FILE88  アセビ Pieris japonica (Thunb.) D. Don
                      (ツツジ科)

図1 アセビの株。 左の茎はミズナラですが、このあたりの原生の林はアカガシ林です。

 アセビの日本における分布は、日本の野生植物 木本2 平凡社 によれば、本州(宮城県以南、関東・中部地方の太平洋側および近畿・中国地方)・四国・九州となっています。石川県では極めて珍しく、現在野生の確認されているのは、加賀地方の2カ所だけです。
 アセビは万葉仮名では「安之碑」「安志妣」などと書かれるように、古くはアシビと呼ばれていました。漢字名は馬酔木といいます。葉や茎にアセボトキシン(asebotoxin)という呼吸中枢を麻痺させる有毒成分が含まれていて、馬などが食べると、あたかも酔ったようにふらつき、果ては昏睡状態に陥るところから起こったものといわれています。こうした現象を、馬などがアシヒク(足痛)さま、つまり足の不自由な状態にたとえ、これが転じてアシビになり、さらにアセビへと変化したものとも言われています。
 奈良公園にアセビが多いということですが、鹿が他の木は食べるが、アセビを敬遠した結果だろうと言われています。ウシコロシ、シカクワズ、ウマクワズなどの方言もあるとのことです。一方、この毒性を利用して、これを煎じた汁で牛馬のシラミや便所のウジを殺したので、ウシアライ、ダニノキ、ウジハライなどとも呼ばれ、花の様子からはスズラン、チョウチンバナ、ムギメシバナなどの名もあり、春の彼岸の時期に咲くことからヒガンギとも呼ばれるそうです。〔植物和名の語源 深津 正 八坂書房 1989 などを参考にしました。

図2 アセビの花序。花序は枝先につき多くの花を付ける。(2003年3月23日

図3 花は長さ8mm(柄を含まず)ほどの壺型で、先端部ですぼまっている。

図4 小さく開いた口部から雌しべの柱頭だけが見える。 図5 花冠の裂片は5個。花粉の付いた柱頭が見える。

図6 花冠を縦断して中の様子を見ると、雄しべが雌しべの花柱を取り囲んでいるのが分かる。
図7 葯の背面に刺状の突起があって花冠の内部をふさいでいる。花糸には毛が密生している。葯が上下の2段になって配列している。

図8 花の横断。雄しべが10個あり、それぞれの葯の背面に2本ずつ刺状突起がある。
葯のうちの5個が大きく、5個が小さく見えているのがおわかり頂けますか(刺状突起の出る位置を見ると分かりやすい)。図7あるいは図9で分かるように、葯の位置が一つおきに少しずれて上下2段に配列しているからです。狭いところにぎっしりと雄しべを配置するための工夫でしょう。白いものは花粉です。

図9 葯のクローズアップ 図10 葯のクローズアップ。白いのは花粉。
図11 葯を作るそれぞれの葯室から1本ずつの刺状突起が伸びている。 図12 空になった葯。葯の先端(下になる側)に穴が開いて花粉をこぼす。

 壺型の花で、外からは内部の様子が分からないので、失礼して、解剖させて頂きました。
1本の雌しべの周りに10本の雄しべがあり、花糸には毛が密生しています。
狭い花冠の中に10本の雄しべがあるのでかなり窮屈です。図8を見ていたときに、の内の5個だけが大きく見え、あとの5個が小さく目立たないことに気が付きました。関連した図7や図9と照合した結果、花糸の長さに長短があり、従って葯の位置が上下2段になって隙間無く雌しべを取り囲むことができていることが分かりました。
 それぞれの葯には2本ずつの刺状突起が背面に伸びていて、花冠の内部をふさいでいます(図7,図8)。
花の奥にある蜜を求めて昆虫が花の中に口を差し込むと、この刺状突起に触れることになります。そうすると、葯が揺れます。葯は先端部に穴が開いていて花粉をこぼす構造になっています。花が下向きに咲いているので、葯の穴も下を向いています。葯が揺れると、昆虫の顔へ花粉が降り注ぐ仕組みになっているのです。
 この昆虫が次の花へ行って、蜜を吸おうとすると、花粉だらけの顔が雌しべの柱頭へ触れるという段取りになっているはずです。

図13 葯の刺状突起にはさらに細かいトゲがあり、訪花昆虫に触れやすくなっている。

 葯に付いた刺状突起を顕微鏡で見ていると、表面がザラザラしていました。観察倍率を150倍に上げたところ、刺状突起にトゲトゲが付いていました。これでいっそう表面積が増えて、刺状突起に昆虫が触れやすくなるとともに、わずかに触れても引っかかるため、振動しやすくなります。植物の工夫は留まるところを知りません。

図14 萼裂片の間に光ったところが見える。花の中の蜜が透けて見えるのだ。

図15 花の基部で横断してみた。萼裂片の間の花冠の膨らんだところで蜜が光っている。



花模様