FILE77  シャクチリソバ Fagopyrum cymosum Meisn.
               (Polygonaceae タデ科)

図1 シャクチリソバの花。5枚の萼、8本の雄しべ、3本の花柱、8個の蜜腺からなる。白・赤紫・黄色の取り合わせが実に美しい。(2001年11月26日撮影)


図2 大株

図3 河川敷に広がる大株の群。それぞれの株がこぶのように盛り上がっている。(2002年10月3日撮影)

図4 早春、前年の株のあったところは枯れ枝が残って蟻塚のようにこんもりとしている。(2004年2月21日)

図5 枯れた枝のかたまり 図6 こんもりとした枯れ枝を取り除くと中は案外ガランとしている。
図7 根本には冬を越した芽が見られる。 図8 枯れたように見えていた枝でも、折れ口が青々していてまだ枯れていないものが沢山見られた。

 情報によれば、シャクチリソバにはアレロパシーがあるらしい。道理で株の下にはほとんど他の植物が生えているのを見ることができませんでした。これまで非常に葉が茂っているため、暗くて他の植物が生えることができないのだと思っていましたが、アレロパシーということになると、シャクチリソバに対する見方もまた変わってくるように思います。
 冬枯れの株の根元を探ってみますと、図6・7のようにガランとした空間が残っております。
 しかし、株は枯れたわけではありません。図7のように冬越しの芽もありますし、茎の中には枯れたように見せかけながら、内実は青々としているものもあります(図8)。

図9 自宅のシャクチソバで枯れ枝をまくって根元を見た。
図の中心で少し暗いところが株の中心。スイセンが株の根元に生育しているのが分かる。右手のオモトには朱色の果実も見える。(2004年2月29日)

 2001年12月に、現場から株分けして自宅で栽培している株は、2004年2月時点で、枯れ枝をもとに測定しますと長径2mにまで育っており、やはり根元はガランとしているといいたいのですが、じつはスイセンとオモトが茂っています。ほかのものは見られません。まったくアレロパシーを感じさせない生育ぶりです。この両種はアレロパシーに強いのでしょうか。仮に強い植物でも、シャクチリソバの根元はとても暗いので補償点の高い(明るいところでないと育てない)植物では、生育は困難です。幸いにして、オモトは暗い樹陰を好む植物ですし、スイセンの葉はシャクチリソバの葉が茂る頃には枯れるという性質を持っていますので、平気なのでしょう。

 昨年、シャクチリソバにアレロパシーがあるとの情報を頂いたのですが、私にはどうも納得がいきません。図9のオモトやスイセンの例もそうです。そこで、今年(2005年2月)現場を探索してみました。すると、シャクチリソバの枝張り(?)の下にはいろんな草が生えていました。
 こんなにいろいろな植物が生えることのできるシャクチリソバのアレロパシーとはどのような仕組みなのか。じつは、アレロパシーが作用しやすい植物や、平気な植物もあったりするので、なかなか簡単ではないようです。

 次の図は、シャクチリソバの枝張りの下に生えていた植物の例です(2005年2月18日)。当然のことですが、シャクチリソバの最盛期にはビッシリと葉が茂り、暗くなりますから、ほとんど何も生えることができません(オモトだけは年中あります)。

図10 枯れた枝のかたまり。この枯れ枝の下にいろんな植物が生えている。(2005年2月18日)

図11 ヤハズエンドウ(多分) 図12 コハコベ(多分)

図13 カキドオシ 図14 セランダイン(花はここで

図15 カタバミ 図16 ヤエムグラ
図17 オランダミミナグサ 図18 ヒメオドリコソウ

図19 自宅のシャクチリソバ。枯れ枝の間からナニワズが見えている。(2005年2月19日)


 
アレロパシー(Allelopathy、他感作用):植物の生産する化学物質によって、ほかの植物や微生物が直接的あるいは間接的に影響を受けること。
 セイタカアワダチソウが荒れ地に繁茂するのをよく観るが、セイタカアワダチソウのもつポリアセチレン化合物が他の植物の発芽や生育に害を与えるからだと言われている。また、この物質が土壌中に貯まりすぎるとセイタカアワダチソウ自身の発芽も害を受けるとも言われている。

駒井功一郎. 1998. 雑草の自然史 ハマスゲにおける他感作用. p114.北海道大学図書刊行会.
浅川征男. 1994. 週刊 朝日百科 植物の世界 セイタカアワダチソウの”爆発力”. 1-120. 朝日新聞社.

図20 花序

図21 蜜腺(中央は子房) 図22 蜜腺から蜜が出ているところ

図23 港の「もやい杭」。蜜腺の形と似ている。 図24 果実。3稜形。学名のように、ブナの実と似た形をしている。(2003年11月14日撮影)

 シャクチリソバは漢字で「赤地利蕎麦」と書き、牧野富太郎博士が本草綱目の「赤地利」なる植物がこれに当たるとして命名されたとのことです(資源植物事典による)。
 Fagopyrum(ソバ属)に属するのですが、「FagopyrumはFagus(ブナ属)+pyros(穀物)に由来する」と言うことです。それはもちろん果実(痩果:そうか)が、図24のように三稜形で、ブナの果実(堅果:けんか)に似た形をしているから付いた名です。また「fagusは、ギリシャ語のphagein(食べる)に由来する」とのことです(植物学ラテン語辞典による)。
 今回取材のものは、勤務先の近く、伏見川の川原です。直径1mを超す大株がいくつも生えています(図2・3)。ここは降雨後の増水ですぐに冠水してしまうような場所です。花は直径5〜6mmで、白い萼(5深裂)からなり、近くで見ればとても美しいのですが、そばまで行かないと目立ちません(図1)。
 花のつくりとしては、花冠(かかん)と萼(がく)を合わせて花被(かひ)と呼びますが、タデ科の花は花冠が無くて萼だけなので、花被とは言わずに萼と呼ぶこともあります。雄しべは8個、花柱が3本に分かれた雌しべの基部には8個の蜜腺(腺体)があります。蜜腺は小さくて先が曲がっています(図21・22)。港で船のもやい綱をかける「もやい杭」(図23)と似た形をしています。

図25 地下茎は、塊根状となって冬を越す。 図26 不定根。茎は横に這いながら不定根を出して広がる。

図27 不定根が根付いた
右から左へ伸びた枝が地面に触れるところで、発達した不定根が土中へ出ていた。土が付いていて見にくいが、いずれこの箇所に新しい塊茎ができるという。

図28 塊根状の地下茎が枝分かれし。新しい茎をたてて大株に育つ。(2003年11月1日金沢城址公園)

図29 葉 図30 托葉鞘

図31 2005年2月の芽出し。(2005年2月18日)
 例年のことだが、シャクチリソバの芽出しを見に行った。はっきり芽出しと分かるのは一つだけで、それもかなり痛んでいた。

図32 2004年2月の芽出し。(2004年2月21日)
多数のアブラムシが付いている。こんな時期にもう活動しているアブラムシのたくましさに驚いた。
 この場所は、勤務先の近くの川原だが、ちょうど橋の下に当たるので、積雪が少なく早々と芽出しをしているもので、他の株ではまだ芽出しは見られない。これがもう少しほころびると次の図33のような姿になる。

図33 2004年の芽出し。(2004年2月14日)
巻き込んでいた葉が展開する様子がはっきり分かる。
図34 シャクチリソバの芽出し:川原の砂の中から、新芽が顔を出した。血液がみなぎっているような力強さがある。下方にボンヤリ写っているのは1目盛1mmのスケール。(2003年2月10日)

 ソバ(1年草)と違って多年草で地下茎は太くたくましく(図25、別名:宿根蕎麦と呼ばれます)、多数の茎を叢生します。茎は割に丈夫で、茎を引っ張ると地下茎との境でちぎれることが多く、思いがけず長い茎がとれてきます。茎は立つほかに不定根(図27)を出して地表を這いながら広がり、全体として大きな株を構成します。葉は互生し、5角状(図29)で一度見たら忘れられない特徴があります。他のタデ科植物と同様に鞘状の托葉(托葉鞘:図30)があります。   
 インド北部から中国大陸にかけて分布する植物で、中国では種子は穀物として、若芽や若葉は野菜として食べられるとのことです。我が国では、血管を丈夫にすると言われるルチンを含むということで薬用に栽培されたものが野生化したと考えられています。
 第6回国際ソバシンポジウムの講演要旨では、葉緑体DNAの研究から、栽培ソバとダッタンソバが、おそらくシャクチリソバから独立に分化したものであろうと示唆されています。(2004年2月現在、この講演要旨はWEB上では閲覧できなくなっています。)

    

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