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FILE96 クサギ Clerodendrum trichotomum Thunb. |
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| (Vervenaceae クマツヅラ科) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 日本全国に見られる高させいぜい3〜4mほどのお馴染みの落葉樹です。 クサギはもちろん「臭木」の意味で、葉をもむと独特の臭気が漂います。観察会等で葉をちぎって臭いを嗅いでもらうと、たちどころに名前を覚えてもらえるという植物です。 しかし、葉の臭さが強調されるあまり、花が発散するユリに似た芳香には気づかれにくいようです。また、花も果実もとてもきれいです。臭(くさ)いだけではないのです。 属名 Clerodendrum は「運命 cleros」+「樹木 dendron」に由来するそうです。日本語で言えば「運命の木」ですね。はじめ、セイロン島(現スリランカ)の2種類が注目され、それを「幸運の木」「不運の木」と呼んだことから付いたものだそうです。 種小名の trichotomum は「三分岐の」という意味で、花序の枝が3分岐するところから付いています。 |
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| 図1 夏の日を浴びて満開状態。(2003年8月16日) |
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| 図2 花冠は5裂し、裂片は白色。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図3 紅紫色の萼から突き出た花冠の花筒も紅紫色 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 花を見ると4本の雄しべが斜め上方へ突き出しています。一方、雌しべは垂れ下がっています。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図4 この花では、図3とは異なり雌しべが斜め上方へ突き出し、雄しべが垂れ下がっている。 | 図5 この花でも、雌しべが斜め上方へ突き出しているが、雄しべは下方で丸まっている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| クサギの花を見ていたとき、雄しべと雌しべの位置関係が異なる2つの型のあることに気が付きました。いろいろ撮影して帰ってみると、じつは3種類の姿のあることが分かりました。 (1)雄しべが上向き、雌しべが下向き(図3) (2)雌しべが上向き、雄しべが下向き(図4) (3)雌しべが上向き、雄しべが丸まる(図5) そこで、開花の様子を観察してみました。 |
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| 図6 最初に雌しべが顔を出して、垂れ下がる。 | 図7 次に雄しべが、顔を出す。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 開花の順序は、まず雌しべが顔を出して垂れ下がり、ついで雄しべが顔を出し、図3のように上向きになります。訪花昆虫の蝶や蛾などが来ると、花粉は昆虫の体につきますが、自分の花粉が自分の雌しべに付くことはありません。 じつは、このころの雌しべは垂れているだけでなく、柱頭が下の図8のように固く閉じているので花粉を受け入れることはありません。さらに拡大すると、図9のように表面は怪獣の体表みたいにごつごつしています。 図3の時期は[雄花期]です。 |
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| 図8 雄花期は、雌しべの柱頭は閉じたまま。 | 図9 雌しべの柱頭は固く閉じている。表面は怪獣の体表みたいにごつごつしている。 |
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| 図10 雌花期に入ると、雄花期の逆で、雄しべが垂れて、雌しべが立ち上がっている。雌しべの柱頭は花粉を受け入れやすくするために開いている(円内)。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 次いで図4または図10の状態になります。図3とは逆に雄しべが垂れ下がり、雌しべが立ち上がっています。雄しべが垂れ下がっているので、昆虫が来ても花粉を渡すことはできません。ところが図10の雌しべの先端、柱頭にご注目。なんと、ぱっくりと開いているではありませんか。花粉を受け入れる準備ができています。 〔雌花期〕の始まりです。 雌花期の究極の姿が、図5で雄しべは下で丸まっています。 |
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| 図11 雌花期に入り口をぱっくりと開けた柱頭。丸い花粉の他に、ゴミも沢山付いている。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図12 柱頭の外表面に付いた花粉やゴミ。ゴミの中にはギザギザの形から訪花昆虫の蝶などの鱗粉らしきものが含まれる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 雌花期の柱頭には薄紫色の花粉の他にゴミが沢山付いています。ゴミの中には蝶か蛾の鱗粉らしきものも含まれています。この鱗粉を分析できれば、訪花昆虫が分かるのかも知れませんね。最も分析よりも半日ほどクサギの前に座り込んでいれば、訪花昆虫を直接見ることができるでしょう。 それでは、昆虫は何を目当てに訪れるのでしょうか。 |
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| 図13 花冠の花筒の奥に蜜が貯まっている。花筒の内部には毛があって蜜が流れ出さないようになっている。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 萼と花冠の花筒部を切り開いてみると花筒の奥に蜜が貯まっており、花筒の内部には毛があって蜜が流れ出さないようになっています。その毛も花筒の奥(蜜に近い方)にはほとんどなく、先の方に多くあります。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図14 葯の裏側? 花糸の付いている側。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図15 葯の表側? 葯室が裂けて花粉が出ている。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図16 花糸が葯を下から支えているので、花粉の出る面が上になっており、花粉が昆虫の体につきやすい。。 | 図17 花粉は薄紫色。表面にトゲトゲがあるようだが、そこまでははっきりと捉えられなかった。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 雄花期の花では突き出した雄しべの上面に花粉が出るので、蝶や蛾などの訪花昆虫が蜜を吸いに来ると、体にたっぷりと花粉が付くことになります。雌花期の花では雄しべの葯の位置に雌しべの柱頭があるので、体に付けてきた花粉を正確に雌しべの柱頭へくっつけることになります。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図18 葉の裏にはいくつもの腺点がある。 | 図19 腺点の分泌液の拡大。左のぼけは、中央の葉脈に生えた毛によるものである。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図20 分泌液のなくなった腺点を150倍に拡大して観察(画像が150倍ということではない。)。クレーターのような感じである。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 葉は必ずしも揉(も)まなくても「臭い」を発していますが、この腺点からの分泌物によるのでしょう。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図21 対生した葉のそれぞれで葉柄の長さが異なることが多いのも特徴の一つである。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図22 果実の時期には、萼の色は全体に濃くなり、花の時とは違った美しさを醸(かも)し出す。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図23 花の後、萼は濃紅紫色になり星状に開き目立つようになる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| クサギの果実は色鮮やかです。 赤いところは萼(がく)で、藍色から黒色(濃い藍色)の部分が果実です。このように対照的な2色からなっていると、非常に目立ちます。これを2色効果とよび、鳥にアピールしているものと考えられます。 |
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| 図24 藍色の果実を分解したところ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| クサギの果実をつぶすと、かなりの悪臭をもった青い汁とともに3個の種子が出てきました。調べてみますと、これは種子ではなく、「核」(かく)と呼ばれる果実(の一部)であることが分かりました。 雌しべの子房壁は成熟して「果皮」となり、子房の中にあった胚珠(はいしゅ)の育ったものである「種子(しゅし)」を包んでいるのが普通です。 果皮が2層からなる場合には、それぞれ外果皮・内果皮と呼ばれ、内果皮が多汁質である場合には「果肉」と呼ばれます。(ブドウの食用になる部分は「果肉」です。) 果皮が3層からなる場合には、外果皮・中果皮・内果皮と呼ばれ、特に内果皮が硬化していると「核」と呼ばれます。たとえば、モモ(桃)やウメ(梅)の果実では、食用になる部分は中果皮で、その奥に硬い部分がありますが、これが「核」です。この「核」を割ると、中から種子が出てきますね。このように「核」は、「内果皮」の細胞が硬くなって、種子の外側を包んだものなのです。ですから、「核」の部分は、種子ではなく、果実(の一部)であると理解しておかなければなりません。このような「核」をもつ果実を「核果(かくか)」と呼びます。 クサギの果実も中に「核」をもつ「核果」で、つぶすと青い色素を多く含む多汁質の果肉(中果皮)があり、その中に、非常に硬い「核」が1〜4個入っています。クサギはそれぞれ1個の胚珠を持つ4個の心皮(しんぴ:めしべを構成する単位。1または複数個の心皮が集まって雌しべを形作っています。)でできた花なので、本来は「核」も4個できるはずですが、実らなかったものがあったということなんでしょう。 |
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| 図25 核の表面。さざ波のような模様がある。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図26 図25の反対側。凹んでいる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 核の表面には、さざ波のような模様があります。この模様自体もかなり珍しいものですが、裏側(凹んだ側)を見たところ、なんと穴が開いているではありませんか。試みに柄付針でほじってみましたら、次のようになっていました。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図27 深い溝があった。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図28 溝のところで核を横断した | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図29 核の横断面の拡大 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 「核」を溝のところで切断してみると、黒く見える内果皮が種子をくるんでいることが分かりました。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図30 内果皮を取り除いた種子 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| じつのところ、核といわれても、モモやウメとはだいぶ異なるので、多少の疑問があったのですが、こうやって、内果皮が種子をくるんでいるところを見ますと、「種子」のように見えていたものが「果実」(の一部)であることに納得致しました。先人の観察は偉大でした。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 図31 学名の trichotomum 「三分岐の」のとおり、花序は3分岐を繰り返す。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 学名の最初の部分は「属名」と呼ばれ、人の名前で言えば「姓」に当たるものです。2番目の部分は「種小名(しゅしょうめい)」と呼ばれ、やはり人の名前で言えば「名」に当たる部分です。人の名前では、「名」の部分に親の願いが込められていることが多いのですが、植物の学名では、その「種(しゅ)」の特徴が説明されていることが多くあります。 クサギの種小名 trichotomum は「三分岐の」という意味で、花序の枝が3分岐するところから付いています。 普段は花や果実の美しさやその臭いにばかり気を取られていますが、良く注意してみますと3分岐、3分岐が繰り返されています。さすがに学名を付けるほどの学者は細かいところまで観察しているものと感心させられます。 |
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