アフロディテの物語B
愛の女神に愛されて……美少年アドニスの物語

   カラッチ『ヴィーナスとアドニス』
 ミュラの件では少々やりすぎた、と後悔したアフロディテ。
 彼女は生まれたばかりのアドニスを箱に入れると、冥界の王妃となったペルセポネ(デメテルの物語を参照)に預けた。
「あなたに預けましたからね。箱は開けては駄目よ」
 とアフロディテはペルセポネに言った。
 最初は素直に聞いていたペルセポネも、だんだん箱の中身が気になり始めた。
 とうとう好奇心を押さえられなくなって、ペルセポネは蓋をあけた。
 中には美しい男児がいたので、子のいないペルセポネは喜んで、アドニスを慈しんだ。

 アドニスが成長した頃、アフロディテが迎えにきた。
 元々、アフロディテが守護していた家の子供なのだから、当然と言えば当然なのだが、子育ての一番大変な時期を受け持っていたペルセポネは断固として断った。
 二人の女神の争いはムーサの一人カリオペの主催する下級裁判にまで持ち込んだ(ゼウスが仲介したという説もあり)。
 その結果、一年を3つに分けて、1/3をアフロディテと過し、残る1/3をペルセポネと過し、残る1/3をアドニスの好きに過すと言う結論が出た。

 

 


   ピオンポ『アドニスの死』
 
実はアフロディテ、これより前に、息子のエロスをあやしている時にうっかりエロスの金の矢を自分の身体に射してしまっていた。
 その直後に見たのがアドニス。
 アドニスは自分の自由に過しても良い時間をもアフロディテと過した。
 しかしながら、本来アドニス少年はアフロディテといるよりも、狩をしているのが一番楽しかった。
 恋を知るにはまだ若すぎるのだ。
 アフロディテが、危ないから狩は止めて、と言ってもアドニスは聞かない。
 いつもアドニスと一緒にいたいアフロディテが仕方なく、狩に同行する。
 一方、ペルセポネは、この状態を黙って見ていられなかった。
 自分の異母弟で、アフロディテの愛人でもある軍神アレスに相談した。
「アフロディテはあなたをさしおいて、たかが人間の子を愛している!」
 これは相談と言うより、「チクリ」だ。
 数日後、アドニスは狩の最中に、手負いの大猪に襲われて、亡くなった。
 アドニスの流した血から、アドニスの儚い命のような赤いアネモネの花が咲いた。
 そしてアフロディテが流した涙は、真っ赤なバラの花になった。

続く

 ギリシャ神話では、人が亡くなる時は、神の意志が働いている、と考えようです。
 アドニスに手を下したのは、二人の仲に嫉妬するペルセポネか軍神アレス、はたまた恋を疎んじる処女神アルテミスとも諸説があるようです。
 アレスが猪に化けてアドニスを襲ったと編集する本が多いような気がしますが、この事件でメリットがあるのは、実はペルセポネなんですね。
 結局はアドニスは一年を通して冥界で過す事になるんですから。
 




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