FILE113
イヌホオズキ類  Solanum   
(ナス科 Solanaceae)

 学名は神奈川県植物誌2001によりました。

 イヌホオズキの仲間には次の4種があり、いずれもよく似ており、同定の困難なものです。今回は無謀にもその同定に挑戦してみました。

Solanum nigrum L. イヌホオズキ
Solanum nigrescens Mart. & Gal. オオイヌホオズキ
Solanum ptycanthum Dunal ex DC. アメリカイヌホオズキ
Solanum americanum Mill. テリミノイヌホオズキ

 2003・2004年度に金沢城公園(石川県金沢市)の植物調査を行い(金沢城公園植物共同調査)、35点の標本が集められました。先頃その同定を行いましたが、困難を極めました。結論として、神奈川県植物誌2001 を参考にして、下表のように識別点を整理し、無理矢理同定したところ、いくつかの分類群に分けることができました。同定不能が11点、イヌホオズキ 11点、アメリカイヌホオズキ 6点、オオイヌホオズキ 6点、テリミノイヌホオズキ 1点  となりました。(同定が2転3転しました。)
 ここで、わかりやすい例について標本に基づいた説明を試み、専門家のご叱正を仰ぎたいと存じます。
 どうか遠慮無くご意見をお寄せ下さい。

今度のFILEも大規模になりましたので、目次を付けました。リンクが設定されています。ご利用下さい。

目次 1 イヌホオズキの仲間の相違点
2 イヌホオズキ
3 アメリカイヌホオズキ
4 オオイヌホオズキ
5 テリミノイヌホオズキ
6 球状顆粒のあるイヌホオズキ?
7 おわりに
8 文献

1 イヌホオズキの仲間の相違点
球状顆粒 種子長 花の数 種子数 葯の長さ 果実径 果序
イヌホオズキ 無し 2o 5〜12 30〜60 2〜3o 7〜10o 総状
オオイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 5〜8 60〜120 2〜3o 7〜10o 総状
アメリカイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 1〜4 60〜120 1〜1.5o 7〜10o 散状
テリミノイヌホオズキ 0〜4*1 1.5o 5〜12 30〜50 1〜1.5o 4〜7o 散状
                         神奈川県植物誌2001をもとに編集。

*1 神奈川県植物誌2001では0〜2であるが、帰化植物ML[655]で勝山は0〜4としているので、それに習った。
*2 帰化植物写真ニュース bSおよび神奈川県植物誌2001には、イヌホオズキやオオイヌホオズキの果序が総状で、アメリカイヌホオズキの果序が散状であるとの写真や図がある。
総状 フジの花のように1つの果序軸から間隔を置いて柄を出し果実(花)を付ける。
散状 1点からほぼ同長の柄を出し、果実(花)を付ける。
*3 球状顆粒(sclerotic granule):イヌホオズキ類の果実中には種子の他に、直径0.5o位の白色球状の顆粒が含まれている。イヌホオズキには含まれず、テリミノイヌホオズキにはないか、極めて少ない。生植物では観察しにくいが、果実をつぶして広げれば見ることができる。標本では、果皮の外側からでも確認できる。イヌホオズキ類の分類に重要視されている。どのようにして作られ、どのような役割をもつのかは分かっていない。(帰化植物ML 534.勝山輝男.を要約)

 以上の諸点を参考とし、
標本で同定するという条件の下で、頑張ってみました。 

2 イヌホオズキ(標本番号010143)
球状顆粒が無く、種子が2mmで、花が多く、果序が総状

図1 イヌホオズキの全体。エプソンGT-9800Fによるスキャン画像。
大きな画像は(ここ)で見ることができるが、fileサイズが558KBと大きいので要注意。

図2 果実(球状顆粒なし) 図3 種子 スケールの最小目盛が0.1mmなので、約2mmである。

図4 果序(1)。散状に近いが総状。 図5 果序(2)。散状に近いが総状。

図6 葯の長さ 標本では、スケールの最小目盛が0.1mmなので、約2.2mm。

 この標本では、球状顆粒が見られず、種子は2mmで32個、花(果実)の数が4〜6で、果序はほぼ1点に付く散状に近いものの、一番下の1〜2個は確実に少し離れる総状であったので、イヌホオズキと同定しました。

 *3で述べた「帰化植物写真ニュース bSおよび神奈川県植物誌2001には、イヌホオズキやオオイヌホオズキの果序が総状で、アメリカイヌホオズキの果序が散状であるとの写真や図がある。」についてですが、極端な総状である場合には分かり易いのですが、現実の生植物では、「さて?」という場合も多くあります。一応の目安でしょうが、頼り切ると危険はあるようです。神奈川県植物誌2001のオオイヌホオズキの記述では「花数が多くなると基部の小花柄1〜2個は離れてつき、花序はやや総状となる。」とあります。花数が多くなれば、1点からでるのが難しくなるのは理解できます。

検索表で、該当する欄をマークしてみましょう。
球状顆粒 種子長 花の数 種子数 葯の長さ 果実の径 果序
イヌホオズキ 無し 2o 5〜12 30〜60 2〜3o 7〜10o 総状
オオイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 5〜8 60〜120 2〜3o 7〜10o 総状
アメリカイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 1〜4 60〜120 1〜1.5o 7〜10o 散状
テリミノイヌホオズキ 0〜4 1.5o 5〜12 30〜50 1〜1.5o 4〜7o 散状
花序の花数 3、4、4、5、5、6、6(3花の花序から6花の花序まであった)  種子数32  種子長 2mm  葯2.2mm

 自宅の庭にもイヌホオズキの仲間がたくさん生えていて、ろくに検討もしないで、どうせ帰化植物のアメリカイヌホオズキだろうぐらいに思っていたのですが、球状顆粒が見つかりませんでした。どうも「イヌホオズキ」であったようです(図7〜13)。

図7 自宅のイヌホオズキ(以下すべて、2004年12月11日撮影)

図8 花序。この図のみ2002年11月4日撮影。 図9 花冠の直径約15mm。裂片の幅は広い。

図10 7個の果実が総状に付く。 図11 果実の直径は約7mm。
図12 種子の長径は約2mm。

図13 1つの果実内のすべての種子を並べた。39個で、球状顆粒は無い。

3 アメリカイヌホオズキ(標本番号010146)
球状顆粒が多く、種子は小さく、花が少なく、果序が散状
図14 アメリカイヌホオズキの全体。エプソンGT-9800Fによるスキャン画像。
大きな画像は(ここ)で見ることができるが、サイズが132KBと大きいので要注意。

 
図15 若い果実では球状顆粒が見やすいことがあるので、同じ果序の4つの果実で球状顆粒を観察した。 図16 図15の裏側を観察した。両図を合わせて数えると、どの果実にも少なくとも8個の球状顆粒が見られる。

図17 種子 スケールの最小目盛が0.1mmなので、約1.4mmである。 図18 葯の長さ 標本では、スケールの最小目盛が0.1mmなので、約1.5mm。

図19 果序(1) 散状 図20 果序(2) 散状
この未熟な果実では、球状顆粒がよく見える。

検索表で、該当する欄をマークしてみましょう。
球状顆粒 種子長 花の数 種子数 葯の長さ 果実の径 果序
イヌホオズキ 無し 2o 5〜12 30〜60 2〜3o 7〜10o 総状
オオイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 5〜8 60〜120 2〜3o 7〜10o 総状
アメリカイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 1〜4 60〜120 1〜1.5o 7〜10o 散状
テリミノイヌホオズキ 0〜4 1.5o 5〜12 30〜50 1〜1.5o 4〜7o 散状
花序の花数 3,3,4,4(3花の花序と4花の花序とがあった)  種子長 1.4mm

4 オオイヌホオズキ(標本番号010155)
球状顆粒が多く、種子は小さく、花が多く、果序が総状

図21 オオイヌホオズキの全体。エプソンGT-9800Fによるスキャン画像。
大きな画像は(ここ)で見ることができるが、サイズが201KBと大きいので要注意。

図22 球状顆粒。標本になると非常に見やすく。表と裏を合わせて少なくとも6個ある。 図23 球状顆粒(裏)。図22の果実を反対側から見たときの球状顆粒。表と裏を合わせて少なくとも6個見えている。

図24 種子(左) スケールの最小目盛が0.1mmなので、約1.5mmである。右は球状顆粒で約0.6mm。 図25 葯の長さ 標本では、スケールの最小目盛が0.1mmなので、約1.3mm。完全に開花すればもう少し長くなるかも知れない。

図26 果序(1) 散形に近い総状 図27 果序(2) 総状。 球状顆粒も見えている裏側にもう1カ所果実の落ちた跡があり、この花序には7花あったことになる。

検索表で、該当する欄をマークしてみましょう。
球状顆粒 種子長 花の数 種子数 葯の長さ 果実の径 果序
イヌホオズキ 無し 2o 5〜12 30〜60 2〜3o 7〜10o 総状
オオイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 5〜8 60〜120 2〜3o 7〜10o 総状
アメリカイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 1〜4 60〜120 1〜1.5o 7〜10o 散状
テリミノイヌホオズキ 0〜4 1.5o 5〜12 30〜50 1〜1.5o 4〜7o 散状
花序の花数 4、4、5、6、7(4花の花序から7花の花序まであった)  種子長 1.5mm  葯1.4mm

5 テリミノイヌホオズキ(標本番号010156)
球状顆粒少なく、種子は中ぐらい、花が多い

図28 テリミノイヌホオズキの全体。エプソンGT-9800Fによるスキャン画像。
大きな画像は(ここ)で見ることができるが、サイズが156KBと大きいので要注意。

図29 種子46個に、球状顆粒(右)1個が数えられる。球状顆粒はもう1個あったが、操作中のピンセットに弾かれて失われた。 図30 種子の長さは1.2mm程と小さいが、図29の果実は裂けていないものを選んだので、種子が完熟していないからである。球状顆粒は長径0.4mmである。

図31 完熟種子 スケールの最小目盛が0.1mmなので、約1.5mmである。 図32 葯の長さ スケールの最小目盛が0.1mmなので、約1.4mm。

図33 いくつかの果序を見たが、ほとんど総状であった。あるいは、最下の1個だけが離れて付く散状というべきか。この点では、テリミノイヌホオズキらしくないが、神奈川県植物誌2001の図でも総状に近い散状として描かれているし、果実が多くなれば散状を維持することは困難になるので、あまり気にしないことにした。

球状顆粒 種子長 花の数 種子数 葯の長さ 果実径 果序
イヌホオズキ 無し 2o 5〜12 30〜60 2〜3o 7〜10o 総状
オオイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 5〜8 60〜120 2〜3o 7〜10o 総状
アメリカイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 1〜4 60〜120 1〜1.5o 7〜10o 散状
テリミノイヌホオズキ 0〜4 1.5o 5〜12 30〜50 1〜1.5o 4〜7o 散状
種子長 1.4mm強   葯1.2mm   種子46   球状顆粒2
 
 多くの果実では球状顆粒は2〜3個で、果実も小さく、葯も小さいので、総合判定で、テリミノイヌホオズキとしましたが、あまり自信はありません。

6 球状顆粒のあるイヌホオズキ?(標本番号010152)

図34 何と同定して良いか分からないイヌホオズキ
エプソンGT-9800Fによるスキャン画像。
大きな画像は(ここ)で見ることができるが、サイズが179KBと大きいので要注意。

 イヌホオズキ類の同定には苦労しております。何度もやり直しては悩んでいました。HPの準備ができたので、もう一度ということで、最後に全体を通して同定し直していましたら、どうもおかしな1枚の標本が出てきました。私の特製検索表に当てはめたところ、全く訳が分からなくなりました。
 種子と葯が大きいことから    「イヌホオズキ」
 球状顆粒が2個あることから   「テリミノイヌホオズキ」
 花の数が少ないことから     「アメリカイヌホオズキ」
が、候補に挙がってきます。
  まずは検索表をご覧下さい。


球状顆粒 種子長 花の数 種子数 葯の長さ 果実径 果序
イヌホオズキ 無し 2o 5〜12 30〜60 2〜3o 7〜10o 総状
オオイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 5〜8 60〜120 2〜3o 7〜10o 総状
アメリカイヌホオズキ 4〜10 1〜1.3o 1〜4 60〜120 1〜1.5o 7〜10o 散状
テリミノイヌホオズキ 0〜4 1.5o 5〜12 30〜50 1〜1.5o 4〜7o 散状
花序の花数 3、3、3、4、4、4、4、5、5、6、6(3花の花序から6花の花序まであった)  種子長 2mm  種子数 64、74    葯1.9mm   標本での果実径8〜9mm

図35 左端の果実を果序から切り離した。 図36 表面には2個の球状顆粒が見えている。

図37 果実を水で戻して種子を調べた。種子64個、球状顆粒2個。 図38 別の果実を水で戻して種子を調べた。種子74個、球状顆粒2個。

図39 左は球状顆粒で約0.9mm。右は種子で約2mm。種子に毛があるように見えるのはカビ。 図40 葯の長さは約1.9mm。

図41 果序は総状。あるいは、最下の1個だけが離れて付く散状というべきか。

図42 球状顆粒といっても
イビツな形だ。

 球状顆粒の存在を重要視すれば「テリミノイヌホオズキ」となるのでしょうが、その他の状況を考えると「イヌホオズキ」らしく思えます。
 数的なもので明確にならない場合は、全体の雰囲気で決定するということがよくあります。なぜそうなんだと聞かれても、自分のイメージ(経験)がそうなんだということなんですが、残念ながら、私にはイメージで決断を下すだけの経験がありません。


7 おわりに
 「アメリカイヌホオズキは花数が少ないことと花冠が小さいこと以外にオオイヌホオズキと違いがない。明確に区別できるものかどうかは今後の検討課題である。」と、神奈川県植物誌2001でも述べられているように、とてもよく似ています。35点の標本について、何度も同定のやり直しをしながら、最後に、検索表にマークをして、得点の高いもの(ただし、球状顆粒」は得点が高い)に決定することで乗り切りました。それでも 「オオイヌホオズキ」と同定はしましたが、図24のように種子が大きく、図25のように、葯が短く(完全に開花すればもう少し長くなるかも知れない。) 「?」が残っているものもあります。
 最後には、イヌホオズキに似ているが、球状顆粒をもつものまで登場しました。

 今年の課題は、生植物をもっと見て、1株1枝にとらわれるのではなく、群落全体の中から、典型的な(代表する)姿を見つけ出すことだと考えています。
 長々と、ご愛読ありがとうございました。


8 文献

勝山輝男. 2001. 神奈川県植物誌2001:ナス科1232−1240.神奈川県立生命の星・地球博物館.
廣田伸七. 2004?. 帰化植物写真ニュース bS.全農教・日本帰化植物友の会.
勝山輝男.帰化植物ML. 534:2002年10月18日.
655:2003年1月30日.

掲載種
一覧
表紙集 リンク集 用語解説 ごあいさつ 作者紹介 お知らせ 掲示版 メール 取材日誌2004

花模様