FILE82  コオニユリ Lilium leichtlinii Hook. fil. 
            var. maximowiczii (Regel) Baker
   オニユリ Lilium lancifolium Thunb. (ユリ科)

 
図1 コオニユリ (平成14年7月24日 鳥越村綿ヶ滝)

図2 オニユリ (平成13年7月23日 手取川下流)

コオニユリとオニユリについて、こうやって画像で見た場合には、私にはまったく区別できません。
詳細に観察すると異なる点もありますが、微妙であり、ここでは説明し切れません。同じところの方が多いので、本FILEは両種の違いというより、コオニユリもオニユリもこういうものだ、といった観点でご覧下さい。

では、コオニユリとオニユリへのご招待です。

図3 コオニユリの葉の付け根のところ(葉腋)には、珠芽はできない 図4 オニユリでは葉腋に黒紫色の珠芽(ムカゴ)が付く。親株に付いているうちから根を出す気の早いものもある。
いまのところ、オニユリとコオニユリの誰にでも分かる区別点は珠芽(ムカゴ)ができる(オニユリ)か、できないか(コオニユリ)だ。
図5 花弁と萼片が同じように見えるので、「花被片」という。(コオニユリ)
図6 花被片の元の方にある蜜を出す溝の土手(白く写っている)。(コオニユリのつぼみを開いて観察したもの)

花弁が6枚あるように見えますが、花の付け根を見てみると、図5のように、萼片らしいものがありません。萼片と花弁が似たような形をしているのです。このような場合、花被片と呼び、萼片に相当するもの(外側の3枚)を外花被片、花弁に相当するもの(内側の3枚)を内花被片と呼び、全体をまとめて花被と呼びます。

図7 オニユリでは、蜜を出す溝の辺りに突起が沢山見られるが、コオニユリではほとんど見られない。(図はオニユリ)

図8 蜜を出す溝の土手(オニユリ) 図9 蜜を出す溝の土手の奥の方は白い毛が密生する(オニユリ)

花被には黒紫色の斑点が多数あります。花被の内側の基部の方に、蜜を出す溝があり、その土手(図8)の奥には無色の毛があります(図7・9)。この土手の近くに、オニユリでは先端に斑点をつけた毛のような突起が多数見られます(図10)。コオニユリではそのような突起が少ないようですが、その差は微妙です。
図10 突起の先端。(オニユリ) 図11 コオニユリの雌しべと雄しべ。雌しべの柱頭が雄しべの葯に接触している。
図12 葯(やく:花粉袋)からあふれている花粉(コオニユリ) 図13 花粉(コオニユリ)
図14 柱頭(コオニユリ) 図15 柱頭の突起(コオニユリ)

雌しべの柱頭は、花粉が着いたように橙赤色をしていますが(図14)、拡大してみるとゼリービンズのような突起で覆われてブラシのようになっていることが分かります(図15)。花粉を引っかけるための仕組みです。

図16 オニユリの子房の断面 図17 オニユリの柱頭

雌しべの子房を横断してみると3室からなっていることが分かります。各室には胚珠(はいしゅ:種子の元)が2列になって入っていることも分かります(図16)。なお、雌しべの柱頭を真上から見ると、3本の溝を数えることができます。図17で、見にくいですが、中心から、3時の方向、11時の方向、7時の方向にかすかに溝が見えるような気がするでしょう。これは、雌しべが3枚の心皮というものが寄り集まってできているからなのです。
 心皮については用語解説ここをご覧下さい。

図18 コオニユリ(白山スーパー林道)。コオニユリとは思えないくらい巨大だった。


図19 コオニユリ(白山麓。花被の地が無色に近い珍しいタイプ。

図20 加賀市加佐ノ岬の急斜面に咲くオニユリ
 図21 海岸砂丘に群れ咲くオニユリ(松任市の海岸)

 コオニユリは石川県下各地に分布しますが、数は多くありません。石川県レッドデータブックでは、準絶滅危惧に指定されています。
特に、加賀地方の渓谷岩上には、葉の狭い「ホソバコオニユリ」と呼ばれる型のものが分布しています(図18・19)。また、特定の場所では、花被片の地色がほとんど無色の爽やかな感じのものも見られます。図19がそれですが、たいていは切り立った岩壁の高いところにあるので撮影は困難を極めます。

 一方、オニユリは、人里近くに生育します。観賞用に栽培したり、「百合根」として球根を食べることと関係があるのでしょう。ヒガンバナと同様3倍体であるので種子はできません。代わりに葉腋にムカゴ(珠芽:しゅが)(図4)ができて、これがこぼれて繁殖します。自宅のオニユリもかつて、どこかから持ってきたムカゴから育ったものです。
一方、コオニユリにはムカゴはできません(図3)。


コオニユリに関する新たな展開(2003年7月)

オニユリもコオニユリも地中に
木子(きご)を付ける

 前にも述べましたが、オニユリとコオニユリはよく似ています。 私にはほとんど区別ができません。
唯一の頼りは、珠芽ができる〔オニユリ〕か、できない〔コオニユリ〕かで区別している有様です。(種子ができる〔コオニユリ〕か、できない〔オニユリ〕かも区別点ですが。)

 オニユリは石川県では、能登や加賀の海岸付近に多く見られます。壮大な株になりますが、ひ弱な感じの若い株でも珠芽はできています。
 コオニユリは加賀地方の渓谷の岸壁で見られます。ここのものは葉がほっそりとしており、もちろん珠芽はありません。奥能登の日本海に面した岩盤には珠芽ができていないのでコオニユリと呼ぶしかありませんが、加賀地方の渓谷で見られるものと比べるとコオニユリと呼ぶのがはばかられるほどがっちりした太い茎をもつコオニユリが群生しています。先日(2003年7月16日)、取材したのが図22・23です。

 
図22 奥能登の海岸の岸壁に咲くコオニユリ(2003年7月16日)

図23 奥能登の海岸の岸壁に咲くコオニユリ(2003年7月16日)

 この時まことに残念なことですが、多数のコオニユリが引き抜かれて散らばっていました。詳しい経緯は分かりませんが、たぶん球根を採ろうとして引っこ抜いたが、採れずにちぎられたという感じで、数日経過したと見られる十数本の茎が散らばっていました。

図24 ちぎられたコオニユリ

コオニユリの木子
 その断片を観察していると、なんと木子(きご)と呼ばれる無性芽が根の生えているあたりに付いているではありませんか (図24)。 断片の様子からすると地中の部分です。白く小さな木子です(図24の左)。
 中の1株には、赤く大きな木子がありました(図24の右)。地中の木子が何で赤くなるのだ? と大いに疑問でしたが、この株では地中茎(根茎)の一部も赤くなっていました。一見すると赤くない図24の左のコオニユリも拡大してみると図27・28のようにわずかに赤く染まっていました。   この疑問は、「ユリ根」を育てていた時に偶然、理解できました。

図25 購入したなりのユリ根は白かった。(2005年12月25日)

図26 室内に放置しておいたところ赤く色づいてきたユリ根(2006年1月9日)

  2005年の12月25日に、近所のスーパーで「ユリ根」を購入しました。どういうユリが育つかを調べるためでしたが、そのまま玄関に放置し、2006年1月9日になってみたところ、芽も鱗片も赤く色づいていました。うち捨てられていたコオニユリの木子の色と同じです。
  ということは、図24のコオニユリは、引き抜かれてから数日経過する間に、このユリ根のように色素が増えてきたということだったのです。

図27 図24の左下の木子の拡大。木子から真下へ根が伸びているように見えるが、これは木子の根ではなく、コオニユリ本体の根である。 図28 同左をビニール袋に入れて1週間放置した状態。本体の根は枯れかけているが、木子から新しい根が下左の方へ伸びている(根毛が見える)。

図29 親株から分離した木子 図30 木子は葉の付く節の上(葉腋)に付いている

 興味があったので、失礼して被害にあわなかった株の根元を試みにそっと手で掘ってみました。根茎の近くに先ほど見た木子そっくりの小さな個体を見付けました(図29)。しかしこれが、親個体から離れた木子なのか、実生苗なのか分からなかったので、また土に埋め戻して置きました。今考えると、実生苗(若い株)だったら地中に完全に潜っていることはないし、葉が付いているはずなので、これはやはり木子だったのです。
 コオニユリの根茎では、葉は枯れてしまっていますが、葉の付いていた節、すなわち、かつての葉の葉腋に木子が付いています(図30)。
 

オニユリの木子
図31 図21の自生地のオニユリの木子。5個の木子が見えている。

図32 一番上の地表すれすれの所にできていた木子は緑色をして、根も出ていた。最小目盛りは0.1mm

 自宅栽培のオニユリには木子が付いていなかったので、図21の自生地のオニユリで、失礼して、少しだけ根本の土をどかしてみました。5個の木子を見つけることができました。中でも、地表すれすれの位置に付いていた一番上の木子は緑色をして、根も出していました。 地上茎の珠芽が黒紫色であるのと比べて大変な違いです。

ここで、ユリの根を勉強してみましょう。
  コオニユリは石川県では、準絶滅危惧種に選定されていますから、採取ができませんので、自宅で栽培のオニユリの根を見てみましょう。

図33 オニユリの根。この例では木子は付いていない。

 ユリは地下に鱗茎(いわゆる球根)があり、この下部から根(下根)が出るほかに、鱗茎から伸びる茎の地中部分(根茎)からも根(上根)が出ます。
 下根は
収縮根でおもに植物体の安定を図るものであり、2カ年は生育し、上根はおもに栄養の吸収を行うもので、地上茎が枯れるときに一緒に枯れます。
 また、根茎の所々に木子(きご:bulblet)と呼ばれる無性芽がつくことがあります。木子はできやすい条件というものがあるらしく必ず見られるというものではありませんが、オニユリにもコオニユリにも見られます。
 オニユリのように地上茎の葉腋(ようえき)にできた無性芽は珠芽(しゅが:bulbil)とよばれ、木子も珠芽も葉腋にある腋芽が発達してできた
小さな鱗茎と考えられます。
 
 このようにオニユリにもコオニユリにも地下には無性芽(木子)があるので、オニユリとコオニユリの違いを、単に無性芽の有る無しで言うと厳密には間違いということになります。

珠芽(鱗芽ともいう)の有る無しと言うべきなのです。

「石川の植物」の読者の皆様には、根茎に付く無性芽(木子)があることを知っておいて頂きたいと思います。

収縮根とは
 秋になると、古い鱗茎(球根)はしぼんでしまい、その上に新しい鱗茎ができます。このようにして年々鱗茎を上方へ更新していくと、ついには鱗茎は地上へ出てしまうことになります。実際にはそうならずに、鱗茎はある程度の深さの所に留まっています。それは、根が収縮して鱗茎を下へ引っ張る働きをしているからです。このような働きをする根を収縮根といい、根の表面には収縮によってできた横しわが見られます(図34)。収縮根は球根をもつ植物には広く見られるものです。

図34 オニユリの収縮根の拡大


花模様