弓に弦を張り、矢をつがえた。
 二人はニオベの子供たち目がけて、矢を放つ。
 矢は恐ろしい疫病となり、罪のない子供たちは次々と死んでいった。
 突如、身に降りかかった悲劇に激しく意気消沈したニオベは、テバイを去り故郷のプリュギアに戻った。
 悲嘆にくれながらあちこちさ迷い歩きながらの帰国だったが、故郷にいても安息は得られず、毎日亡くなった子供たちを思いながら泣きながら暮らしていた。
 やがてその姿を哀れに思ったゼウスがニオベを石に変え、それは今日もなお涙を流していると言われている。
 


 
 


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