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スズサイコ  Cynanchum paniculatum (Bunge) Kitag.                  
(Asclepiadaceae ガガイモ科) 
2007年12月19日 改訂

 石川県の手取川の土手にスズサイコが生えています。
日本の野生植物V(平凡社)には「花は早朝に開き、日が当たると閉じる性質がある。」とあり、「野に咲く花」(山と渓谷社)には、「花は早朝に開き、日が当たると閉じる」とあるので、多くの人はそう信じ込んでおり、私もそうでした。ある時、夕方咲いているというメールをいただき、夕方、自生地へ行ってみました。すでに開花している花や、開花中の花をたくさん見ることができました。ただし、暗くなってくるのでじっくりとは撮影(観察)できませんでした。すべての(あるいは多くの)花が、夕方開花してしまうのかどうかの確認は取れていません。また、早朝に閉じますが、日が当たるとすぐ閉じるということでもありません。[だいたい、早朝に開いて、日が当たると閉じるでは、開花している時間がほとんどありませんから、不合理です。]

 観察には早朝5時過ぎに出かけました。現場まで約30分です。写真撮影をしているうちに閉じ始めるものもありました。まだ7時前です。

 属名は Cynanchum(犬 cyno)+(殺す anchein)で、犬に対して害毒があると考えられていたこの属の一種の古代名。
種小名は paniculatum (円錐形の)の意味で、花序の形からきたもの。また、和名は「鈴柴胡」で、セリ科のミシマサイコに似た姿形をし、蕾(つぼみ)が鈴のような形であるところから付いたといわれています。

 スズサイコを含めてガガイモ科の花は複雑な構造をしており、一見しただけでは何がなんだか訳が分かりません。最低でもルーペが必要です。顕微鏡観察ができれば申し分なしです。今回は、顕微鏡をおもちでない読者のために、スズサイコの花の構造にチャレンジです。

図1 土手の草地の中にすっくと立つスズサイコ。(2003年7月20日午前6時48分)

図2 満開状態。このような赤褐色の花も多い。(2005年7月25日午前6時58分) 図3 草地の中でひときわ高いので、クズが巻き付いている。

図4 満開状態。花の直径は1cm弱。(午前6時28分)

図5 和名は全体がセリ科のミシマサイコに似て、つぼみの形が鈴のようであるところから付いた。 図6 花が開くと花弁の縁が裏へ反り返る。

図7 満開時、花弁の縁が反転しているので細く見える(ストロボ使用)。 図8 よくアリが来ている。

図9 別の昆虫も来ている。 図10 奇妙なものも来ている。ヤスデの仲間か。

図11 もがいているが逃げられない。(8月3日午前6時45分) 図12 花が閉じてくるが、逃げ出すことができない。(8月3日午前6時46分)
図13 花がどんどん閉じるが逃げ出せない(8月3日午前6時49分) 図14 昆虫を包み込んだまま花がほとんど閉じた。(8月3日午前6時54分)
図15 完全に閉じた花に頭を挟まれた別の双翅類の昆虫。(午前8時36分) 図16 足が引っかかってぶら下がってしまった昆虫

 これまでの図15〜17でスズサイコに掴まっている昆虫はそれぞれ別個の撮影ですが、おそらく同じ種類の昆虫だと思います。
スズサイコの花が閉じるのは、かなり速いとはいえ、ハエトリソウのようにすばしっこいわけではなく、10分近くはかかりますので、逃げられないわけはないのに。
図17 身動きが取れない昆虫

 アリをはじめいろんな昆虫が来ており、閉じてくる花の中へ閉じこめられている例を沢山見ることができました。これには何か秘密がありそうです。
図11〜14の昆虫は、花の上でもがきながらも逃げることができませんでした。
図16では引っかかってぶら下がっています。ここにポイントがあるようです。あとで紹介する蕊柱の溝に足を取られて逃げられなくなっていたのかも知れません。

図18 満開の花。花弁と卵形の副花冠は分かるが、中央部分はどんな構造なのか?不思議な形の花だ。

 スズサイコの花は、花冠は深く裂けていますが元のほうでは合着した合弁花です。 内側には卵形に膨らんだ副花冠というものが5個あります。雄しべと雌しべは合体して蕊柱(ずいちゅう)というものとなり、副花冠はこの蕊柱に連結しており、分離することができません。
 蕊柱は雌しべ(2個の心皮からなる)を5本の雄しべで取り巻いてできた筒のような構造です。蕊柱には縦の溝(蕊柱の隙間)が5本あり溝の奥の空間に蜜が貯まっています。

図19 花の縦断面。雌しべは2個の心皮からなり、花柱も2本あるがすぐに合体し、先端は大きな塊となる。

図20 蕊柱の頭部
図21 柱冠表面にある指紋のような模様

 心皮は基部では離れていますが、花柱上部で合着し、塊状となります(図19)。その先端部は「柱冠」とよばれ、表面には指紋のような模様があり、中央はクレーターのようにくぼんでいます(図21)。
  柱冠の脇には白く膜質の葯の付属体というものがあり、葯の付属体の間に、褐色の鋭い嘴(くちばし)状のものが見えます。これは、花粉塊の小球です(図20)。

図22 葯室からするりと出てきた花粉塊 図23 花粉塊
図24 花粉塊(個々の花粉粒が透けて見えている)

 花粉塊は、花粉粒が集まって団子(だんご)状となったもので、弥次郎兵衛(やじろべえ)のような柄の先に2個の花粉塊がつき、柄は嘴(くちばし)状をした褐色の小球に付いています。
 花粉塊そのものは蕊柱の先端部にある葯室(図19)という部屋に入っているので、外部からは見えませんが、小球を引っ張ると、葯室からするりと抜け出してきます。とても小さい(花粉塊の長さ:約0.5mm)ので肉眼ではほとんど識別できません。
図25 花粉塊(スケール0.1mm)

図26 花弁を取り除いて副花冠と蕊柱の溝を見たところ

 次に、蕊柱(ずいちゅう)を詳しく観察してみましょう。
 蕊柱には5本の隙間があります。隙間の元は大きく開いています。蜜が分泌されているとしたら、ここ蕊柱しか考えられませんが、この大きく開いた空間は何でしょう。蜜がこぼれてしまうではありませんか。

図27 蕊柱の溝
図28 蕊柱の溝の刺の拡大図

 この問題はかなり難問です。先ず、蕊柱の溝を見てみます。溝の下部が幅広く、先端へ向かうほど狭くなり、先端へ向かう刺が生えています。

図29 蕊柱の溝の内部。狭くなった部分に蜜が貯まっている。

 溝の内部はどうなっているのでしょう。水平断面で見ると溝の部分では縁が多少内側に巻き込み気味になっています。内部には広い空間があり、奥は突起状に狭くなっています。文字にした場合は分かりづらいので、悪いたとえで恐縮ですが、断面の形が「浣腸器」のようだと言えばイメージできますでしょうか。浣腸器の先端部に当たる狭い箇所に蜜らしきものが詰まっているのが顕微鏡で観察できます(図29)。ここなら狭いので、蜜が分泌されても毛管現象で留まることができ、あまり流れ出さないでしょう。

 思い切って大胆な仮説を立ててみます。
(一部は、近田. 1994 からヒントを頂きましたが、誤っている部分については作者の責任です。何しろ、ポリネーター(花粉を媒介する昆虫)の観察もなしに述べていることなのですから。詳しく観察された方からの正確な情報をお願いいたします。)

 スズサイコへ来た昆虫は、蜜を吸おうとして蕊柱の下部の大きく開いた空間へ吻(ふん:口先のこと)を差し込みます。奥の狭い隙間に蜜があるので、熱心に蜜を吸い、次第に先の方の蜜を吸おうとします。吻が、蕊柱の溝の幅の広い部分へ滑っていきます。先端部の蜜を吸おうとすればするほど、吻は次第に溝の幅のより狭い部分へと誘導されていきます。ここには上向きの刺が生えているので、吻は後戻りができません。先へ先へと一方通行で導かれていきます。最後には、弥次郎兵衛(やじろべえ)のような花粉塊が控えています。先端まで来た吻をさらに先へ進めよう(抜こう)とすると、弥次郎兵衛の花粉塊が引っかかり、めでたく昆虫によって持ち去られ、次の花へ花粉が運ばれるという計算になります。それゆえ、花粉塊を支えている小球は〔捕捉体(ほそくたい)〕とも呼ばれます。
  なお、小球(捕捉体)には、図22・23のように縦方向の裂け目があります。これは、ポリネーターの昆虫の吻を確実に挟み込み、次の花へ花粉塊を運ばせる働きをしていると考えられます。植物の仕組みは奥深いですね。(参考:田中ほか.2006)


 したがって、蕊柱の溝から足を抜くことができなくて捉えられてしまうような柔な昆虫ではポリネーターにはなれないと考えられます。
 以上は、かなり想像を膨らませた物語ですが、いずれ詳しく観察を極めたいと思っています。ただ、私は虫が好きではなく、触るのも苦手なんです。


 話はだいぶ先に戻りますが、図11〜17で、花に捕らえられた昆虫のことを紹介しましたが、この蕊柱の溝に足を取られて逃げ出せなくなっていたのだと考えています。

図30 柱頭に付いた花粉塊

 雌しべの柱頭に花粉(花粉塊)の付いている花を探しました。やっと一つだけ見つけることができましたが、本来の花粉塊が4個、元の位置に残っているのが見えるので、これは5番目の自分の花粉塊でしょう。アリや図10のような昆虫等が歩き回っているうちにくっつけたものらしいが、これで種子ができるのだろうか?
 ガガイモ科は、虫媒花を発達させた進化の一つの頂点に立つ植物群と考えられているとのことですから、この場合自花受粉になりますから、種子はできないかもしれませんね。

図31 未熟の果実(2001年9月8日)

 ここでは花が沢山見られる割には、果実が少ないのです。花粉を運んでくれる昆虫が少ないのだろうと考えられます。今年、3回取材した間に一度もポリネーターになりそうな昆虫を見かけていません。
 アリや図10のような動物では役に立ちません。
(植物は近親交配を避けるため、遺伝子が異なっている可能性の高い他の株の花へ花粉を送り込もうと工夫をしています。アリや図10のような動物は、地面をはい回るタイプですから、仮に花粉を引っかけたとしても他の株まで運ぶことは不可能でしょう。
華奢(きゃしゃ)な双翅類では花に掴まって逃げられない。どんな昆虫が花粉の媒介をしてくれているのでしょうか。

 最近、スズサイコの花弁が広いとか狭いとか疑問に思われている方が多いことを知りました。それは、完全に開花をすると、花弁の縁が反転するため細く見えるからです。スズサイコの名のように、蕾は「鈴」のような形をしています。この鈴を形作っていた花弁が開いた最初は、当然、幅が広く見え、その後しだいに縁が反り返るので狭く見えるようになります。また、閉じるときには、反り返りがほどけて、花弁が幅広く見えるようになります。「花弁が広いとか狭いとか」ではなくて、そう見えるだけです。最後に、夕方、開き始めたときの様子をご披露致します。

図32 夕方開花を始めた花(2004年8月6日午後6時15分撮影)

文献
近田 文弘.  1994. 週刊 朝日百科 植物の世界: 3-68. 朝日新聞社.
木村陽二郎. 1996. 図説花と樹の大事典:p.43. 柏書房.
長田 武正. 1985. 検索入門野草図鑑:8-53.保育社.
村田  源. 1981. 日本の野生植物:3-40. 平凡社.
林 弥栄監修. 1997. 山渓ハンディ図鑑 1 野に咲く花:p.189. 山と渓谷社.
田中 肇.秦野武雄.金子紀子.川内野姿子.北村 治.鈴木百合子.多田多恵子.矢追義人. 2006. Andromonoecious sex expression of flowers and pollinia delivery by insects in a Japanese milkweed Metaplexis japonica (Asclepiadaceae), with special reference to its floral morphology.Plant Species Biology.21:193-199.


花模様