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ヘクソカズラ  Paederia scandens (Lour.) Merrill                  
(Rubiaceae アカネ科) 

 日本全国どこへ行っても見られるお馴染みの植物です。
 属名 Paederia はラテン語の「悪臭 paidor」に由来するとのことです。和名、ヘクソカズラ(屁糞葛)の名の元になった悪臭です。 その臭気のせいか、かの万葉集ではただ一首しか詠まれていません。

 皀莢(さいかち)に延(は)ひおほとれるくそかづら
   絶ゆることなく宮仕へせむ  
               高 宮王(たかみやのおおきみ)

(サイカチの木にからみまといついているヘクソカズラのように、私はいつまでもお仕えしましょう) 万葉植物事典(北隆館)による。
万葉の頃はクソカズラと呼ばれていたが、後に「屁」も付け加えられたとのことです。

 また、scandens は「よじのぼる」の意味で、つる植物であることを表しています。

図1 藪を覆うように茂っている。というか、自分自身が藪だ。

図2 臭そうな名とは異なり、花は輝くような美しさだ。柱頭が2個見える。 図3 お灸ごっこの材料としてぴったり 

図4 花柄(左)には毛が見え、花冠(右)にはぶつぶつがある。また、萼裂片にも白っぽいものが見える。拡大して観察してみよう。
図5 花冠の外面のぶつぶつは泡のような丸っこい毛が密生しているからだ。 図6 萼裂片の白いものは、この形からいうと、毛ではなくて気孔のようだ。

 「ヘクソカズラ(屁糞葛)」という名前があまりにも気の毒だということで、別名のサオトメバナ(早乙女花)を普及させたいとの声を聞いたこともありますが、ほとんど普及はしていません。きれいな名前と言うだけでは一般的にはなりにくいのでしょう。「名は体を表す」ということもあるように、その名から特徴が浮かび上がるような名がやはり良い命名なのでしょう。私はヘクソカズラが好きです。
 もう一つの別名である「ヤイトバナ(灸花)」は、花の中心部の赤いところを灸(やいと:お灸のこと)をすえた跡に見立てたものとか、あるいはこの花を逆さにして人の肌に伏せると灸をすえているように見える(図3)ことから付けられたとか言われています。

 図説花と樹の大事典には、方言としてヒョウソカズラ、ウマクワズ (千葉)、クソネジラ(三宅島)、シラミコロシ(長野)、ラッパクサ(和歌山)、ヘクサンボ(高知)、テングサンノハナ(宮崎、鹿児島)などがあげられています。皆さんの地方ではどんな呼び方があるでしょうか。

図7 葉は対生 図8 葉柄の根元に三角形の托葉がある

図9 まだ合生していない托葉 図10 未完成の葉間托葉

 葉は対生で、葉柄の基部には三角形の鱗片様のものがあります。これは、左右の托葉(ここ)が合生したもので、葉間托葉または葉柄間托葉と呼ばれています。
 私はこれまで「左右の托葉が合生したもの」という意味が分からなかったのですが、このたびの観察中に未だ合生していない未完成の葉間托葉を見つけることができ、納得できました。


 いよいよ花の解剖です。
花には5本の雄しべがあり、段違いになってごく短い花糸で花冠の筒の内面に付いています。花冠の筒の中には腺毛が密生しています。
 雌しべには2本の長い花柱があり、柱頭は透明な突起で覆われています。

図11 花冠を切り開いたところ。5個の葯と2本のひものような花柱が見える。

図12 花冠の内面には多数の腺毛が生えている。 図13 腺毛の拡大

図14 腺毛に絡まるように雄しべの葯がある。

図15 雌しべの柱頭

図16 雌しべの柱頭のアップ。柔らかそうな突起に覆われている。白く丸いものは花粉。


図17 花冠が落ちたあとには萼が残り、萼に包まれた子房がどんどん発達して果実ができていく。
図18 若い果実を切断すると、中に2個の種子がある。

図19 果実は黄褐色に熟すが、果皮のように見える部分は萼の変化したものなので、偽果皮とよばれる。

 臭気、対生する葉(図7)、葉間托葉(図8)の3点がそろえば花がなくても「ヘクソカズラ」だと同定できます。

蔓(つる)の右巻き・左巻き

 蔓が自分の体の

左側を巻き付く相手にすり寄せるようにして巻き付くのを「
左巻き

といいます。逆に、自分の体の右側をすり寄せるようにして巻いている場合には「
右巻き」といいます。昔から「アサガオの蔓は左巻き」と言われてきましたが、それはこのような見方で「巻き方」を表現した場合のことです(図20)。
 「
右巻き」というのは、時計の針の動く方向へ巻くことを言います。「左巻き」は反時計回りです。アサガオの蔓をその伸びていく方向へ指先でたどってみると指先が反時計回りに弧を描くことでも「左巻き」を理解することができます。

図20 古典的考え方
ヒルガオ(左巻き)
図21 新しい考え方
右ネジの螺旋に沿うような巻き方。
ヒルガオは右巻きとなる

図22 さて、
ヘクソカズラは?

 一方、進歩的(?)な人は、右ネジと同じ螺旋(らせん)を描くのを「
右巻き」と呼ぶのがよいと主張します。普通のネジは右ネジと呼ばれ、ドライバーを時計回り、すなわち、右方向に回すとネジが前へ進みます。この右ネジのネジ山と同じ方向に蔓が伸びているものを「右巻き」と呼ぼうというものです。図21のように、

左下から右上へ(右へ右へと)登っていく場合を、「
右巻き

と呼ぼうということです。この立場を取ると「
アサガオの蔓は右巻き」となります。つまり右左が正反対となってしまうのです。
 最近は後者の考え方が、合理的というかネジの考え方と共通でわかりやすいと言うことで、優勢な傾向がありますが、私は通常、昔習った古典的な(古い)方の立場で考えています。だいたい、植物の蔓を、ネジの螺旋にあわせる必要は全くありません。蔓自身の立場に立つべきです。

 古典的な考え方には、もう一つ大きな利点があります。それは、次のハマヒルガオの花の捻れを見て下さい。時計回りに捻ってありますね。つまり右巻きです。古典派では、このような捻れを右巻きといい、見た目どおりですが、近代派では、この捻れを左巻きといわざるを得ません。近代派は、全く不合理なのです。


 いずれにしても、両方の立場の人が混在している以上、どちらの立場で「
巻き方」を表現しているかということを明言しておかなければ、聞く方は混乱するばかりです。

 いまのところ、
「アサガオの蔓を左巻き(あるいは右巻き)という時」「この植物は○巻きである」というように表現するのが安全だと思います。

文献
木村陽二郎. 1996. 図説花と樹の大事典:402. 柏書房.
山田 卓三.
中嶋信太郎.

1995. 万葉植物事典:212.北隆館.
鈴木  三男. 1994. 週刊朝日百科 植物の世界:
1-286.朝日新聞社.


花模様