FILE30 ナンバンギセル  Aeginetia indica L.
           (Orobanchaceae ハマウツボ科)
学名は日本の野生植物(平凡社)によりました。
         図1 ナンバンギセル
図2若いつぼみ 図3 花             図4 若い果実    

 夏の終わり、ススキの原で、キセルのような形をした奇妙な植物を見ることがあります。それがナンバンギセル(南蛮煙管)です。家で栽培した経験では、ススキの他に、ミョウガにもよく寄生していました。南蛮人の煙管とは実に巧みな命名ですね。ススキの根などに寄生して、一切の栄養分をススキに依存している寄生植物です。
 万葉集に「
道の辺の尾花がしたの思ひ草 今さらさらに何をか思はむ  作者不詳 (巻11-2270)」(山田卓三・中嶋信太郎.1995)と歌われていますが、ここで言う「思い草」は、ナンバンギセルのことだとされています。ススキの陰で慎ましく、小首を傾げてものを思っている佳人のイメージでしょうか。
 歌の意味は、「道ばた」に生えるススキだけを頼って生きているナンバンギセルのように、私はあなた一人を頼りに生きているのですから、今さら、何一つ考えることはありません」(清水 清.1984)という意味だそうです。万葉人が、ナンバンギセルとススキとの関係を知っていたということは、すごい観察力だと感心いたします。
 ナンバンギセルは、石川県では比較的珍しいものです。この写真は、小松市のある溜池のほとりのススキ草原に多産していたものです。その後、すぐ近くを産業道路が通ることとなり、ススキ草原の大半が失われるとともに、ナンバンギセルは残念ながら絶滅してしまいました。

図5 完熟した果実(2007年10月13日)

 先の自生地が消滅して以来、長らく見ることのできなかったナンバンギセルを、今年は、地元の人に教えて頂き、加賀と金沢で数年ぶりに見ることができました。種子が非常に小さいことが分かっていましたので、顕微鏡で観察してみました。それは、驚くべき姿でした。

図6 完熟した種子

 果実には、細かい粉のような小さい種子が詰まっていました。図6は透過光で観た種子ですが、長径で約0.3mmという小ささです。

図7 完熟した種子の表面。表面はいくつものブロックに分かれているように見えるが、いくつもの筒が並んだ構造である。

図8 種子の縦断面。
 種皮は、左下の画像のようにいくつもの筒が束ねられた構造であり、その壁は、右上の画像のように網目構造である。

図9 種皮の網目。種皮を構成する網目を高倍率で観察したもので、隙間だらけであることが分かる。

 拡大して観ると、種皮は、いくつかのブロックに仕切られていますが、それは、いくつもの筒が束ねられた構造であることが分かります。そして、それぞれの筒の壁が網の目になっています。
 私は、この構造は、種子がストンと地表へ落ちるのではなく、
風を受けて、複雑に舞い上がり、散布されるのに役立っているのではないかと考えていますが、もう一つの可能性として、「ナンバンギセルの種は寄主特異性があって、ススキの根からの分泌物によって発芽が促進されるという。」(清水 清.1984)という現象、すなわち、ススキの根からの分泌物を有効に捉えるスポンジのような効果があるのかも知れません。しかし、解明はアマチュアの手には負えそうにありません。
 それにしても、
興味深い特異な表面構造です。こんなふうに進化してくる道筋が不思議でなりません。

文献

山崎 敬. 1981. 日本の野生植物 3:134.平凡社.
清水 清. 1984. グリーンブックス 107 寄生植物の観察:64-65.ニュー・サイエンス社.
山田卓三.
中嶋信太郎.
1995. 万葉植物事典:158. 北隆館.

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