古来より、春を告げる代表的な花の一つに「フクジュソウ(福寿草)」があります。「福寿」という縁起のよい名前から正月の飾りとして、栽培もされてきました。未だ花の少ない早春、鮮やかな黄金色の花を咲かせ、群生し目立つことによる園芸採取や、土地造成、管理放棄などの要因によって減少し、環境庁のレッドデータブックでは、絶滅危惧2類にランクされています。
石川県にはフクジュソウ(広義)の野生はありませんが、お隣の福井県には、「北谷町のミチノクフクジュソウ群生地」として勝山市が天然記念物に指定して保護している場所があります。国道157号線を県境の谷峠から勝山市内へ向かって走ると、道路左側の小高い場所にミチノクフクジュソウの自生地を示す立て看板があります。近くに車を止めて、小道を登ると出作りの棚田があります。何段かになった畦の斜面(法面)に多数の株が生育しています。最上段には、地主のKさんの作業小屋があり、畑を作りながら、フクジュソウの保護をされています。近所の保護地ではないところのミチノクフクジュソウは、御多分に漏れず、盗掘の跡が見られますが、ここは、Kさんの管理が行き届いているので盗掘はなさそうです。
この自生地は自宅から70km離れている(山道なので2時間はかかります)のですが、2001年に、延べ5回にわたり見学し撮影したデジカメ172駒、リバーサル51駒の中から厳選して、以下に、ミチノクフクジュソウを紹介いたします。
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| 図2 棚田の法面(のりめん)に花咲くミチノクフクジュソウ(日当たりのよい場所がお好み) |
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| 図3 小群落(2001年4月7日) |
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図4 花(花弁が10枚数えられる)
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図5 萼片は卵形で、黒緑色を帯び、花弁の裏側の先端部は赤褐色を帯びる。萼片は花弁より短い。 |
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| 図6 この写真では1茎に2花 |
図7 集合果は球形(2001年5月12日) |
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| 図8 葉の下面、ほとんど無毛 |
図9 茎の断面は中空 |
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多くの人は、フクジュソウと言えば、一種類と思いがちで、私も昨年まではそう思っていましたが、専門家の研究により、日本のフクジュソウ属植物は3種類であることが明らかにされています。
キタミフクジュソウ Adonis amurensis Regel
et Radde
フクジュソウ Adonis ramosa Franch.
ミチノクフクジュソウ Adonis multiflora Nishikawa et Ko.
Ito
の3種です。
追記:2001年にフクジュソウ属の新種「シコクフクジュソウ」が発表されました。
この3種を簡単に比較してみましょう。(おもに、西川. 1989をもとに編集)
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キタミフクジュソウ |
フクジュソウ |
ミチノクフクジュソウ |
| 染色体数 |
2n=16 |
2n=32 |
2n=16 |
| 分布 |
北海道 |
北海道・本州・
四国・九州 |
東北・中部・九州 |
1茎当たりの
花数 |
1茎1花 |
1茎に1〜多花 |
1茎多花 |
萼片と花弁
の長さの比較 |
萼片≧花弁 |
萼片≦花弁 |
萼片<花弁(図5)
萼片は花弁の1/2〜2/3倍 |
| 萼片の数 |
6〜12枚 |
5〜10枚 |
ほとんど5枚 |
| 花弁の数 |
11〜22枚 |
9〜19枚 |
10〜15枚 |
| 花弁の形 |
長楕円形〜倒卵形 |
長楕円形〜倒卵形 |
長楕円形〜倒卵形 |
| 萼片の形 |
花弁と同じく、長楕円形〜倒卵形 |
花弁と同じく、長楕円形〜倒卵形 |
菱状卵形〜卵形(図5) |
| 花弁の色 |
内側:黄色〜黄金色
外側:紫から黒紫色を帯びる |
内側:黄色〜黄金色
外側:紫から黒紫色を帯びる |
内側:光沢のある黄色
外側:先端部が赤褐色を帯びる(図5) |
| 萼片の色 |
内側:黄色〜黄金色を帯びる
外側:紫色から黒紫色を帯びる |
内側:黄色〜黄金色を帯びる
外側:紫色から黒紫色を帯びる |
内側:黄色〜黄金色を帯びる
外側:緑色から黒緑色を帯びる
(図5) |
| 1果実中の痩果数 |
痩果は緑色で、平均55個 |
痩果は緑色で、平均55個 |
痩果は黄緑色で、平均35個 |
| 果実(集果)の形 |
楕円形〜亜球形 |
楕円形〜亜球形 |
球形(図7) |
| 葉 |
上面無毛、下面密毛 |
上面無毛、下面ほとんど無毛 |
上面無毛、下面ほとんど無毛
(図8) |
| 葉の付き方 |
対生 |
互生 |
互生 |
| 茎の断面 |
中実(茎の中が詰まっている) |
中実 |
中空(図9) |
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図10 松任芽(ミチノクフクジュソウ) 2004年1月4日撮影
石川県の白山市松任には藩政時代から受け継がれてきた「松任芽」と呼ばれるフクジュソウの一品種が知られています。珍しくまた栽培の困難なフクジュソウであるとして大切に育てられてきたもので、毎年、1月の4日・5日に、松任芽保存会の皆さんによる展示会とコンクールが開催されています。
今年(2004年)初めて鑑賞に行ってきました。萼片が明らかに花弁より短いので、「ミチノクフクジュソウ」との見当を付けて、保存会の方にインタビューしてみたところ、花は一つの茎にいくつかつく、茎は中空であるとの回答を得ました。果実についての知見は未だありませんが、ほぼ間違いなくミチノクフクジュソウでしょう。
隣県福井県の勝山市に、ミチノクフクジュソウの自生地があることからして、遠い藩政時代に福井県からもたらされたものである可能性が考えられます。あるいは、石川県にも自生していたかも知れませんね。
追記:2005年3月19日、「石川の植物」の読者のお一人である tadao さんが、知人の栽培されている松任芽の茎を切断した画像を寄せて下さいました。まさに中空で、種(しゅ)としては「ミチノクフクジュソウ」であることを確認できました。tadao さんのご好意で、次に画像を掲載させていただきます。ありがとうございました。
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| 図11 いずれも「松任芽」の茎の断面。中空であることが分かる。tadaoさん 提供 |
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フクジュソウ(広義)の生態については、NHK衛星放送の「植物ふしぎ旅」や花の自然史「パラボラアンテナで熱を集める植物(工藤
岳 著)」に詳しいので、かいつまんで紹介いたします。
フクジュソウは、春植物の中でもトップランナーの類で、その花は、夜間や曇りの時には固く花弁を閉ざしていますが、太陽が顔を出して10分もすれば全開し、おまけに太陽の動きに合わせて花の向きを変えることができるとのことです。早春の林床はまだ寒く、昆虫の動きも活発ではありません。そんなとき、パラボラアンテナのような形と光沢のある花弁とで、太陽熱を効果的に花の中心部に集めて、昆虫に暖を取れるオアシスを提供しているのです。また、温度が高いことは花粉管の成長を促したり、種子の成長を促進する効果もあるようです。
調査(工藤, 1999)の結果では、観察した200花のうち約50%は正確に太陽を追いかけており、太陽の方向からの偏差が90度以内のものまで含めると95%に達し、残りのほとんどは、立木の影にあったり、ほかの植物に邪魔されて花の向きを変えることができないものであったということです。
また、太陽に向けて花を全開させているとき、柱頭付近の温度は外気温よりも6℃近くも高かったが、太陽と反対方向を向いているときには温度の上昇は1.5℃程度にとどまり、花弁をはさみで切り取ってしまうと、太陽の光を真っ正面から受けていても温度の上昇は1.5℃ほどにすぎなかったということです。
フクジュソウに来るハエ類の行動を観察すると、ただ花粉を食べているだけではなく、じっと日光浴をしたり交尾をしているものが多いそうです。フクジュソウは「蜜」を出さないが、「温度」で昆虫を誘っている植物のようです。
フクジュソウ(広義)が本州に比べ身近な植物として感じられる北海道にあっても、リゾート開発や道路拡張工事などで生育環境が急速に狭まってきているといわれます。その原因の一つに環境アセスメントの調査時期の問題があります。調査に入った時期に、フクジュソウやカタクリ、エンゴサク類のような春植物がすでに花の盛りを過ぎたり、地上から姿を消したりしていれば、その存在が知られることなく、環境が破壊されてしまう危険が大きいからです。そういった意味からも春植物に関心をもちたいものです。
日本列島花maps 花の旅「フクジュソウ」(1993年)北隆館には、全国20ヶ所のフクジュソウ見学地が紹介されていますが、広義のフクジュソウでの紹介となっています。紐解いてみますと、ミチノクフクジュソウがかなり含まれているようです。野草を愛する読者の皆さんは、フクジュソウをご覧になる機会が多いと思いますが、これからはシコクフクジュソウを含めた4種の区別を意識しつつ観察されてはいかがでしょうか。
なお、春植物とはどんなものかについては、別館の用語解説〔ここ〕をご覧下さい。
追記1
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ミチノクフクジュソウの新種発表が1989年ですから、現在多くの研究者が拠り所としている日本の野生植物(平凡社.
1982) では、当然区別されずに、「球形または穂状の集合果となる」と記載されています。
長野県植物誌(1997)では区別されており、「これまでフクジュソウとされた種の再検討が必要である」とあります。これが実態ではないでしょうか。なお、同書には「長野県では、北部・中部にフクジュソウ、中部・南部にミチノ
クフクジュソウが分布するとの報告がある」の註も付いています。 |
追記
2 |
2001年 フクジュソウ属植物の新種が発表されました。
「シコクフクジュソウ」です。 |
追記
3 |
従来、岡山県産のフクジュソウとされていたものを、精査したところミチノクフクジュソウであった。また、広島県東部でフクジュソウとされていたものもミチノクフクジュソウと考えられる、との報告があります。(池田 博ほか.2006) |
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| 文献 |
1
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西川恒彦. 1989. 日本のフクジュソウ3種と園芸品種の起源. pp.47-54. 日本の生物3(4). 文一総合出版. |
2
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工藤 岳. 1999. パラボラアンテナで熱を集める植物. 花の自然史. 北海道大学図書刊行会.
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3
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太陽にむかう花 フクジュソウ. 植物ふしぎ旅. NHK衛星放送(放送日不明).
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| 4 |
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牧野富太郎. 2000. 植物一家言. 73. 北隆館.
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| 5 |
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豊国秀夫(編). 1988. 植物学ラテン語辞典. 386pp. 至文堂. |
| 6 |
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河野昭一・林 一彦ほか.2004.植物生活史図鑑2 春の植物2 フクジュソウ:1-7.北海道大学図書刊行会. |
| 7 |
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池田 博・津坂真智子・兼子伸吾・狩山俊吾.2006.ミチノクフクジュソウ(キンポウゲ科)の新産地と核型.植物地理・分類研究54:65-69.植物地理・分類学会. |
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