FILE28 ミソハギ Lythrum anceps (Koehne)
Makino
(Lythraceae ミソハギ科)
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| 図1 ため池の畔に群れ咲くミソハギ |
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ミソハギ科の多年草。夏の日、水田の畦や水辺で花を咲かせています。ちょうど旧暦のお盆の頃に咲き、仏前に供えられるのでボンバナ(盆花)とも言われます。ミソハギの名は、花穂に水を含ませて供物に水をかける風習が、禊を連想させるところから、ミソギハギ(禊萩)と呼ばれ、それが変化したものだとの説もあります。
植物の世界(朝日新聞社.44巻)には、精霊棚に水をかけるのに使われるのでショウリョウバナ、ミズカケグサの別名があると記載されています。
ミゾハギ(溝萩)と呼ぶ地方もあります。あなたの所では、何と呼びますか?
「供物に水をかける風習について、江戸中期の国学者天野信景は、昔の医書にミソハギが喉の渇きを止めるのに効くとあるので、亡者の渇きをいやすために、この草で水をかけるのではないかと述べている。」(図説 花と樹の大事典 柏書房)とあります。ミソハギに関わる風習をご存知の方は、情報下さい。
みそ萩や 水につければ 風の吹く 一茶
ミソハギの学名、Lythrum anceps のLythrumは「血」を表しています。花の色が、血のように赤いことからきているのでしょうか。
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| 図2 萼片と付属片。萼裂片間の付属片は横に張り出す。 |
図3 葉の並びを上から見た。十字対生である。 |
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| 図4 茎は4稜形。葉は対生で、茎を抱かない。 |
図5 葉の裏面の気孔 |
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| 図6 茎の断面の顕微鏡写真 |
図7 茎の角を作る細胞層 |
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| 図8 6稜形になった茎の片側 |
図9 6稜形になった茎の反対側 |
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エゾミソハギに似ていますが、葉の基部が細くなり茎を抱かない(図4)、茎に毛がない(図4)(エゾミソハギにも毛のほとんど無いものがある)、萼裂片間の付属片が横向きに開く(図2)などの点で区別することができます。残念ながら、石川県にはエゾミソハギが分布しませんので比較画像を載せることはできませんが、カネゴン先生の植物教室
(ここ) をご覧下さい。
茎は4稜形ということなので横断して見ました(図6)。確かに丸くはありませんでしたが、外から見たほど角張ってはいませんでした。角張って見えるのは、角のところに襞(ひだ)のような細胞層があることによるようです。角の部分に爪を立てると、その襞の部分が簡単に浮き上がってきました(図7)。
なお、4稜形というのは絶対的なものではなく、6稜形の部分もありました。図8・9は茎の同じ部分を両側から撮影したもので、各側に3面あるので6面6稜になります。ちょうど、鉛筆のようなものをイメージすると良いでしょう。太い茎の根元の方では丸とまではいかなくても、もっと多角形になっていることもありました。 |
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| ミソハギの花には三つの型がある(異形ずい性) |
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| ミソハギの花には、雌しべの長さ(花柱の長さ)と雄しべの位置の関係から三つの型があります。 |
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| 図10 長花柱花の花序 |
図11 中花柱花の花序 |
図12 短花柱花の花序 |
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| 三つの型とは |
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長花柱花
雌しべが、長い雄しべと短い雄しべのいずれよりも長い
中花柱花
雌しべの柱頭が、長い雄しべと短い雄しべの間にある
短花柱花
雌しべの柱頭が、長い雄しべと短い雄しべのいずれよりも奥にある
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| さて、図10〜12は、それぞれの花序をアップにしたものですが、長花柱花以外ははっきり分かりませんね。実際に野外でミソハギを見た場合もはっきりしません。そこで超クローズアップで確認してみましょう。 |
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| 図13 長花柱花の外観 |
図14 長花柱花の解剖 |
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| 図15 中花柱花の外観 |
図16 中花柱花の解剖 |
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| 図17 短花柱花の外観 |
図18 短花柱花の解剖 |
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ミソハギの花の三つの型は丁寧に探さなければ見つかりません。また、同じ群落の中のものは同じであることが多く探すのも大変です。幸い今年(平成14年)、石川県の手取川の川原で三つの型を確認できました。
ミソハギの雄しべは12本あります。その内6本は長く、6本は短いのです(図21)。雌しべの柱頭と雄しべとの位置関係に注目してください。(それぞれの型で、長短の雄しべの位置と、雌しべの柱頭の位置が異なる点に注目。これらの位置関係が把握できるようになれば、ルーペを使わなくても野外で3つの型を識別できます。)
長花柱花
(図13・14) |
雌しべが突き出しているのでよく分かります。 |
中花柱花
(図15・16) |
長い雄しべだけが目立ち、花の口のところに雌しべの柱頭が見えています。 |
短花柱花
(図17・18) |
長・短の雄しべが目立ち、外から雌しべの柱頭を見ることはできません。 |
私が実験的に確かめたことではありませんが、異なる型の花の花粉でなければ種子ができないのだと言われています。それは、近親結婚を防ぎ、子孫の遺伝子構成を多様にするためと考えられます。
ある時突然疑問が浮かびました。柱頭が奥の方にある短花柱花では、柱頭が奥にありすぎて、雌しべへ花粉が運ばれないのではないか?、です。
そこで、図18(短花柱花)と図14(長花柱花)・図16(中花柱花)で、雄しべと雌しべの位置関係を比べてみたところ、次のようであることが分かりました。
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| 図19 雄しべと雌しべの位置関係 |
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長・中花柱花の短い方の雄しべの葯の位置に、短花柱花の雌しべの柱頭があるのです。これなら、長・中花柱花の短い方の雄しべの花粉を付着させた昆虫なら、短花柱花へ来たときに、雌しべの柱頭へ花粉を渡すことができるはずです。
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| 図20 雄しべと雌しべの位置関係と受粉 |
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図20で模式的に説明してみましょう。たとえば、中花柱花(中央の図)へ来た昆虫が、青で示した長い雄しべ群の花粉と、黄で示した短い雄しべ群の花粉を体に付けた場合には、別の中花柱花へ行っても柱頭の位置が合わないので花粉を渡すことができません。長花柱花へ行った場合には、青で示した長い雄しべ群の花粉を渡すことができ、短花柱花へ行ったときには、黄で示した短い雄しべ群の花粉を渡すことができます。したがって、同じ型の花からの花粉を受け取らないが、異なる型の花の花粉を受け取る仕組みができあがっていることになります。
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| 図21 受粉関係の模式図(黄色く○で示した雌しべの柱頭へは、矢印のように、異なるタイプの花の雄しべの花粉が運ばれる) |
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このように花の構造からすると、虫媒花でなくてはなりません。実際のところ、花の奥には蜜が分泌されており、昆虫が訪れていました。
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| 図22 花の奥には蜜が光っていた。 |
図23 花を訪れる昆虫。 |
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| 図24 短花柱花の側面観。緑色の花粉をもつ花糸の長い雄しべが6本、黄色の花粉をもつ花糸の短い雄しべが6本見える。雌しべは萼筒の中に隠れている。 |
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| 図25 緑色の花粉(花糸の長い雄しべ) |
図26 黄色の花粉(花糸の短い雄しべ) |
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| 花糸の長い雄しべの花粉が緑色で、花糸の短い雄しべの花粉は黄色なのです。これがどういう意味を持つのかは謎です。 |
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| 図27 雌しべ |
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| 図28 柱頭のアップ |
図29 柱頭の突起 |
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| 雌しべの柱頭は円盤状ですが、顕微鏡で観ると突起に覆われています。昆虫が運んできた花粉を引っかける仕組みなのでしょう。 |
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