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ヒノキバヤドリギ  Korthalsella japonica (Thunb.) Engler
ヤドリギ科 Loranthaceae) 

学名は日本の野生植物 木本1(平凡社)によりました。               

  石川県には分布しないとされていたヒノキバヤドリギが、昭和六十年代の初め、突然、金沢市で見つかりました。石川県の植物関係者は皆一様に驚いたのですが、結論としては、県外から持ち込まれたヤブツバキにヒノキバヤドリギが寄生していたものと考えられました。
 その考察過程につきましては、文末に記録いたします。

 聞くところによりますと、その時のヒノキバヤドリギはすでに枯れてしまいましたが、現在は別のヤブツバキに寄生した状態で見ることができます。

図1 現在、ヒノキバヤドリギの寄生しているヤブツバキ。(2002年8月28日

図2 ヒノキバヤドリギの寄生した枝。(2004年8月29日)

図3 図2と同じ枝。(2005年11月14日)

  多数のヒノキバヤドリギが寄生した枝が比較的低いところにあったので、撮影しました。2004年と2005年に同じ箇所を撮影した図2と図3を比べて下さい。2005年の方が、ヒノキバヤドリギの勢いが盛んな(成長した)ように見えます。この勢いがいつまで続くのかは分かりませんが、今後も注目していくことにしましょう。
 

図4 あまり大きな株は無い(2005年11月17日)
  
図5 果実を付けたヒノキバヤドリギの全形(2003年8月27日)

図6 若い果実を付けた枝。(2004年8月29日)

図7 茎と葉(2001年11月4日)

  ヒノキバヤドリギは「檜葉宿り木」と言うくらいで、一見、ヒノキの葉に似ています。しかし、葉身かと見える幅広の部分は茎で、葉は突起状の鱗片葉で対生し、輪になって節を取り巻いているのだそうです。

図8 ヒノキバヤドリギの花(2003年8月27日)

  ヒノキバヤドリギの花については、「花は単性で雌雄同株、緑色で長さ約0.8mm、包葉がなく、合着する3枚の花被片をもつ。雄花の花被は深く3裂し、各片の内側に1個ずつの雄蘂がある。雌花の花被は球形で先が浅く3裂し、その中央にごく短い花柱がある。」(日本の野生植物)と記載されています。
  これまでの観察では、果実はよく見つかるのですが、花にはお目にかかることができませんでした。なにしろ、1ミリ以下という小さな花ですから、通り一遍の観察では見つけ出すのが難しそうです。今回、撮影済みのすべての画像をチェックしたところ、図8の画像にたどり着きました。矢印の節の部分を拡大した円内を見て下さい。中央に3裂した花被片が見えます。
  おそらく、雌花であろうと推察しますが、花のあることに気づかずに撮影したため、花のクローズアップ画像がないので、雄花であるか雌花であるかがはっきりしません。とても小さな花です。
 花の撮影につきましては今年の課題です。いずれにしましても、この小ささでは、ルーペを使って探さないと見つけるのは難しそうです。

図9 ヒノキバヤドリギの果実(2004年8月29日)

図10 ヒノキバヤドリギの果実(2004年8月29日)

図11 果実の先端。3個の花被片の名残が見えている。(2004年8月29日)

図12 逆光に透かすと、種子の影が見える。(2005年11月21日)

図13 ヒノキバヤドリギの果実(上)、種子(下)。スケールの最小目盛は、0.1mm。(2005年11月17日)

  図9を見ると分かるのですが、ほとんどの節に果実が付いています。ということは、来年もまた、ほとんどの節に花が咲くということでしょうか。このことの確認には、枝(株)にマークをして、毎年観察しなければなりません。野外では難しそうですが、何とか工夫してみましょう。
 花は1mm弱と小さかったのですが、果実も2mmくらいです。その中の種子はさらに小さくて、図13の下で、周囲の粘着質を除けば、わずか1mm弱という小ささです。
 この種子が、ヤブツバキに付着しているところを見ることができるでしょうか。多分難しかろうと思いながらも、枝を調べて歩く内に、次々と種子が付着しているのを見つけることができました。

ヤブツバキに種子が付着したヒノキバヤドリギ
図14 ヒノキバヤドリギの種子(2005年11月21日) 図15 ヒノキバヤドリギの種子(2005年11月21日)

図16 ヒノキバヤドリギの種子(2005年11月21日) 図17 ヒノキバヤドリギの種子(2005年11月21日)

図18 若いヒノキバヤドリギ(2005年11月17日)

図19 年を経ると、寄生部が膨らんでくる。ヤブツバキの枝の上にも下にもヒノキバヤドリギが寄生していることに注目。(2004年8月29日)

  ヒノキバヤドリギの種子がどのように散布されるのかは非常に興味があります。ヤドリギが鳥によって食べられることは分かっていますが、こんな2mmくらいの小さな果実だと、おそらく食べる鳥はいないでしょう。

  何十年も前になりますが、私は食虫植物や寄生植物が好きで、授業の教材用にテレビで放送があると必ず録画していたものです。そんなある時のNHKの番組の中で、ヒノキバヤドリギの
果実が弾けて種子の飛び散るシーンを撮影したものがありました。今も保存してあるはずなのですが、何しろ「β」で録画してあるうえに、ビデオデッキが故障してしまったので、見つけ出すことができないので、再確認ができないでいます。読者の中で、βのビデオデッキをお持ちの方はおいでませんでしょうか?

  図解植物観察事典には、「果実は熟すと果皮が破れ、その付近の枝や葉に1mも飛び散り、樹皮についたものだけが発芽する。」との記述が見られます。しかし、種子が飛び出す瞬間を見ることは難しそうです。まして撮影となると、多分不可能でしょう。
  図19をよく見て下さい。ヒノキバヤドリギが、枝の上部(表側)と下部(裏側)に寄生しています。ヤドリギのような種子散布、すなわち、果実を食べた鳥の排泄物中にある種子が枝に張り付くというような散布の仕方では、枝の下部(裏側)にヤドリギが寄生することはほとんど不可能でしょう。図4,図5も同様です。図17では、種子が、枝の下部(裏側)に付着しています。写真に撮ってしまうと、種子が枝の下部(裏側)にあるのかどうかが分かり難くなるのですが、観察では、下部(裏側)に付いている種子が多数見つかりました。
  現場での観察状況からしても、果実が破れて、種子がはじき出されるもののようです。

図20 メジャーの先端の位置にヒノキバヤドリギの種子が付着しており、最も近くの株まで約45cm離れていた。(2005年11月21日)

  それでは、種子はどれくらいの距離を飛ぶものでしょうか。1例として、図20では、ヤブツバキの枝に付着した種子から最寄りのヒノキバヤドリギまで約45cm離れていました。どの株から種子が飛んできたのかは分かりませんが、少なくとも45cmは飛ぶのでしょう。その瞬間を見てみたいものです。

ヒノキバヤドリギ自身に種子が付着した例
図21 ヒノキバヤドリギに付着した種子(2005年11月17日) 図22 ヒノキバヤドリギに付着した種子(2005年11月17日)

図23 ヒノキバヤドリギに付着した種子(2005年11月17日) 図24 ヒノキバヤドリギに付着した種子(2005年11月21日)

  果実が弾けて種子が飛ぶとしたら、ヒノキバヤドリギ自身に付着することもあることでしょう。そのような例はたくさん見られました。
 図解植物観察事典には、「宿主の葉についたものはやがて落ちて枯死する。」とありました。自分自身についたものについては記述はありませんでしたが、やはり落ちて枯死すると考えられます。

図25 ヒノキバヤドリギに付着して付着根を出した種子(2005年11月17日)

図26 ヒノキバヤドリギに付着した種子がはがれてきた(2005年11月17日)

図27 ヒノキバヤドリギに付着した種子のはがれたもの(2005年11月17日)

図28 ヒノキバヤドリギに付着した種子のはがれたもの。粘着質に気孔が転写されている(2005年11月17日)

図29 粘着質に転写された気孔(2005年11月17日)

図30 ヒノキバヤドリギに付着した種子のはがれた跡。寄生に成功していない。(2005年11月17日)

  図25は、ヒノキバヤドリギ自身に付着した種子のクローズアップです。ヤドリギ同様の粘着物質で、固定されています。しかし、図26で見るように、意外とはがれやすいのです。たとえて言えば、木工用のボンドで固定したが、それがはがれたという状況を想定してみて下さい。 指に着いたボンドだと、はがれたボンドに指紋が転写されますが、そのようにヒノキバヤドリギの茎にある「気孔」の形の転写されたものが、図28、図29です。図30は、種子がはがれていった跡です。

ヒノキバヤドリギ発見のてんまつ

1 米山競一氏
 金沢市が主催した自然観察会で、参加者から「あれはなに」と聞かれて指差された枝を引き寄せて驚いたのである。あろうことか、それは、県内に自生しないと思っていたヒノキバヤドリギなのである。よく見ると、2本並んだヤブツバキの双方の木の枝にあちこち十数個体が寄生していたのである。
 観察会が終わった後、これを写真におさめ、1個体を採取して里見先生に伺ったのである。先生も驚かれ、ぜひ現地を見たいとのことで、後日、ご案内したところ、「まぎれもないヒノキバヤドリギだよ。しかし、多分自生ではないだろう。ツバキは移植されたものだから、ツバキの産地がヒノキバヤドリギの自生地だろう。」とご推察されたのである。(米山2003)

2 金沢大学理学部教授里見信生先生
  北陸のヒノキバヤドリギであるが、この種は、日本海側で隠岐に分布することが知られていて、ここが北限の産地である。しかし、富山県植物誌に記載されているのが気にかかる。ところが最近、金沢市内で発見された。(中略)
  私は、富山での報告を内心疑っていただけに、それを見て、いささか驚いた次第で、早速、現地に御案内いただき確認することができたが、その状況より判断すると、その樹は、明らかに造園工事の際、植えたものであって、購入先は、太平洋側の庭園樹の生産地からであろうと推察した。念のため、この造園工事を施工した石川県公園緑地課にお尋ねしたところ、請負った業者は、関東から入手したとのことである。わが国の庭園樹の三大生産地と言われる埼玉県の安行と思うが、ここでは熊本、鹿児島の県境あたりで、山取りをして販売する由である。 (里見1994)

3 石川県教育センターのヤブツバキ
  一時期、石川県教育センターに植栽されていたヤブツバキにもヒノキバヤドリギが寄生していましたが、今では見られなくなっています。

文献

室井 綽ほか. 1982. 図解植物観察事典:p527. 地人書館.
山崎 敬. 1989. 日本の野生植物 木本1:102.平凡社.
里見信生. 1994. 続折々草:65-66. 自費出版.
米山競一. 2003. 里見信生先生の思い出:50-51. 里見信生先生の思い出編纂委員会.

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