FILE80  ヒメザゼンソウ Symplocarpus nipponicus Makino (サトイモ科)
                                         
 春を代表する花の一つに「ミズバショウ」があります。大きく美しいのでもてはやされていますが、ほぼ同じ時期に多少目立たない暗紫褐色の仏炎苞を付けてひっそりと咲く「ザゼンソウ」も捨てがたい味をもつ花です。
 ところで、「ザゼンソウ」よりも更に目立たない、ほとんど人に気づかれずに咲く「ヒメザゼンソウ」という植物があります。
 今回は、この「ヒメザゼンソウ」にスポットを当ててみました。
小さくて可愛いんです「親指姫」といった感じですかね。
図1 半ば土に埋まるようにして咲くヒメザゼンソウ(平成13年7月8日:金沢市)

図2 開けた農道の法面の群落地。いまは、ヒメザゼンソウの他にはススキぐらいしか目立っていないが、やがて雑草に覆われてしまう。(平成12年5月5日:金沢市) 

図3 6月、葉が枯れてくる。(平成14年6月16日:鶴来町) 図4 枯れた葉の根元に小さく花が咲いている。(平成14年6月16日:鶴来町)
図5 花のある株を上から見た図。この写真の中で、花(花序)を4個、果実(果序)を1個見つけられたら偉い。 (平成14年6月16日:鶴来町)

図6 土を掘ってみたら、今年の花序と昨年の花による果序とが出てきた。昨年の果序が曲がっていることに注目。(平成13年7月8日:金沢市)

図7 花序のクローズアップ。まさしくザゼンソウのミニチュア版だ。(平成14年6月16日:鶴来町)

図8 花の大きさ。ずいぶん小さい花であることが分かる。 図9 仏炎苞を取り除いた花序。いろんな開花段階の花が見える。(平成14年6月16日:鶴来町)

図10 始めに雌しべが顔を出す。(平成14年6月16日:鶴来町) 図11 雌しべの下側から最初の雄しべが顔をのぞかせている。(平成14年6月16日:鶴来町)

図12 下側の雄しべの葯(やく)が伸びてきた。(平成14年6月16日:鶴来町) 図13 下側の雄しべの葯が開いて花粉を出した。(平成14年6月16日:鶴来町)

図14 花粉。ご飯粒のような形と言いたいところだが、両端が急に細くなった「紡錘形」だ。(平成14年6月16日:鶴来町) 図15 開いた雄しべの葯と柱頭がほぼ同じ高さである。(平成14年6月16日:鶴来町)

図16 次に上側の葯が開いた。(平成14年6月16日:鶴来町) 図17 次は、向かって左側の葯が開くことになりそう。右側の葯は、まだ、顔を出していない。(平成14年6月16日:鶴来町)

図18 いろんな開花段階の花が見える。(平成14年6月16日:鶴来町)

図19 昨年開花した花による果実。(平成14年6月16日:鶴来町) 図20 同じく果実。まだ完熟ではない。(平成14年6月16日:鶴来町)

図21 昨年開花した花による果実果柄が曲がっていることに注目。

図22 ヒメザゼンソウの株。図23のウバユリの株と比べて違いが分かったらすごい。(平成13年4月15日:金沢市) 図23 ウバユリの株。図22のヒメザゼンソウの株と比べて違いが分かったらすごい。(平成14年3月31日:金沢市)

図24 左(下)がウバユリ。右(上)がヒメザゼンソウ。葉の縁の葉脈に特徴がある。 図25 左(下):葉の先端が尖っているのがウバユリ。右(上):葉の先端が鈍端なのがヒメザゼンソウ。
これであなたも、
ヒメザゼンソウとウバユリを葉だけで完全に区別できる。
 
 ヒメザゼンソウは、雪解けとともに地上に姿を現します。しかしこの時期、花は付けずに、葉を展開して栄養を蓄えることに専念しているようです。6月中旬から、葉が枯れて入れ替わるように花が咲き、場所によっては8月上旬まで花が見られます(早い時期に開花するものでは葉を残したままの状態で花が見られることもあります)。そう言えば、キツネノカミソリやナツズイセンもヒメザゼンソウと似たような生活環をとる植物です。
 図5のように、地上すれすれのところで、落ち葉をかぶったりしながらの目立たない花なので、いきなり花を探すのは至難の業です。春、葉を見つけておいて、6月に心覚えの場所を探すといいでしょう。

 花を見ると、暗紫褐色で肉厚の仏炎苞に包まれた花序があります。ミズバショウなどと同じく1本の軸のまわりに花が付いている形(肉穂花序:にくすいかじょ)になっています。4枚の目立たない鱗片状の花被の間から、まず雌しべが顔を出し、次いで下側の雄しべが花粉を出し、上側の雄しべが花粉を出し、左右の雄しべが花粉を出すようです。この順番は、ミズバショウとそっくりです。(ミズバショウについてはここを見て下さい。

 ヒメザゼンソウの花茎は花が終わると下向きに曲がり(図6・21)果序が地面に接した形で冬を越します。果茎を冬の雪圧から守る作戦なんでしょう。種子は翌年の花の頃まで1年がかりで熟するので、花の時期には、花と果実の両方を見ることができます(図6)。

 ヒメザゼンソウの春の姿は、ウバユリととても似ています。図22のヒメザゼンソウと図23のウバユリの画像を見て、その違いが分かる人がいたら、尊敬ものです。
長らくウバユリと混同されていたものを牧野富太郎博士が花に気づき、新種として発表されたと聞きます。

 鳥越村に、両種が混生しているスギ林がありましたので、近くで比べてみることができ、私には区別がつくようになりました。葉の立体感や色合い、光沢でも一応区別がつきますが、個体差があるので、確実に比較できるのは葉脈と葉の形です。両種の葉を重ねて写した図24・25 でご覧のように、ウバユリの太めの葉脈は葉の縁へむかって開放的に展開していますが、ヒメザゼンソウでは、葉の縁の近くであたかも外回り環状線のように、閉じた感じがします。
 

 もう一つの決め手は、葉の先端部の様子です。葉の先端が尖っているのがウバユリ(図25の下、左)。葉の先端が鈍端なのがヒメザゼンソウです(図25の上、右)。この特徴は、実物を観察したときには極めて、素早く明快に分かります。ただし、ウバユリの葉の先端が裏側へ巻いていることが多いので、一見「鈍端」のように見え、写真判定では困難なこともあります。

 あなたの近くにも、意外とヒメザゼンソウがあるかも知れませんよ。



花模様