アルテミスの物語A
カリストの悲劇
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ブーシェ「ユピテルとカリスト」
アルテミスは自分の侍女であるニンフたちで一生を処女で過す事を誓わせた。
リュカオンの娘カリストもそうしたニンフの一人。
敬愛する狩猟の女神アルテミスと同じように、流れる髪を無造作に束ね、弓矢を持って森を駆け回る日々を送っていた。
カリストはここで一生、女同士で楽しく暮らすはずだった。
そんなカリストの生き生きと愛らしい様は天上のゼウスの気を惹いた。
夏のある日、仲間の群れから離れて深い森の中で昼寝をしていたカリストに、ゼウスは近づいた。
ゼウスが浮気をするときはたいてい何かに変身するのが殆どだ。
この時、ゼウスは我が子アルテミスに化けて、カリストに近づき、今日の狩猟の様子を尋ねた。
相手がまさしくアルテミスだという事を全く疑わないカリストは、嬉々として答えた。
その時の可愛らしい様子にゼウスは胸に抱いて、正体を現した。
右のブーシェの絵、月型の髪飾りをつけた方がアルテミスに扮したゼウス。
頭上には二人のエロスと、ゼウスの使いである鷲が見える。
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テッツイアーノ「ダイアナとカリスト」
ゼウスに無理やり処女を奪われたカリスト。
彼女はその後もアルテミスの侍女を勤めていた。
ところが、どうしてどうして、この全能の父に愛された女性は、100%の確立で妊娠してしまう。
カリストも例外ではなかった。
ある日の昼下がりの水浴の時間、アルテミスはカリストが衣服を脱がないのに気がついた。
周りのニンフたちが恥らうカリストの服を無理やり脱がしたとき、カリストはもう妊娠9ヶ月になっていた。
そのふっくらとしたカリストの腹を見たとき、アルテミスは美しい眉をひそめて「あっちへ行っておしまい。この美しい森を汚す事は許しません」と言った。
尊敬する女神に決別されて、大好きな狩猟も出来ないカリストは、身重の身体を抱えて森を出た。
そして、カリストの不幸はこれに止まらない。
カリストは一人寂しく、母に似た愛らしい息子アルカスを分娩した。
事のなりゆきを苦々しい思い出見ていた女神ヘラ によって、美しいカリストの姿は熊に変身させられた。
もはや人間の言葉も失ったカリスト。
しかし、かつての乙女心はそのまま。
熊になったカリストは今度は自分が狩人から逃げ回る生活になった。
熊の身の上では子育ても出来ない。
アルカスは、祖父リュカオンに育てられたとも、ヘルメスの母マイアが引き取ったとも言われる。
15年の歳月が過ぎた。
アルカスは母に似て狩猟を好む少年に成長した。
ある日アルカスが森を歩いていると、目の前に熊がいる。
その熊はカリストだ。
カリストは目の前にいる少年が自分の息子だとすぐに気付き近づいた。
しかし、アルカスにしてみればどう見ても熊にしか見えない。アルカスは母とは知らず心臓めがけて、矢を向けた。
ギリシャ神話ではどういう事情であれ、母を殺すのは大犯罪で、その罪を犯すと例外なくウラノスの血液から誕生した復讐の女神に責められる。
しかし、この時天上にいたゼウスが助け舟を出した。
ゼウスは一陣の風を送り、カリストとアルカスを天に輝く星に変えた。それぞれ大熊座と小熊座(北極星)である。
星になってもカリストはヘラの憎しみからまぬかれる事はなかった。
親子ともども、一年を通して夜空を駆け巡る事になった。
続く
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