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ショウジョウバカマ  Heloniopsis orientalis (Thunb.) C.Tanaka
ユリ科 Liliaceae) 
               
学名は日本の野生植物(平凡社)によりました。

図1 スギ林の林床の小川の岸に咲くショウジョウバカマ。(2006年4月8日)

 北海道から九州まで、樹陰に生え、ほとんどどこへ行っても見られる植物です(九州は、変種のツクシショウジョウバカマが多いとのことです。)。
 早春、ロゼット状に広がった葉の中心部から、蕾が顔を出し、花茎が伸びつつ開花します。その昔、大阪駅の構内で「雪割草」の名前で販売していたのを今でも思い出します。また、近年、ホームセンターで「少女袴」の名で売り出されていましたが、「ショウジョウバカマ」と音で聞いた名前を漢字に当てはめるときに誤用されたものでしょう。植物の和名がカタカナ表記であると、意味が分からないし、覚えにくいということで、漢字表記にすることがありますが、注意しなければなりません。
 ショウジョウとは、「猩々」という酒好きの伝説上の動物で、顔の赤いところが花の色に似て、葉がロゼット状に広がる様子を「袴」に見立てたと聞いております。

図2 開花期の始めは、地面すれすれのところで、雌しべの柱頭だけが顔を出す。(2004年4月6日)

図3 花茎が少し伸びてきた。(2005年4月2日)

図4 雌しべの柱頭のクローズアップ。雄しべは未だ花の中に入ったまま。(2005年4月2日)

図5 雌しべの柱頭の顕微鏡写真。丸い粒は花粉。(2004年4月6日)

図6 雌しべの子房の縦断面。(2004年4月6日)

図7 雌しべの子房の横断面。(2004年4月6日)

図8 左の花は未だ花粉を出していない雌性期。右の花は花粉を出している両性期。(2004年4月6日)

 雪解け後すぐに、葉の間から花茎を伸ばし花を咲かせます。
花被が開ききる前に、雌しべの柱頭が顔を出し、受粉態勢に入りますから、雌性先熟(しせいせんじゅく)ということになります。

図9 花後は一時期、変色しうなだれる。(2004年4月17日)
 花が終わっても花被片や雄しべは残存し、変色し、花柄が曲がって、全ての花が一度うなだれてしまいます。

図10 花が終わると花茎は更に伸び、果実が熟するころには果実は上を向いている。(2002年5月15日)
図11 果実が熟するころには、上を向く。(2003年5月1日)

図12 花が終わった後も、花被や雄しべが残っている。

図13 果実は熟すると、裂開し、多数の種子を散らせる。(2006年6月29日)

一方、花茎はどんどん成長を続け最終的には60cm以上にもなり、果実が熟す頃には果実は上向きに変わります。6月、果実が裂開すると、糸くずのような種子が、吹き出すようにあふれ、風に飛ばされます。このように、「花茎が長くのびるのは、林床をおおう他の植物の上に出て風を受けるのにつごうがよいからなのだろう。」(河野. 1989)

 2006年6月29日に、医王山へ行きました。ほとんどの株では種子を散らした後でしたが、2〜3株だけ未だ種子の残っている果実がありました。種子の一部を持ち帰り顕微鏡で観察すると、糸くずのような繊細な種子でした(長さ約6mm、最大幅約0.4mm)。よく観ると、種子の本体の周囲に付属体の付いた構造です。この付属体の基部、すなわち胎座側(図14の左方)を見ると、穴が空いているように見えたので、それを確認するために赤インクを吸わせてみました。

図14 種子の顕微鏡写真。長さは約6mm、最大幅は約0.4mm。スケールは0.1mm。

図15 種子の胎座側が管のように見えた。

図16 赤インクにつけると、外側に付着するのではなく、付属体の内部へ赤インクが毛管現象で吸い込まれていることが分かる。

図17 全体が赤インクで染まった種子。

 赤インクがするすると種子の中へ入って行くのが確認できました。
 ショウジョウバカマの種子は、付属体によって面積が大きくなり、ちょうど細い紙風船(付属体)の中に収まっているようにして、付属体で、浮力を稼ぎつつも軽くできていて、遠くへ飛ばされやすい工夫をしていることが分かりました。組織学の専門的なところは分かりませんが、付属体は、胎座に接続しているところからみて、珠皮に由来するものでしょう。ということは、種皮の一部が風船状になっているということのようです。

 ここで、いくつかの述語(学術用語)が急に出てきて、分かり難いと思われますので、簡単に解説いたします。
 雌しべの子房の中には、小さな
「胚珠」というものが入っています。胚珠は受精後、「種子」に変わります。したがって、雌しべの子房の中には、少なくとも種子の数だけの胚珠があったことになります。スイカやカボチャなどは、多数の種子からできていますから、雌しべの子房の中にも多数の胚珠があります。ですから、花の時にすでに、雌しべは大きく膨らんで(かさばっていて)小型のスイカやカボチャを想像させています。胚珠は雌しべに付いて、栄養分をもらっていますが、その胚珠の付く場所を「胎座(たいざ)」(ほ乳類の胎盤になぞらえて)と呼びます。胚珠の外側は1〜2枚の皮、「珠皮」になっており、中心部の「珠心」という組織を包んでいます。珠心が種子の本体です。種子ができたときには、珠皮は「種皮」となります。


不定芽
 ショウジョウバカマの繁殖で、もう一つ面白いのは、不定芽(無性芽)による繁殖です。 
 ショウジョウバカマは3年分の葉をもっています(当年葉、1年葉、2年葉)。古い2年分の葉と、今年の春に展開した新しい葉です。そして2年葉の主脈の先端部にはしばしば小さな植物体、不定芽ができます。不定芽のできやすい環境があるらしく、どこででも見られるものではありませんが、金沢市の戸室山近辺では、頻繁に見られます。また、斜面に生えている場合には斜面の下側、つまり出た根が地面に付きやすい位置によく観られます。図18には多数の不定芽があるのですが、そのほとんどは、斜面の下側です。そして、もとの2年葉は、栄養分を不定芽に送り続け、自分は枯れていきます。一方、不定芽は根を出して地面に付き、2年葉の枯れた後は、自分で独立して生活できるようになります。

図18 多数の不定芽をもつショウジョウバカマ。(2005年11月2日)

図19 不定芽は斜面の下側に多く、その部分を拡大してみた。7カ所の矢印部分が不定芽。(2005年11月2日)

図20 根を出した不定芽。(2005年11月2日)

図21 養分を供給した2年葉が枯れると、不定芽は独立する。(2005年5月22日)

 山で、ショウジョウバカマの大きな株を見つけたなら、その周りを観察してみてください。葉の先端が届く辺りに、株を取り巻くように小さなショウジョウバカマの株を見ることがあります。不定芽から育った株です。
 こういう繁殖方法を知っていると、ありふれたショウジョウバカマでも、また見る目が違ってきますから「知ることは」面白いのです。


図22 大株の周りに、不定芽から育った子株が並んでいる。(2005年11月2日)

 先年、北海道大雪山へ行って来ました。登山道沿いにショウジョウバカマをいくつか見ることができましたが、おそらく遺伝子に差があるのでしょうが、いずれも花の色が、こちらで見るものとは異なり紫がかっているのに興味を引かれました。

図23 大雪山黒岳で見た紫花のショウジョウバカマ。これから花粉を出すところなので、花が終わって変色したものではない。(2005年7月19日)

文献

佐竹義輔. 1982. 日本の野生植物 1:26. 平凡社.
河野昭一. 1989. 植物の世界 第4号 ショウジョウバカマ:88-115.教育社.

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