|
FILE118 タカサゴユリ Lilium formosanum Wallace |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| (ユリ科 Liliaceae ) 学名は、日本の帰化植物(平凡社)によりました。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図1 今浜の砂丘地に咲くタカサゴユリ群落(2005年9月2日) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 最近、道路脇や法面、荒れ地、海岸林の林床などで、白い大型の花を付けるユリを見ることが多くなりました。あまりにきれいな花なので、草刈りの際にも刈られずに残ったり、家へ持ち帰る人も出て、ますます分布を広げています。 園芸種のテッポユリのような壮大な花です。はじめは園芸種が逃げ出したものだろうと考え、園芸種は難しいからと、敬遠していたのですが、どうも帰化植物の「タカサゴユリ」のように思えてきました。 ところで、テッポウユリは、薩南諸島、琉球に分布します。図2〜4は、2001年4月27日に宮古島の東平安名崎で撮影したテッポウユリです。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図2 宮古島の東平安名崎のテッポウユリ(2001年4月27日) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図3 宮古島の東平安名崎のテッポウユリ(2001年4月27日) |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図4 宮古島の東平安名崎のテッポウユリ(2001年4月27日) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| さて、それではタカサゴユリとはどんなものでしょうか。 日本の帰化植物には、「タカサゴユリ Lilium formosanum Wallace :原産地は台湾で、観賞用に、1923年あるいは37年に導入されたという。花は横からやや下向きに咲く。花被片は6枚、白色で外面の特に中肋に沿って赤紫色を帯び、……。花全体が白色で、琉球に自生するテッポウユリ Lilium longiflorum Thunb. にごく近縁で、両者の間にシンテッポウユリと呼ばれる雑種ができている。シンテッポウユリはタカサゴユリによく似ているが、花はふつう白色である。」とあります。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図5 タカサゴユリ(2004年8月26日 加賀市) 日本の帰化植物でいうタカサゴユリだ。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図6 花被の白いタカサゴユリ(2005年8月25日 加賀市) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図7 花被の白いタカサゴユリ(2005年8月25日 加賀市) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図6・7は、花被の外側に紫褐色の部分が無く、日本の帰化植物でいうシンテッポウユリの姿をしています。これをシンテッポウユリというべきか否かが問題であります。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ところで、現在国内で流通している主な帰化植物図鑑での説明を列挙してみますと、以下のようにまちまちです。おそらく研究者にとっても悩ましい問題となっていることがうかがえます。こんな問題に、アマチュアの私が首を突っ込むとさらに話がややこしくなりそうではありますが、あくまで私なりの解釈で整理して見たいと思います。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 日本帰化植物写真図鑑では、「タカサゴユリ Lilium formosanum Wall.:花の内部は乳白色、外側は紫褐色を帯びる。」 千葉県の自然誌では、「シンテッポウユリ Lilium × formolongi hort.:台湾に分布するタカサゴユリとテッポウユリの園芸的な交雑種とされ、実生から1年で開花する性質があり、墓地の切り花が結実して広がったという説がある。タカサゴユリは花被片の外側脈沿いが帯紫褐色になり、葉がより細い。」との記述があり、タカサゴユリというタイトルの写真が掲載されています。写真を見る限り、同書でタカサゴユリの特徴としてあげてある「タカサゴユリは花被片の外側脈沿いが帯紫褐色になり」の特徴がはっきりしませんが、葉は細いです。(千葉県には花被片の外側が明瞭に紫褐色のタカサゴユリは分布していないのだろうか?)。この文献では、、シンテッポウユリという項目がありながら、タカサゴユリの花や葉のことを記述し、シンテッポウユリの花や葉の特徴に触れていない点が少し残念です。 神奈川県植物誌では、「シンテッポウユリ Lilium × formolongo hort. : 1〜5花が横向きに開き、花冠は筒状漏斗形、外面は紫色を帯び、内面は純白である。もとは植栽したものが逸出して、種子でよく繁殖し、県内各地に見られる。タカサゴユリとテッポウユリとの交雑由来の種。1代雑種だけではなく、さまざまな戻し交雑の系統がつくられ、逸出している。」 ここで注目すべきは、神奈川県植物誌では、他書が「タカサゴユリ」としている紫色の花のものを「シンテッポウユリ」であるとし、「タカサゴユリ」について言及していない点であります。(おそらく、花被の色の如何は個体変異の内であり、雑種起源のシンテッポウユリが広く分布しているとの解釈に立ったものかと推察します。) 私のようなアマチュアには、タカサゴユリ、シンテッポウユリの実態をつかみにくいのですが、ここで問題を整理します。 1 広く空き地などに生育している「このユリ」が「タカサゴユリ」なのか、「シンテッポウユリ」なのかという問題。 2 タカサゴユリとシンテッポウユリとが混ざっているのかという問題 の2点があります。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図8 今浜の群落(2005年9月2日) |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 神奈川県植物誌以外で勉強した人は、このようなものを、タカサゴユリと認識するでしょう。私もそうしたいと思います。 この花は2005年9月2日、「今浜」で取材したものですが、明らかに、花被片に紫褐色の部分があり、葉も細いです。ところがここの群落には、花被の白いものまで、いろいろの程度のものが混ざっていました。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図9 今浜の白いタカサゴユリ(2005年9月2日) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図10 図9と同じ花。かすかに紫褐色を帯びている(2005年9月2日) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図9・10は、今浜の群落内の同じ白い花です。しかし近づいてよく観察すると、かすかに紫褐色を帯びているのが分かりました。かなり時間をかけて調べましたが、この群落内では、一見、白のように見えても、完全に白い花はありませんでした。 私には、この狭い砂丘地群落内(図1の群落)のユリが、タカサゴユリと雑種のシンテッポユリの混合群落だとはとても思えません。 赤褐色のぼかしについては、個体差によって、濃いものや薄いものがあると考えたいのです。ここでは見つけることができませんでしたが、完全に白のタカサゴユリがあってもおかしくないと思います。(小学館の園芸植物大事典には、ふつう、花被片の外面が濃淡の紫褐色を帯びるが、純白のものも選抜されている、との記述があります。) したがって、紫褐色だとか白いという点だけで、タカサゴユリとシンテッポウユリを区別することはできないと考えます。 特に、遠くから見た簡単な観察で、「白い」と判断したような観察結果については、私は信用できません。 本当の意味で雑種であるのか、どうかは、染色体かDNAの判定をするべきでしょうが、私にはそこまでのことは不可能です。 じつは、私にはもう一つの疑問があるのです。紫褐色のタカサゴユリと白いテッポウユリが交雑した場合には、白いシンテッポウユリになるというよりも、いろいろな程度の紫褐色のぼかしをもったシンテッポウユリになることの方が多いのではないでしょうか。私は遺伝や園芸のことはよく分かりませんが、日本の帰化植物で「シンテッポウユリはタカサゴユリによく似ているが、花はふつう白色である。」と断じている点にも疑問を感じます。もっとも「ふつう」となっており、白でない場合もあることを示唆しますから、それでも良いのかもしれませんが、あいまいではあります。 帰化植物MLで、宮本さんが「シンテッポウユリは、純白色のタカサゴユリとテッポウユリの種間雑種を育成し、これにテッポウユリを交配して育成したものが最初で、その後育成された新品種は、両種の種間雑種にテッポウユリをくりかえし戻し交雑することにより、播種から1年以内の開花性を残しつつ、テッポウユリの草姿、花容、品質などの特性を強化した育種が行われて生まれたもののようです(「花専科 育種と栽培 ユリ」(誠文堂新光社)による)。」と引用されているのは注目に値します。これなら、白いシンテッポウユリができるからです。園芸的にはそうだったのでしょうが、自然界で雑種を作る場合には、純白のタカサゴユリとだけ雑種を作るわけではないので、いろいろな程度の色のものが出てくることもあるでしょう。 ですから、シンテッポウユリは花被が白いが、花被が白いからと言ってシンテッポウユリとは限らないということです。また、花被が白くないから、シンテッポウユリではないとも言えないでしょう。 染色体や DNA などによる、しかるべきデータが出るまでは、石川県で私の見ている範囲では、「タカサゴユリ」としてよいのではないかと考えています。それは、花の色の違いの他には、ほとんど変異がないからです。雑種がはびこっているのでしたら、もう少し変異があっても良いのではないかと思うからです。テッポユリや園芸種のシンテッポウユリに見られるような幅広の葉も見かけませんし。 園芸植物として流通している「シンテッポウユリ」 ところで、園芸植物の世界では、シンテッポウユリが徐々に広がりつつあります。 園芸植物としてのシンテッポウユリは、大きな白い花を咲かせるテッポウユリの長所と、短期間(発芽して10ヶ月足らずで)に開花に至る成長の早さとを兼ね備えた新品種として、両者の交雑をし、さらに戻し交雑をしたり、選抜をしたりして、改良に改良を重ねて、できあがっています。 石川県の金沢市農業センターでも新品種「21金沢白」(登録2005年3月14日)が開発されました。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図11 新品種「21金沢白」の栽培ハウス(金沢市農業センター) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 時期をずらせた栽培をしており、この時は中央の畝が開花期を迎えていた。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図12 シンテッポウユリ「21金沢白」の花(金沢市農業センター) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 花も白で、テッポウユリ風ですし、葉の幅も広く、私の判断では、タカサゴユリらしさはどこにも見られませんでした。 帰化植物MLでの勝山さんの発言によれば、「実生が10ヶ月足らずで開花し,夏に開花するタカサゴユリの性質と,純白で大輪のテッポウユリの性質をあわせもったものを作出する目的で,両者の交配が試みられ,長野県の西村進氏が1939年頃に成功したそうです。その後,テッポウユリのさまざまな品種とタカサゴユリとの交配,交配種とタカサゴユリやテッポウユリとのもどし交雑などが繰り返され,たくさんの園芸品種が作出されました。これらの交配種を総称してシンテッポウユリといいます。」ということです。 農林水産省ホームページの品種登録で、ユリを検索しますと、332件がヒットします。シンテッポウユリという分類がありませんので、どれがシンテッポウユリであるのかは、素人には皆目分かりません。 金沢市農業センターで育成された新品種「21金沢白」(登録2005年3月14日)は、平成9年より約5000株の中から選抜したシンテッポウユリで、大型の花の咲く期待の星なのですが、その記述にしても、シンテッポウユリという語は一つも入っていません。ただ、ホワイトランサーの変異株であるということが書いてあるだけです。そこで、ホワイトランサーを調べると、「ただいまメンテナンス中です」の表示しかありません。これでは全くお手上げです。そこで、金沢市農業センター尾川さんにお尋ねしたところ、「はっきりとしたことは、分かりません。農林水産省の種苗登録を受けた品種は現在、約20種類程度ではないかと言われています。しかし、品種登録せずに種苗会社から販売されているものもあり、すべてを含めると少なくとも50種類はあると思われます。」とのことでした。なるほど、この世界は難しいのですね。 ところで、シンテッポウユリの花は上を向いているのですが、この点は、タカサゴユリともテッポウユリとも異なります。 どうしてこのようなことになったのかとも、お尋ねしてみました。「最初に育成されたシンテッポウユリは横向きだったのですが、近年の品種は上向き性を重視して交配・選抜したものが主流だとのことです。 上向きでは、花粉に雨が当たりやすくなり、受粉の阻害になるからシンテッポウユリにとってはありがたくはないのですが、人がシンテッポウユリを切り花として利用するうえでの上を向くことのメリットは @横向きに比べて立体的に花を鑑賞することができるので見栄えが良い。 A生産者が出荷する際に、つぼみが上を向いているほど箱詰めが容易にできる。 といったことが挙げられます。」とのことでした。 このことについては、帰化植物MLでの宮本さんからの次の情報と同じ内容だと思います。 「ユリ一般の育種目標については、“上向き咲きの特性はユリの重要な育種目標となっている。その理由は、上向き咲き品種は草姿が立性のため、栽植密度を高くできること、切り花包装の作業性がよいこと、鑑賞価値が高いことなど優れた点を持つことが上げられる。” (花専科 育種と栽培 ユリ(国重正明編著、誠文堂新光社、1993) |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 帰化植物MLで宮本さんは「自家受粉であれ他家受粉であれ、結実したシンテッポウユリから種子が散布されて逸出すると、さまざまな特性を持った個体が出現して、もともと雑草的性格の強いタカサゴユリに近い特性を持つ個体が生きのこり(テッポウユリに近い個体は淘汰され)、これがくり返された結果、もとのタカサゴユリに近いものばかりを私たちは野外で見かけるようになったとも考えられそうです。」との説を出されました。 確かに一つの考え方ですが、だとすれば、淘汰前の様々な形質の雑種がどこかにあっても良いはずです。現実はどうでしょうか。先の今浜の群落では、そういうことはありません。花色の違いしか気づきませんでした。他県ではどうなのかは分かりませんが。 じつは、金沢市農業センターでは、シンテッポウユリは形質安定のために、鱗片培養で育てるのですが、受粉させた種子から育てた一角がありました。そこでは、いろいろの変異が見られ、タカサゴユリ程は細くないものの葉の細いものも見られました。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 図15 受粉させた種子から育てたシンテッポウユリ。葉の細いものや異常に背の低いもの(中央)も見られた。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 千葉県の自然誌に「墓地の切り花が結実して広がったという説がある。」とあるのですが、尾川さんにお尋ねしたところ、「受粉から結実までは60日以上必要とされるから、そんな可能性はないと思います。」というご意見でした。私もそう思います。偶然、墓場に増殖していただけではないでしょうか。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
結論として、シンテッポウユリには、園芸的に交雑し改良を重ねたものと、自然にタカサゴユリとテッポウユリとが雑種を作ったもの、また、タカサゴユリと園芸種シンテッポウユリの交雑したものも考えられます。今後も交雑が進み、ますます混乱してくると思えますが、当面、石川県で見られるものは、葉が細いので、花の色は様々ですが、タカサゴユリの変異であると考えておくことにしたいと思います。 今後の課題の一つは、同じ株の花色が、年によって変わることがあるのかどうかも観察対象になると考えています。 最後にお願いですが、読者の皆さんのそれぞれの地方にどのようなユリが分布しているのでしょうか。「自分の知見によればこうだ」とのご投稿を(メールで)頂ければ幸です。その方のご意見あるいは観察記録として、このページ上でご紹介させて頂きたく存じます。それがネットの特性(利点)でもありますから。
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
文献
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||