FILE81  ホタルブクロ Campanula punctata Lam.
  var. punctata
   ヤマホタルブクロ Campanula punctata Lam.
  var. hondoensis (Kitam.) Ohwi (キキョウ科)

 
 学名のCampanula は「小さな鐘」の意味で、花の形からきています。punctata は「細点のある」の意味で、花冠(内側)にある斑点をさすのでしょう。hondoensisは「本土の」という意味でその分布から付いたものでしょう。

図1 ホタルブクロ 萼片の間に反り返る付属片がある。 拡大図(図2)を参照  (平成14年6月27日 加賀市加佐ノ岬)

図2 ホタルブクロ 萼片の間の付属体が反り返っている。 図3 ヤマホタルブクロ 萼片の間は盛り上がっているだけ。

図4 ヤマホタルブクロ  萼片の間がこぶのように盛り上がっている。(平成14年6月27日 加賀市加佐ノ岬)

 ホタルブクロは、山野に見られるキキョウ科の植物で、基本種のホタルブクロ(punctata)は北海道西南部〜九州、朝鮮・中国に分布し、変種のヤマホタルブクロ(hondoensis)は東北地方南部〜近畿地方東部に分布し、同じく変種のシマホタルブクロ(microdonta)は花が小さく、伊豆七島や関東の太平洋岸に分布するということです。
 ここでは、シマホタルブクロのことはさておき、ホタルブクロとヤマホタルブクロについて見てみましょう。


両者の違いは、
萼裂片の湾入部に反り返る付属片があるホタルブクロ
萼裂片の湾入部に膨らみがあるだけで反り返る付属片がないヤマホタルブクロ
とされています。この違いについては、写真判定では特に萼の部分をクローズアップにして撮影していないと分かりづらいことが多いようです。図1・2はホタルブクロで、図3・4はヤマホタルブクロです。

石川県ではヤマホタルブクロの方が良く見られるのですが、このたび加賀市で、わずか2mしか離れていない場所で、両変種を見つけましたので、取材となりました。また、花の色も多くは白です。掲載種一覧にサムネイルで挙げたのは、手取川河川敷で見つけた紫花のヤマホタルブクロです。

 この後の説明は両者を区別しないで、広い意味のホタルブクロとして扱っていくことにします。

図5 開花期の花の奥。雄しべが枯れて縮こまっている。雌しべの位置ははるかに高いのでピントが合っていない(雌花期)

図6 若い花。雄しべの葯が雌しべの花柱を包んでいる。(雄花期) 図7 図6の葯を取り外し、雌しべの花柱を見たところ。細かい突起が無数にあり、花粉が付いている。

図8 雌しべの花柱にある突起の顕微鏡写真。丸いのは花粉。 図9 花柱が伸びて、雄しべの囲みを抜け出す。雄しべはしおれかけている。

図10 雄しべが枯れて縮んでいる。 図11 図10と同じ時期。まだ柱頭は開いていない。

 ホタルブクロの雌しべは花の外には出ていないので、観察のためには、花をのぞき込まなくてはなりません。そこで気が付いたことは、どの花でも、雄しべが枯れて花の底に縮こまっていることでした(図5)。だいぶ探しましたが雄しべの元気な花は見つかりません。
 その時ひらめきました。つぼみを解剖してみよう。
失礼して、つぼみをカッターで切り開いてみました。

 図6のようにつぼみでは、雄しべ(の葯)がすっぽりと雌しべ(の花柱)を包んでいます。わずかな隙間から、雌しべのトゲトゲが見えましたので図7のように、葯を取り外してみました。雌しべの花柱には先端へ向かう無数のトゲトゲがありました。それを顕微鏡で拡大したものが、図8です。花粉がひっかかっているのが分かります。
 この後、雌しべが伸びるので、雄しべの葯から出た花粉が雌しべのトゲトゲにすくい取られることになります。一方、雄しべは次第に枯れ縮んでいきます。
図10のように、開花状態になるまでに、雄しべはほとんど
枯れてしまっています。
このころは、図11のように、まだ柱頭は閉じた状態ですから、自分の花の花粉が、自分の雌しべに受粉するということはありません。

図12 開花期の花の断面。雄しべは枯れている。雌しべの先端部では柱頭が開いている(雌花期)。

図13 雌しべの柱頭は3方向に開く。 図14 雌しべの柱頭

 開花期の花を観ると、多かれ少なかれ、雌しべの柱頭は3方向に開いています。構造上、自花受粉は困難ですから、花の奥にある蜜を吸いに来た昆虫が雌しべの花柱に付いている花粉を身体に付け、別の花を訪れたときに外へ向かって花弁のように開いている雌しべの柱頭に花粉を渡す仕組みのようです。
この仕組みは「キキョウ」でも同様です。

図15 雄しべの根元が折れ曲がりかつ幅広くなり、子房の前面に大きなドーム型の空間を形作る。この空間には、図16・17で見るように蜜が貯められる(若いつぼみを解剖したこの図では、まだ蜜は貯められていない。)。雄しべの花糸同士および雌しべの花柱との隙間は、蜜がこぼれないように(花が下向きに咲くため)、しかも、昆虫が蜜を吸えるように無色の毛の束で塞(ふさ)がれている。驚きの構造だ。

図16 子房前面のドーム型の空間に、蜜が貯まっている。見にくいが、わずかに蜜の反射が見られる。 図17 子房前面のドーム型の空間に、蜜が貯まっている。図15より時間の経った花。

 ホタルブクロの名の由来
 (1) 小兒其花ヲ以て蛍を包む故に蛍嚢の和名アリ。
    牧野富太郎 牧野日本植物圖鑑 北隆館 による

 (2)火垂袋説
  ”火垂る(ほたる)”である。これは”火を垂れさげる”意である。昆虫のホタルの名もこの語源からでている。昆虫のホタルは、尾部の発光器から発する冷光が火をさげたように見えるので、”火垂る”といわれ、ホタルとなったものである。
 ホタルという言葉は、つまり”火垂る”であり、虫名としてはホタル(蛍)となったが、日常語としては”提燈”のことをいったものである。今日でも仙台あるいはその周辺で、提燈のことを”火垂る袋”あるいは”火袋”とよんでいる。
 ホタルブクロの花の形が提燈に似ているので、火垂る袋”とよんだのだと思う。

    中村浩 植物名の由来  東書選書 による

 しかし、(2)の説に対しては、「ホタルをつかまえて花の中に入れ、入口をぎゅっとねじりつぶすと開かなくなるので、よくホタルをつかまえては入れて持ち帰りました。数個の花をつけたものを根もとから折り取って、それぞれにつかまえたホタルを何匹かずつ入れるとピカリピカリと光るたびに、本当に幻想的な美しさです。」等の思い出を持つ人もあり、また、「ホタルをこの花の中に入れて遊ぶのは、田舎の子どもたちが、昔から馴染んだ習慣である(深津正 植物和名の語源探求 八坂書房)」等と、反論も多い。

ちなみに、私は町中の育ちなので、ホタルブクロについての経験がありません。

 実際のところ、「遊びがこの名を生んだ」のか、「この名が子どもに遊び方を教えたのか」?
   長田武正 検索入門 野草図鑑 7 保育社
 
 このホタルブクロの語源に関して、ぜひともホタルを入れてどうなのかを体験してみなければならないと思いました。
 2006年、私は、石川県立自然史資料館の館長となり、新たな勤務先をもちました。この自然史資料館の敷地内に、溝がありそこにホタルが発生するという情報を得ました。2006年6月22日、午後8時頃、外へ出てみると、そう多くはありませんが、ホタルが乱舞していました。
 なんとか、2〜3駒の光跡を撮影することができました。

図18 石川県立自然史資料館で乱舞するホタルの光跡(2006年6月22日午後8時14分)

図19 ゲンジボタルと聞いていたのですが、実際に写真を撮ってみると、ゲンジボタルとヘイケボタルの両者がいました。

 問題は、ホタルブクロに入れることです。翌6月23日、ホタルブクロ(実際は、ヤマホタルブクロ)を採集して、ホタルを入れてみました。
 簡単にはいきませんでした。ホタルブクロの花冠はもろく、すぐに裂けてしまい、「入り口をぎゅっとねじりつぶす」ことは不可能でした。やむを得ず、ホタルを入れた花の口を、洗濯ばさみで閉じました。これではあまりにも不細工なので、別の花では、紐で縛りました。それでも格好は良くありません。

図20 洗濯ばさみで閉じた花 図21 図20を画像処理で明るくしたもの。どういう仕掛けかが分かるが、あまりにも不細工。

図22 暗闇の中で、蛍が光を発するたびに、行灯に灯がともったかのように、ホタルブクロが浮かび上がってきました。とても幻想的な光景でした。画像は長時間露光で、何回かの点灯を合成した形になっています。

 さて、語源に冠する私なりの結論です。
1 ホタルを見つけたときに、都合良くホタルブクロが近くにあるとは限らない。また、暗い中で、うまくホタルブクロを見つけられるのだろうか?もう一つ、その場所での蛍の活動時期とホタルブクロの開花が同期していなければならない、などいくつかの問題点があります。
2 花冠が破れてしまうので、ホタルを入れて、「入り口をぎゅっとねじりつぶす」ことは不可能
3 入り口を縛る適切な材料が簡単に入手できるかどうかが疑問(そこら辺にある草で適当に縛るのは、難しい)

 したがって、私は、「ホタルを入れて入り口をねじりつぶして遊ぶ故にホタルブクロという」説に賛意を表することはできない。単に「ホタルを花の中に入れて遊ぶ」だけというのなら、それも有りだが、すぐにホタルは落ちてしまうので、これにも賛成できない。
 しかし、次の一文には心打たれるものがある。
「少年の日を過ごした遠州の稲田のきわにも、ホタルブクロの花が咲いていた。少女たちはホタルをその花筒に入れ、そのほのかに螢光を放つ袋を、宝石かのごとく両の手で包み、指の隙間から漏れるかすかな光に笑みをこぼした。日は沈んでいた。」(栗田 2003)
 これなら、「ホタルを包む故にホタルブクロという。」説にぴったりの情景である。

 2007年5月31日に「知るほどに楽しい植物観察図鑑」を出版しました(ここ)。その中でホタルブクロを取り上げ、ホームページの内容に追加訂正などを行いましたが、そのすべてをまだホームページには反映できておりません。
 しかし、2007年6月8日の毎日新聞1面コラム「余録」欄で、私のホームページ「石川の植物」のホタルブクロの語源に関する箇所が引用されました。「余録」欄の影響は大きいので、ここをご覧になった読者が石川の植物を訪ねられることもあるかと思い、「知るほどに楽しい植物観察図鑑」から、語源に関する箇所の最新情報をとりあえずイメージでお届けすることにいたしました。詳しくは本書をご購入下さい。


花模様