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ヒカゲイノコズチ(イノコズチ)  Achyranthes bidentata Blume  var. japonica Miq.
ヒナタイノコズチ Achyranthes bidentata Blume  var. tomentosa (Honda) Hara                 
(Amaranthaceae ヒユ科)  

 ほぼ全国的に分布する多年草です。
ひっつき虫(表面に鉤などをもつことにより衣服などによくくっついて散布される果実のこと)としてもよく知られた植物ですが、両者は非常によく似ており、おしなべて「イノコズチ」と思っている人も多いようです。
 「イノコズチ」は、ヒカゲイノコズチの別名ですが、ヒカゲイノコズチとヒナタイノコズチをまとめて「イノコズチ」という場合もありますので、変種としてのわずかな違いではありますが、混同を避けるため「ヒカゲイノコズチ」あるいは「ヒナタイノコズチ」と呼ぶようにしたいものです。
 かくいう私も、近年までその相違点がよく分かっていませんでした。ヒナタイノコズチは「日当たりのよいところに生える」。ヒカゲイノコズチは「木陰に多い」では区別になりません。
 取材をはじめても、両者が1カ所に混生している場合があって、撮影した画像が混線してしまい苦労したときもありました。両者の相違点を取材してみると、いずれも「比較級」なので、どちらか一方だけを見ていると本当のところが分かりません。混生している場合には、かえって比較をするのに都合がよかったりしました。前置きが長くなりましたが、両者の違いをとくとご覧下さい。

 最初に学名の説明から入ります。
 属名の Achyranthes は achyron (籾殻:もみがら) + anthos (花) で、花(果実)の様子が籾殻のようであることから付いています。
種小名の bidentata は bi (2) + dentata (歯) で衣服等にくっつくための2本の刺状の小苞を指しています。
 ヒナタイノコズチの変種小名である tomentosa は(密に細綿毛のある) という意味で、毛の多いことを表しています(図13、15)。ここでも学名の妙を感じることができます。

図1 ヒカゲイノコズチ(2003年9月14日)
図2のヒナタイノコズチと同じ陽当たりの道路脇に生えていた。

図2 ヒナタイノコズチ(2003年9月14日)

 図1・2から明らかなように、ヒカゲイノコズチは花がまばらにつき、ヒナタイノコズチの方は花が密につきます。

ヒカゲイノコズチ ヒナタイノコズチ

図3 花序(花がまばらに付く) 図4 花序(花が密に付く)

図5 花は5枚の花被片、5本の雄しべ、花柱は1個である。見かけ上区別は付かないが、ヒナタイノコズチの方が若干大きい。これは比較級なので、両者を比べた場合に言えることで、単独で見た場合私には区別が付かない。

図6 花を真上から見た。
 5本の花糸がぼやけて見えている。花糸と花糸との間には何やら凸凹の突起が見える。仮雄しべというらしい。画面の中央は雌しべの子房だが、この子房と花糸・仮おしべの間は蜜で満たされている。(ヒナタイノコズチ)

図7 アリが蜜をなめに来ている。はじめ、アリがポリネーター(花粉媒介者)かと思っていたが、地面を歩き回るアリのような昆虫では、他の株の花へ花粉を運ぶことは困難なので考え違いであった。アリは単なる蜜泥棒なのだろう。 図8 ハナアブ(?)のような昆虫が頻繁に訪れるのを観察できたが、私のデジカメでは撮影不可能であった。性能の良い一眼レフデジカメが欲しい。

図9 仮おしべ(ヒカゲイノコズチ) 図10 仮おしべ(ヒナタイノコズチ)
図11 仮おしべ(ヒカゲイノコズチ) 図12 仮おしべ(ヒナタイノコズチ)

 図9〜12は仮おしべの顕微鏡写真です。仮雄しべの形で、ヒカゲイノコズチとヒナタイノコズチの区別ができそうなことをにおわせてある参考書もありますが、それぞれ形は様々で、識別点にはなりません。
 仮おしべは、雌しべの子房と色合いが似ていて、一緒に撮影すると不明瞭になるため、雌しべを取り除いて撮影してあります。

図13 左:ヒカゲイノコズチ  右:ヒナタイノコズチ
 両者を区別するのにもっとも決定的なのは、花軸における「毛の量」と「付属体」の大きさだ。
 そのほか、私だけのイメージでいうと、ヒカゲイノコズチの果実は太めで、小苞のそりが弱く、ヒナタイノコズチの果実は細めで、小苞のそりが若干強いように思われる。ただし、両者を並べて比較した場合のことであって、単独では微妙すぎる。

図14 ヒカゲイノコズチでは付属体が大きく、花軸の毛は少ない。

図15 ヒナタイノコズチの付属体は小さく、ルーペを使っても分からないことさえある。また、花軸に毛が密生していることも特徴だ。

 ヒカゲイノコズチの付属体は大きく、花軸の毛は少ない。ヒナタイノコズチの付属体は小さく、花軸の毛は多い。
 というのが両者の違いではありますが、多いとか少ない、大きいとか小さいなどは比較級ですから、どちらか一方しか見ていないときには判断が付きにくいこともあります。

 とくに、ヒカゲイノコズチの花軸の毛は、ほとんど無いようなもの(図13の左)から、かなり濃い目のもの(図14)までありますので注意が肝要です。

図16 葉の表
左:ヒカゲイノコズチ  
右:ヒナタイノコズチ
図17 葉の裏 
左:ヒナタイノコズチ 
右:ヒカゲイノコズチ

 これも比較級ですが、ヒナタイノコズチの葉の方が緑が濃いのです。この色合いは、言葉で言っても理解は困難ですし、場所が違えば光線の具合が異なるので微妙なことになりますが、同じ場所に両者が生育していましたので比較することができました。なお、図17のように、ヒカゲイノコズチの方が、葉の裏の細脈まではっきりと隆起して見える傾向があります。
図18 葉の表の毛
左:ヒカゲイノコズチ  
右:ヒナタイノコズチ
図19 葉の裏の毛
左:ヒカゲイノコズチ  
右:ヒナタイノコズチ

図20 ヒカゲイノコズチの葉の裏の毛 図21 ヒナタイノコズチの葉の裏の毛

 図20・21は同じ倍率で両者の葉の裏の毛を撮影したものです。
ヒナタイノコズチの方が明らかに長い毛が沢山生えています。これは花のない時期に識別する決定的な区別点となります。

図22 節がふくれているのは虫えい(2001.11.23撮影) 図23 中の幼虫室にはタマバエの幼虫が住んでいる。
図24 大きさは、約2.7mm。
スケールの単位は0.1mm。

 和名の「イノコズチ」は、豕(いのこ:イノシシの子)槌(つち)の意味で、茎の節が図22のようにしばしば肥大していることがあり、それをイノシシの子の膝頭(ひざがしら)に見立てたものだといわれています。(木村陽二郎 1996)
 また一方、イノコズチの漢名「牛膝(ごしつ)」に「いのくつわ」という和訓があることなどから、猪の轡(くつわ)とされていたものが、万葉仮名の「和」を「知」と間違えてイノクツチとなり、さらに訛ってイノコズチとなったという説もあります。(奥津 2000)
 詳しくは下記文献をご覧下さい。

 図22のように節が肥大しているのは、虫えい(虫こぶ)で、カミソリで切断すると中に幼虫が入っています。
 虫えいは「イノコズチクキマルズイフシ」とよばれ、入っているのはおそらく
イノコズチウロコタマバエという「タマバエ」の幼虫でしょう。

文献
木村陽二郎. 1996. 図説花と樹の大事典:p.56. 柏書房.
深津  正. 2000. 植物和名の語源探求:16-27. 八坂書房.
湯川淳一・
桝田 長.

1996. 日本原色虫えい図鑑:p197. 全国農村教育協会.


花模様