FILE79  シャガ Iris japonica Thunb. と
      ヒメシャガ Iris gracilipes A. Gray
   (アヤメ科 Iridaceae)                                      

シャガ

 
シャガは中国中部から日本の本州、四国、九州のスギ林や竹林などの林床に見られます。日本には古く中国から渡来したと言われ、3倍体のため種子はできませんが、根茎からほふく枝を伸ばして群生します。
 シャガは、ヒオウギの漢名の射干からきています。そのむかし、射干(ヒオウギ)をシャガと見誤って、シャガに「射干」を当てたのでこういうことになったのかも知れませんね。
 アヤメ属をあらわす「Iris」はギリシャ語の「虹」の意味です。Iris属の植物は、花色の変化が多く美しいので、ギリシャ神話の虹の精「Iris」の名をもらったといわれています。

図1 シャガの群落

図2 シャガの花。橙色と青紫色に彩られた外花被(萼に相当)。先端が二つにくびれた内花被(花冠に相当)。先端がふさふさになった雌しべがそれぞれ3個ずつ見える。
 

図3 外花被片を折り曲げて見たところ。雌しべの裏側(下側)に雄しべの葯が接している。

図4 開きかけた花

図4を見ると、多くの花に見られる緑色の萼が見えません。
このように萼と花冠の区別がはっきりしないものでは、萼に相当する外側のものを外花被(片)、花冠に相当する内側のものを内花被(片)とよびます。それぞれ3枚ずつあります。

外花被(片):シャガでは大きく、橙色や青紫色の斑点があり、目立ちます。

内花被(片):外花被(片)より小さく、長楕円形で、先が浅く2裂しています。

図5 雌しべの全体(内外の花被と雄しべを取り外して見たところ)。

雌しべの形はとても興味深いものです。
子房の先にある花柱は上部で3本に分枝しています。このような分枝した部分を花柱枝(花柱分枝)といいます。
分枝は花弁状で裏側(外側)上部に柱頭があり、その先はさらに2分し、さらに細かく裂けて賑やかになっています。

図6 花柱枝の先端(柱頭部)の外面観および付属体。半月形の柱頭部の内側(花柱枝と付属体に挟まれた形で)に図7のような柱頭がある。 図7 柱頭部の内面観(このブラシ状のところが柱頭)

柱頭部は図2で見るように、ちょうど雄しべの葯を傘(かさ)で覆うような位置にあり、先端部分は、スプーンのようになっていて、背中に花粉をつけた昆虫が花を訪れたときに、背中に付いた花粉をかき取ることができるような仕組みになっています。
柱頭には、歯ブラシのように突起が密生していて、花粉をかき取るのに都合の良い構造になっています。まさに「造化の妙」としか言いようがありません。

図8 外花被片に付いている「とさか状」の突起。

このような「とさか状」の突起を持つものは、シャガやヒメシャガで、「とさかのあるアイリス」と呼ばれています。

図9 葉の基部。外側の葉の間から、次の葉が出ている。 図10 葉の上面が、内側に折りたたまれるように合わさっている。

葉は裏表が良く分かりませんが、結論から言えば、すべてが「裏」だということになっています。
ちょうど、1枚の葉が、折り紙を折るように内側に折られ、おもて面同士がくっついてしまっています。
そのため、外側はどちらも「裏」になるわけです。図10は、無理矢理開いて折りたたまれた「表」を見たところですが、表が見えるのはここだけで、 あとは完全に融合しており、分離することはできません。 
こういう葉を
単面葉 (たんめんよう:unifacial leaf) といいます。 ネギでは、この部分が円筒形になっています。

図11 葉は一方に倒れる。 図12 左:生態上の裏。右:生態上の表。

先に「葉は裏表が良く分かりません」と言いましたが、よく見ると表・裏の区別があります。
図12のように、本来はどちらも「裏」であるのに、生態的に「裏」と「表」の違いがあります。
生態上の表の方が光沢が強いので、丁寧に見ると、生態上の表と裏を区別することは容易です。

なぜこのようなことになるのでしょうか。
シャガの葉は、一方に傾いて倒れているのが特徴です。
このとき上側になっている方が「生態上の表」で、光沢が強いのです。表皮細胞の「クチクラ」が厚いからです。ヤブツバキやタブノキ等、クチクラの厚い照葉樹の葉の「表」「裏」と同じと考えて良いでしょう。
図13 生態上の表。気孔はほとんど無い。 図14 生態上の裏。気孔が多い。

生態上の表と裏には、もう一つ決定的な違いがあります。
生態上の裏には図14のように気孔が沢山見られるのですが、生態上の表では、図13のようにほとんど気孔がありません。

前に、「シャガの葉が一方に傾いて倒れる」と言いましたが、そのとき「下になった方に「気孔」が発達し、上面になった方には発達しません。若葉のときに働く重力が二次的に表裏を決定し、気孔は生態上の裏面(下面)にしかない。」ということでしょう。(図解植物観察事典 地人書館)による。

シャガについてさらに、詳しく知りたい人は「カネゴン先生の植物教室」もご覧下さい。


ヒメシャガ

図15 形はシャガに似ているが、小型で花色も異なる。

図16 光沢のない葉が、シャガのように傾き垂れる。 図17 外花被片には、シャガのように「とさか状」の突起がある。

図18 柱頭の付属体は大きく2つに分かれ、それぞれはさらに細裂する。葯が柱頭の下で開くなど基本的構造はシャガと同じ。

図19 雌しべの柱頭付近。外面観。 図20 雌しべの柱頭付近。側面観。
図21 柱頭部分の拡大 図22 ヒメシャガ(左)とシャガ(右)の柱頭部分の比較図。

図23 雌しべの全体。シャガと同じ構造。 図24 果実。直径約8mm。

図25 ヒメシャガの花 図26 シャガの花

図27 気孔。葉の上面。 図28 気孔。葉の下面。
気孔は、横向きの楕円形で白い部分。上面(図27)には9個、下面(図28)には10個見える。観察倍率150倍。

ヒメシャガは、北海道南西部から九州北部にかけて分布します。石川県内でも広く分布し、山道の側や崖の岩盤上に生育しています。シャガとよく似ていますが、小型で、繊細なところから付いた名でしょう。
ヒメシャガは、国のレッドデータブックでは準絶滅危惧、石川県のレッドデータブックでは絶滅危惧U類にランクされています。 絶滅危惧植物なので採集は控えなくては、と困っていましたら、幸か不幸か登山者がちぎって投げ捨てた茎があったので拾って取材できたものです。
シャガと違って夏緑性なので、冬には葉が枯れます。小型で葉の幅は5〜15mm、葉に光沢がなく、一つの花茎に直径4cmほどの花を2〜3個しか付けません。直径5cmほどの花を多数付け、光沢のある幅広の葉を持つシャガとの識別は容易です。

葉の生態上の「裏」「表」については、シャガと異なり、外見の観察では区別が付きません。顕微鏡で観察したところでは、どちらの面にもほぼ同じくらいの気孔が分布しており、この点からもヒメシャガの場合には、葉に生態上の「裏」「表」は無いと判断しました。

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