FILE84  サギソウ Habenaria radiata (Thunb.) Spreng.                   (ラン科)

 
図1 湿原に咲く野生のサギソウ(2007年8月11日)

サギソウ(鷺草)の名がこれほどピッタリな植物はないでしょう。
しかし、昔は鶴に見立てた時代もあったそうです。『文政12年(1827年)発行の草木錦葉集の中では、青葉のものを双鶴らん、斑入り種を飛鶴らん(一名鷺草)と記しています。さらにさかのぼって、1681年に発行され園芸書としては最古の文献である花壇綱目には「鷺宿、花白、湿気の地を好む也、さぎそうとも云う。」』とあるそうです。『』の中は、グリーンブックス 63 サギソウの観察と栽培 木村なほ 著 ニュー・サイエンス社 1980年 からの引用です。
その花姿の美しさ故に、乱獲の憂き目にあい、加えて湿地開発により、いまでは特別の保護地を除けば、野生の姿を見られるのは極めて限られたところだけになっています。環境庁編のレッドデータブックでは、絶滅危惧2類で、総計2万個体、平均減少率は約60%、100年後の絶滅確率は約99%とのことであります。

野生種は貴重で解剖などできませんので、これ以後のレポートは、栽培種の「銀河」という葉の縁に白い斑の入った品種によるものです。御了承下さい。
図2 花の分解(以下、栽培品種「銀河」による取材です。)

萼片は3枚、花弁も3枚です。花弁のうち上部の2枚(側花弁)は、立ち上がって並び、鷺(さぎ)の尾羽のように見えます。下側の1枚(唇弁)は、大きく3裂し、中央の裂片が鷺の首のように見え、左右の裂片はその外縁が細かく深く切れ込んで、翼のように見えます。 「距(きょ)」は、唇弁の基部の一部が突出したもので、蜜を貯める袋です。図11で見るように貯まった蜜は外からもうかがい知ることができます。 また、ランでは、雄しべと雌しべが合体して蕊柱(ずいちゅう)を作っています。

図3 花の中心部の拡大 図4 枯れ草に付いてきた花粉塊。向かって左側の葯では、すでに花粉が取れてしまっている。
図5 花粉塊が葯から抜け出す瞬間 図6 指先に付いてきた花粉塊

図3は花の中心部をさらに詳しく見たものです。唇弁の基部に距への入り口が見えます。その両側に緑色の枕のようなものが見えますが、これが雌しべの柱頭です。 雄しべは退化して2個の葯(やく)だけになっています。葯の先端部に白い小点が見えますが、これは粘着体と呼ばれるものです。花粉塊に続く柄の先にある粘着質の小粒です。 撮影のためにうっかり粘着体に触ったら、指にくっついて花粉塊が取れてきました(図6。右手人差し指の先に付いたので、撮影には苦労しました)。図4のように枯れ草で触れてみると、粘着体が枯れ草にくっついて、葯から花粉塊がするりと外れてきました。 花を訪れた昆虫(イチモンジセセリ、チャバネセセリ、オオチャバネセセリ、ヤマトシジミなど)が、蜜を吸おうとするとき、粘着体が体に容易に付着して、柄の先に花粉塊を付けたまま運ばれることになります。

図7 キノコのような形の花粉塊。目盛りの単位は 0.1mm。 図8 花粉塊の部分の拡大
図9 ブロックが花粉(花粉集合体) 図10 花粉(花粉集合体)は弾力のある糸でつながっている。

花粉塊を見ると、花粉塊と柄と粘着体からなっています(図7)。花粉塊の部分を拡大すると、いくつもの小ブロックからできていることが分かります(図8)。この小ブロックをさらに拡大すると、いくつもの小体(花粉)の集まり、すなわちこの小ブロックが花粉集合体であることが分かります(図9)。ピンセットで分解しようとしましたが、これ以上は解体できませんでした。 引っ張ると、花粉集合体(小ブロック)が糸を引いてバラバラになりましたが、ピンセットを離すとまた元のような花粉塊に戻ってしまいました。非常に弾力性のある糸でつながっていることが分かります。図10は、引き延ばした両端をセロファンテープで固定してようやく撮影したものです。 このように花粉は強く合体していますので、運ばれる途中で散り散りになることなく、まとまって他の花へ運ばれることになるのでしょう。

図11 距に貯まった蜜を外から見た。 図12 距を縦断。蜜が光っている。  
図13 距の内面の蜜腺。観察倍率60倍。 図14 距の内面の蜜腺。観察倍率150倍。

距をカミソリで切断してみました(図12)。どろりとした蜜が見えます。丸形の蛍光灯を光源に使って撮影したので、リング状の反射があります。切断面を高倍率の顕微鏡で観察すると、距の内面には細かな突起がびっしりとありました。蜜を分泌する蜜腺の細胞です。


図15 サギソウ「翔」

この画像は栽培種をセット撮影したもので、平成12年1月号の表紙を飾ったものです。
昭和55年8月31日に撮影した「翔」と名付けた作品で、お気に入りです。それ以後これに匹敵する作品は撮れていません。つまり、二十何年間、進歩がないということでもあります。

参考文献 木村なほ. 1970. グリーンブックス 63 サギソウの観察と栽培. 3-16. ニュー・サイエンス社.

花模様