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 ヤマアマドコロ Polygonatum odoratum (Mill.)Druce
  var. thunbergii (Morr. et Decne.) Hara  (Liliaceae ユリ科)

1 ヤマアマドコロについて
 石川県の海岸のクロマツ林下はヤマアマドコロの群生地帯です。びっしりと生い茂っています。
 学名の Polygonatum は「多節」の意味で、根茎が節くれ立っていることを指し、odoratum は「香りがよい」の意味で thunbergiiは「チュンベリー氏の」の意味です。
 和名の「アマドコロ」は、根茎がヤマノイモ科のトコロ(オニドコロ)に似て、甘味があるということから付いたもののようです。

図1 ヤマアマドコロの群落(2003年5月13日)

図2 学名( Polygonatum )どおりに節くれ立った根茎。一つの節が1年間の成長分。

図3 花は葉腋から1〜3個下垂する。この株はたまたま1個だった。

図4  葉は互生する 図5 葉の裏面は粉白色(粉をまぶしたように白い)

葉は葉柄がほとんど無く、互生し、裏面は粉白色を帯びています。

図6 茎の稜(りょう)  図7 茎の横断面 
 
 茎に稜(りょう)があります。よく似たナルコユリは稜がほとんど無くて円柱形なので、茎を触れば簡単に区別がつきます。茎の断面で見るとヤマアマドコロ(アマドコロ)は稜のせいで多角形をしています。文献によっては、「6稜ある」と書いてあるものもありますが、図で見るように6稜とは限らないので、書いてあることを鵜呑みにしてはなりません。

図8 花被の大部分は合着して筒状になっている。 図9 花被の離生部。先端に白い毛が見えている。

図10 花被の先端部の毛(蕾:つぼみ) 図11 花被の先端部の毛の拡大

 花筒は白色で、先が緑色を帯びています(図3・8)。この点、ホウチャクソウに似ています。 花被裂片の先端に毛の束があります。蕾(つぼみ)の時には、この毛の束が花被の合わせ目を塞(ふさ)ぐように見えますが、どんな意味があるのでしょうか、分かりません。

図12 (つぼみ)の縦断面。下手な合成ですみません。分割して撮影した2枚の画像を単に並べただけです。

 雄しべの花糸のほとんどは、花筒と合体していて、先の方でわずかに花筒を離れ、葯が雌しべの花柱を取り囲んでいます。花糸にはきわめて微細な突起があり、ルーペでは何かありそうだという程度しか分からず、形は60倍程度の顕微鏡を使わなければ確認が困難です。

 
図13 雄しべの花糸にある微細な突起(図28:オオナルコユリ、図31ミヤマナルコユリ 参照)

2 ヤマアマドコロとアマドコロについて
 ここまで読み進まれた読者の中には、ヤマアマドコロって何? アマドコロのことでは?  と疑問を挟まれた方もおいでかと思います。ご説明いたします。
 野に咲く花(山と渓谷社)・山に咲く花(山と渓谷社)・検索入門野草図鑑(保育社)等の入門書には「アマドコロ」しか載っていませんが、日本の野生植物(平凡社)、日本植物誌(至文堂)、植物の世界(朝日新聞社)などには3種類の変種が載っています。
 Polygonatum odoratum (Mill.) Druce はヨーロッパからロシア、中国を経て日本までと、広範囲に分布する種で、形態的にも変化に富み4変種に分化しています。
そのうちの3変種 オオアマドコロ(var. maximowiczii)、ヤマアマドコロ(var. thunbergii)、アマドコロ(var. pluriflorum)が日本に生育しています。 それでは、日本に産する3変種の特徴を整理してみましょう。

 
オオアマドコロ(var. maximowiczii)
 大型で茎の高さ60〜100cm、葉の長さ10〜20cm、葉の幅3〜8cm、下面の
小脈上に著しい細突起がある。花の長さは、22〜25mm。本州北部・北海道・南千島、樺太・ウスリーに分布。
 
ヤマアマドコロ(var. thunbergii)  やや大型で、高さ50〜100cm。葉は長さ8〜15cm、下面の小脈上に細突起がある。花は長さ20〜25mm。本州に分布。
  
アマドコロ(var. pluriflorum):高さ30〜60cm。葉の長さ5〜15cm、幅2〜5cm、平滑。北海道・本州・四国・九州に分布。

  となっています。茎の高さや葉の大きさなどは変化が多いので、
決め手は、葉の裏面小脈上の細突起にあるようです。
 しかし、「著しい細突起」、「細突起」など表現は微妙です。

 
石川県の海岸付近でよく見られる個体では、葉の裏の小脈(10本ほどの肉眼ではっきり見える太めの並行する葉脈の間に、ルーペで見なければ分からないような細かい葉脈が数本ずつ存在する)に細かい突起がついています。(図14〜16)。これは肉眼でも白く見え、何かあることが分かります。

図14 小脈上の細突起 図15 小脈上の細突起
 図14のように小脈と小脈の間(地の部分)にも何かつぶつぶがあるので別の角度から観察したのが次の図15です。小脈上の突起に比べると遙かに小さい微少突起であることが分かりました。
 しかし、地の部分の微少突起が見つからない場合もあります。
図16 中央が小脈と小脈上の細突起。小脈をはずれた地の部分のつぶつぶもさらに細かい突起(微小突起)であることが分かる。ヤマアマドコロには気の毒でしたが、表皮を剥いで観察したもの

図17 アマドコロ。低倍率では突起は見つからない 図18 150倍で観察すると小脈上にわずかに突起らしきものが見える

 自宅の庭に長年栽培中の「アマドコロ」を見たところ、高倍率の観察では、小脈上にはわずかに細突起らしいものが見える場合もありましたが、小脈間(地の部分)では微小突起は見えませんでした。
 ヤマアマドコロでも、突起の長いものや短いものなど、また地の部分の微小突起が見えるものや見えないものがあるなど、変化に富んでいます。
 なお、花の長さについては、文献では下記のようになっています。
日本の野生植物 日本植物誌
オオアマドコロ   記載なし 長さ22〜25mm 
ヤマアマドコロ 花筒の長さ20〜25mm  長さ2〜2.5cm
アマドコロ 花筒の長さ15〜20mm 長さ15〜20mm
  (日本の野生植物では花筒となっているが、花全体の長さのようです。)

図19 ヤマアマドコロの花の長さ

 
専門の資料が手に入りませんので推測ですが、アマドコロ、ヤマアマドコロ、オオアマドコロという和名が示すところからすると、おそらく最初に日本で認識されたのは「アマドコロ var. pluriflorum」で、その後、ヤマ○○○○○やオオ○○○○○が区別されたものと考えられます。
 ですから、多分に曖昧(あいまい)で変化の多い「微細な突起」や「大きさ」による区別を認めない(変種を認めない)で、日本のものをすべて最初に認識された「アマドコロ var. pluriflorum」で一くくりにするという立場もあっていいわけです。

 従来の石川県の植物目録では、細突起があるにもかかわらず、すべてアマドコロとして扱っていましたが、私は、
石川県の海岸地帯に多いアマドコロには細突起がはっきりしていますのでヤマアマドコロとして認めたいと思います。
私が認めたからと言って何ら権威はありませんけれども。

 しばしば95cmに達する巨大な個体が見られることも根拠の一つとなっています。

図20 雌しべの柱頭は、葯の列より外に突き出ている。 図21 蜜腺

 雌しべの柱頭は雄しべの葯の輪より外に突き出ています。このままでは自花受粉はできません。昆虫の助けが必要です。雌しべの子房の付け根のあたりに蜜腺があるようで、多くの花ではここが潤っています。もちろん確認のためになめてみました。とても甘かった です。

図22 雌しべの子房の横断。3室からなる。 図23 それぞれの室には胚珠が2列ずつある。

図24 透明な突起をもつ雌しべの柱頭は三角形。

 子房を横断してみると3室からなっているのが分かります。それぞれの部屋に2列になって胚珠(はいしゅ:受精すると種子になる)が並んでいます。雌しべの柱頭には透明な突起がたくさんあって、花粉を受け止めるようになっていますが、よく見ると柱頭の形は3角形をしており、雌しべが3個の心皮からできていることが反映されています。
 胚珠の付き方には、いくつかの型があります。 この画像(図23)から、あなたならどのタイプだと判断しますか?

図25 大学時代の教科書「植物解剖及形態学」からの引用で、胚珠が子房壁にどのように付くかの3型を示したもの。
受精すると1個の胚珠が1個の種子となる。カボチャやスイカのようにたくさんの種子を持つ果実の場合、少なくとも種子の数だけの胚珠が雌しべの子房の中にある。そのため、花のうちから雌しべの子房はかさばって大きく膨らんでいるので、雌花を見つけるのは容易だ。
A:直生胚珠。珠孔(花粉管の胚珠への進入口)が真上を向く。
B:倒生胚珠。胚珠が倒立し、珠孔が下を向く。
C:湾生胚珠。内部の珠心の組織が湾曲する型。
ほかに、半倒生胚珠、曲生胚珠などがある。

 石川県の海岸林でも「松枯れ」が進んでいます。加賀海岸の国有林では枯れた松を切り倒し、重機で引きずり、適当な場所で裁断して処理しています。その際、海岸林の林床は、引きずられた丸太で見るも無惨にはぎ取られてしまいました。その荒れた地表にアマドコロ(じつはヤマアマドコロ)の根茎がごろごろと散乱していましたので、幾つかを拾って帰りました(2003年3月)。それが図2の根茎です。

図26 重機で掘り出されたヤマアマドコロの根茎。茶色っぽい切れ端がすべて寸断された根茎(2003年3月)。

 山菜を扱った書物には、食用になると書いてあるので根茎を試食してみましたが、名前ほどには甘くもなく、美味しいとも思えませんでした。飢饉の時などには食料となるかも知れませんが、普段山菜として食べたいとは思いませんでした。ただし、若葉はもう少し美味しいかもしれません。
 日頃お世話になっている先輩に根茎を試食して頂いたときの感想を次に転記します。

「アマドコロをお汁の具に アマドコロの皮をむいているとき、スムーズにむけたので、トロロみたいと思い柔らかいと思った。ところが短冊切りにするとき、あまり力を入れないで切ろうとしたら包丁が滑って爪を少し切ってしまった。思ったより堅いのです。加熱すると透き通るような黄色になり、風味のある独特の甘さと歯ごたえがあります。加熱しても形が崩れないので、ユリやスズランなどの花型にして、茶碗蒸しや蓮蒸しにすれば優雅かと思う。」

3 似た種類について
(1)ナルコユリ
 角ドコロに丸コユリ  これは、いがりまさし著「野草のおぼえ方(小学館)」で使われているフレーズです。 茎の断面が角張っていればアマドコロ、丸ければナルコユリと覚えるためのキーワードです。
 次の画像(図26)はオオナルコユリです。ナルコユリに比べて大型で、草丈80〜130cm位になります。花は、アマドコロやナルコユリともそっくりですが、茎が丸いので、アマドコロからは区別ができます。
 ナルコユリとの違いは、オオナルコユリの雄しべの花糸が有毛であるところです(図27)。

図27 オオナルコユリ 図28 オオナルコユリの花糸の毛(図13:ヤマアマドコロ、図31:ミヤマナルコユリ 参照)

(2)ミヤマナルコユリ
 ミヤマナルコユリは、高さ30〜70cm位で、茎に稜があるところなどアマドコロに似ていますが、アマドコロでは花序(花の付き方)が縦方向に一列ですが、ミヤマナルコユリでは、花柄が、
腕立て伏せをしたときの腕のように横へ張り出しているので花を見ると簡単に区別ができます。また、花糸には長い軟毛が多いことでも区別できます。

図29 ヤマアマドコロの花序(花が縦に並ぶ) 30 ミヤマナルコユリの花序(花が横へ張り出す) 

図31 ミヤマナルコユリの花糸の毛(図13:ヤマアマドコロ、図27:オオナルコユリ 参照)

4 文献
大井次三郎. 1975. 日本植物誌顕花篇:367. 至文堂.
佐竹義輔. 1982. 日本の野生植物 草本 T 単子葉類:46. 平凡社.
田村 実. 1996. 週刊朝日百科 植物の世界 ナルコユリ:10-114. 朝日新聞社.
いがりまさし. 1998. 野草のおぼえ方 上:222-223. 小学館.
小倉 謙. 1959. 植物解剖及形態学:183. 養賢堂.


花模様