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サンショウモ  Salvinia natans(L.) All.
  サンショウモ科 Salviniaceae)

学名は日本の野生植物 シダ(平凡社)によりました。

 サンショウモは、サンショウ(山椒)の葉に似た一年生の浮遊性水生シダで、私の高校生の頃は山間地の田圃に浮かんでいるのを良く見た記憶がありますが、最近では全くお目にかかることが無くなりました。環境庁編のレッドデータブックでは、絶滅危惧2類で、平均減少率は約60%、100年後の絶滅確率は100%といわれています。石川県でも、絶滅危惧1類となっています。サンショウモの成長・繁殖はめざましく、条件が良ければすぐに水面全体に広がるくらいのものですが、水草の多くがそうであるように、田圃が宅地に変わるとか休耕田になるとか、池沼が開発されるとか、農薬が流れ込むなどによって簡単に滅びていってしまいます。
 友人のOさんから、長年栽培していたサンショウモの一部を譲り受け観察をしてみました。

図1 サンショウモ。葉はよく水をはじく。(2006年10月21日)

図2 水中葉と胞子嚢果(2005年11月12日)

図3 サンショウモの葉の
表面の毛。
図4 オオサンショウモの
葉の表面の毛

 浮葉は幅1cmほどの単葉で、対生してサンショウの葉のように見えます。水中には、根のようなものが垂れていますが、植物の世界(朝日新聞社)では、「解剖学的な観察からは根ではないことが確かめられた。葉であるという意見と、枝(茎)であるという意見が提唱されているが、結論は出ていない。」とあります。日本の野生植物(平凡社)では、「葉は3列輪生、内2列は水面に浮葉となり、あとの1列は水中に沈む水中葉となる。」と記載されています。それとは別に、多細胞の毛も生えています。
 サンショウモは沈めても沈めても浮き上がり、表面が濡れないのですが、その理由の一つに、葉の表面に生えている毛があるようです。『「泡立て器」のような形の多細胞の毛があり、空気との接触面をふやして水をはじく役割をしている。』(植物の世界)とのことです。
 この毛は、外来種のオオサンショウモでは更に著しく、まさに、「泡立て器」のような形となっています。

図5 元の方の1個が大胞子嚢果で、ほかの数個は
小胞子嚢果。

図6 胞子嚢果と胞子嚢。包膜が破れて胞子嚢がこぼれようとしている。 

図7 1個の大胞子嚢果の中の大胞子嚢(スケールは0.1mm)

図8 大胞子嚢と小胞子嚢との比較。

図9 1個の小胞子嚢果の中の小胞子嚢(スケールは0.1mm)

図10 小胞子嚢には糸状の柄が付いている。

図11 小胞子嚢の切断面。

 胞子嚢果はほぼ球形で、表面に多細胞の毛があります。また、包膜は二重膜構造で、たくさんの気室があって、浮力を保っているのではないかと考えられます。
 大胞子嚢果には多数の大胞子嚢が入っています。試みに数えたところ、27個ありました(図7)。小胞子嚢果には更に多数の数え切れないくらいの小胞子嚢が入っています(図9)。大胞子嚢には短い柄があり、「大胞子母細胞は8個つくられるが、成熟する大胞子は1個だけである」(日本の野生植物)とありますから、その中には1個の大胞子しか入っていないことになります。小胞子嚢には糸状の柄があります。この柄が、一見、発芽した根のように見えることから、小胞子嚢を胞子と勘違いすることがありますが、柄があることが、まさに胞子ではなく「胞子嚢」であることの証です(図10)。小胞子嚢には64個の小胞子があると聞きましたが、そこの観察は未だできておりません。小胞子嚢を切断してみると、いくつかの部屋になっているようです。これが胞子そのものであるのかどうかは、私の観察眼では、どうにもはっきりいたしません。しかし、このような構造があることからしても、一見、胞子ふうのこの小体が胞子(単一の細胞)でないことは分かります。
 1月初旬、室内のシャーレの中に数十個の緑色のものが浮かんでいるのに気づき、顕微鏡で観たところ、はやくも、若いサンショウモ(胞子体)が育っていました。「水生シダは生きる」には、4月末頃には胞子体が出現するとありました。シャーレを見ると、朽ちたサンショウモの本体にくっついたままの大胞子嚢果が幾つか見られたので、観察してみると、まさに発芽しかけのものがありました。包膜越しなので、ベールが掛かったようになり(図14)、鮮明な観察が困難なので、包膜を取り外して観察することにしました。それが、エイリアンの孵化のような光景なのでした。(図15)


図14 大胞子嚢果の中の大胞子嚢。(2007年1月25日)

図15 包膜をはがして観察。(2007年1月29日)

図16 発芽しつつある大胞子嚢。(2007年1月29日)

図17 前葉体が顔を出してきた。褐色の点は造卵器。(2007年1月30日)

図18 前葉体が現れてきた。(2007年1月6日)

図19 すっかり前葉体らしくなってきた。(2007年2月7日)

図20 前葉体の全形。(2007年1月18日)

図21 前葉体には造卵器が付く。

 ゆっくりと前葉体(配偶体)が発達してきました。表面には、不規則に褐色の点が見えますが、造卵器です。
 若いサンショウモ(胞子体)が育ったということは、小胞子から精子が出て、受精したはずなのですが、精子自体は非常に小さく、観察は困難としても、精子を出したような気配のある小胞子嚢が見つからないのが解せません。自然界では、4月が発生の時期ですから、そのころに観察をすればもう少し、分かるのかも知れませんが。

図22 第一葉。
図23 本葉。
図24 次々と葉が互生で出てくる。


 前葉体から育った最初の植物体は、「第一葉」と呼ばれ、ヒツジグサのような切れ込みのある葉です。この葉の裏側から、「本葉」が伸び、更に次々と葉が伸びてきますが、このころの葉は、成熟したサンショウモと異なり互生しています。葉の裏や茎には多数の「多細胞の長い毛」が密生しています。葉の表には、そのような毛はありませんが、最初に見た「泡立て器」のような形の毛の初期の姿を見ることができました。こんな小さい内から、葉の表面は水をはじき、大胞子嚢果が重(おも)りとなって、水に浮いています。

 第一葉の表面には気孔が沢山見られましたが、裏面には見られませんでした。本葉では、気孔がはっきりしませんでしたが、小さな穴がありました。これが気孔かも知れませんが、今のところ不確実です。

図25 第一葉の表面。 図26 第一葉の表面の気孔。

図27 第一葉の気孔の拡大。 図28 本葉の表面にある気孔?

図29 茎に生えた毛。

図30 茎に生えた毛。

図31 茎に生えた毛。

図32 本葉の表面の毛。

 今後の課題は、小胞子嚢から、どのように胞子が出、精子が放出されるのかの観察ですが、そう簡単に確認できる自信はありません。気長にお待ち下さい。


  :
胞子体: サンショウモを含めて、シダ植物の本体は、胞子形成という無性生殖をするので、胞子体とも呼ばれます。
配偶体: シダ植物の前葉体というのは、胞子が発芽してできたもので、有性生殖をするので、配偶体とも呼ばれています。


文献

岩槻 邦男. 1992. 日本の野生植物 シダ:284. 平凡社.
長谷部光泰. 1996. 週刊朝日百科 植物の世界:12-7.朝日新聞社.
石川県絶滅危惧植物調査会. 2000. 石川県の絶滅のおそれのある野生生物〈植物編〉いしかわレッドデータブック:39.石川県.
環境庁編. 2000. 改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック− 8 植物1(維管束植物):430.財団法人自然環境研究センター.
白岩卓巳. 2000. 絶滅危惧植物 水生シダは生きる:3-37.自費出版.

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