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オオアカウキクサ  Azolla japonica Fr. et Sav. 
(アカウキクサ科 Azollaceae) 

 学名は日本の野生植物(平凡社)によりました。

   今回のFILEは大作なので、目次を付けてあります。

目 次
(1) オオアカウキクサの姿
(2) 根について
(3) アカウキクサとオオアカウキクサ
(4) 空中窒素の固定
(5) アゾラとアイガモ農法
(6) 外国産アゾラ

(1) オオアカウキクサの姿
 オオアカウキクサは浮遊性の超小型水生シダです。デンジソウ・サンショウモとともに一見シダとは思えない水生シダの一群です。
 根は水中にあり、葉は浮葉となり、水面に漂っています。名前のように水面を赤く染めているとすぐに気づくのですが、緑の時は遠くからでは分かりにくいでしょう。

図1 冬、稲刈りの終わった後の水田を赤く染めたオオアカウキクサ。(2004年12月18日)

図2 近づいてみた。赤くないのも混ざっている。(2004年12月18日)

図3 密度の高いところでは、重なり盛り上がっている。

図4 盛り上がったオオアカウキクサ。ここまでアップしてようやく姿・形が見えてきた。美しい。

 40年以上も前の学生時代、田んぼの水面でよく見た記憶のあるオオアカウキクサですが、このところさっぱり見る機会がありませんでした。いつの間にか、国の絶滅危惧2類、県の絶滅危惧1類にランクされ、100年後の絶滅確率は約100%と推定されています。
 減少の主要因としては、農薬汚染、土地造成、水質汚濁などが上げられています。同じ絶滅危惧といっても、ランやユリなどとは異なり、乱獲(盗掘)ということではなく、環境の変化が重要な要因となっています。
 学名の「Azolla」はギリシャ語の「azo(乾)」+「ollo(殺す)」に由来します。水分が無くなるとすぐに枯れます。スライドガラスに取って顕微鏡観察をしていますと、すぐに干からびて枯れてしまいます。乾燥に弱い特徴を良く表した学名となっています。

図5 必ずしも水中にあるとは限らない。

 乾燥に弱いといっても、必ずしも水中にあるとは限りません。水の引いた湿った土の上にも群生しますが、乾燥すると枯れます。ただこのように塊を作っていると、乾燥には多少耐えられそうです。

図6 表(背面)から見た。スケールは1mm。

図7 裏(腹面)から見た

図8 葉の表面に粒々が見える

図9 葉の表面には小突起が密生する

図10 小突起の拡大

図11 枝の一部を切り出して横から見た。下側の裂片と上側の裂片がよく分かる。

図12 角度を変えてみると、下側の裂片と上側の裂片が一続きのものであることがよく分かる。
図13 切り出した枝の縦断面

図14 図13の拡大画像。上下の裂片は、それぞれ空所を持ち袋状であることが分かる。

 それぞれの葉は、長さ1mm位で、とても小さく、覆瓦状(瓦を重ねたように少しずつ重なる)に配列しています。葉は上下の裂片に分かれ、下側の裂片は皿を重ねたようで水中にあり、上側の裂片は水面に浮かんでいます。

 葉面上には粒状の小突起が密生します。
 上下裂片共に基部には、空所があって袋状になっています。これが水面に浮かぶ浮力の基でしょう。なお、上側の裂片の空所は緑色を帯びていますが、このことについては後に「(4)空中窒素の固定」のところで述べます。

 
オオアカウキクサの2型  但馬型と大和型について

 水生シダは生きる(白岩卓巳)によりますと、全国的に広く分布している「但馬型」と、大阪、奈良に自生する「大和型」とがあるそうです。
 同書には、但馬型の特徴が次のように述べられています。(抜粋)

(1) 秋から冬に日光を受けると葉は赤紫色になる。(大和型は紅色そのものである。)
(2) 一年中連続して育つ。姿を見せない時期はない。(大和型は原則的には春先に大群生し、4〜5月には胞子嚢果を多くつけ、つけた後、やがて枯れていく)
(3) 胞子嚢果をつけることが稀にしかない。
(4) 葉の表面や軸につくイボ状のものははっきりしている。
等の特徴が述べられています。

 なお、同書には、気孔にも特徴があるとして、次の図15が掲載されています。

実物の大和型を見ていませんので、限られた情報からの判断ですが、石川県のものは「但馬型」のようです。
 

図15 但馬型(左)と大和型(右)の気孔の違い。
(出典:水生シダは生きる 白岩卓巳 2000)

図16 石川県産のオオアカウキクサの気孔。但馬型と考えられる。

(2) 根について
 アカウキクサとオオアカウキクサの違いの一つとして、根毛があげられています。身近な参考文献から根毛に関する箇所を拾い出してみますと、
 
アカウキクサ オオアカウキクサ
日本の野生植物 根に長い根毛がある 根に根毛がない
日本水草図鑑 根には長い根毛が密生 根の根毛が早期に脱落して古い根には残っていない
水生シダは生きる 数本が束状になる。長さは2〜4mm。 単生し、長さは1mm前後

 採集したオオアカウキクサには根毛が見られないようでしたが、自宅で栽培して顕微鏡で見ると、密生という状態ではないようですが、「根毛」が明らかに見えました。 

図17 長さ約14mmの根における根毛の状態

  図17は、長さ約14mmの根を部分的に撮影してパノラマ合成した画像です。曲がっていたものを合成に際して真っ直ぐにしたため少し見苦しいところがありますが、様子はお分かりになると思います。
 左が基部(本体に接続する部分)になりますが、根毛がありません。中央部分には長めの根毛があります。顕微鏡による測定では、長いもので、
約0.7mmでした。根の先端付近では、根毛は出てきたばかりで短いです。
 そして
注目すべき点は、根の先端部にあります。次の拡大図を見て下さい。

図18 靴下を脱ぐように、細胞層が剥がれて、その後から根毛が生え出している。

図19 はがれ口の拡大

  このはがれた細胞層は、根嚢(こんのう:root pocket)というもので、若い根を包んでいた細胞層です。これ自身は成長することがないので、根の成長につれて千切れてきたものです。

 次に、根毛の育ち方を、「根の中央部から先端にかけて順番に」見ていきましょう。

図20 根毛と根毛の間隔が十分開いている 図21 根毛と根毛の間隔が開いている
図22 根毛間の開きはすこし小さくなっている 図23 根毛はできたてで短く、根毛間の間隔も小さい
図24 若い根毛は未だ、根嚢から出ていない。(根毛予備軍)。 図25 図24よりさらに短い根毛予備軍

図26 根毛予備軍。まだ根嚢に包まれている。

 根の基部から先端にかけて順番に拡大した 図20〜25 をご覧になるとお分かりのように、中央部には長い根毛が間隔を置いて付いています。そして、根の先端には、根毛予備軍がビッシリとあります。
 根毛予備軍(図24〜26) では、根毛がまだ出ていません。それは根嚢が被さっているからです。
 
 私が疑問に思ったのは、根の先端には根毛予備軍がビッシリあるのに、中央部では、根毛がまばらである事でした。根毛が脱落するのかと思いよくよく観察した結果が、それぞれの図に示した
「線」です。
 どの図を見てもお分かりのように、先の根毛と後の根毛との間には2個の細胞が挟まれています。線は根毛の間にある細胞の境目の位置を示し、線の間隔は、根毛の間にある細胞の長さです。すなわち、基部の細胞ほど、成長して長くなっていることが分かります。
【図20の画面の底にスケールが入っていますが、1目盛りが0.01mm(1/100 mm)です。】
 このため、根の先端部で密生していた根毛が、中央部では間隔が開いて存在することになるのでした。
 根の細胞2個ごとに根毛がつきますので、根の周囲を根毛が取り巻いたリングが、細胞2個おきにできることになります。この根毛リングの間隔は、その細胞の成長によって決まるので、成長量が不揃いになると、リングも歪むことになります。

図27 透明な根毛がほぼリング状に根を取り巻いている。この場合にも、上下のリングの間に2列の細胞層がある事がはっきり分かる。

図28 リングの間の細胞が4列の場合 図29 左の図に、細胞壁を描いたもの

 根毛リング間の基本は2列の細胞ですが、ときには、それぞれが分裂して、4列になっている場合(図29の上段)や、一部だけが分裂して、3列になっている場合(図29の下段)もありました。

 根嚢についての追加事項
 図17〜19で根嚢のことを説明しましたが、じつは根嚢はもっと複雑な内容をもっております。とりあえず、次の図30をご覧下さい。

図30 根を部分的に顕微鏡撮影し、ソフト上でパノラマ画像化したもの

 図17と似ていますが、別の根です。左側が基部(本体に接続する部分)で右側が根の先端です。
Aは根毛のない部分です。
Bは根毛のある部分です。
BとCの境界のところに、はがれた細胞層が見えます。
CとDの境界のところに根の先端があり、Cのところでは根毛が出ていません。根毛予備軍となったままです。
Dもはがれた細胞層です。

 
これはどういう事なのでしょうか。

図31 BとCの境界のところの、はがれた細胞層。左半分では根毛が露出しているが、右半分では、根嚢に包まれたままである。

図32 Dの部分を反射光線で撮影したもの。はがれた根嚢がいままさに取れようとしている。

図33 Cのところでは根毛がまだ出ていません。根毛予備軍となったままです。

 これらの事実から総合して言えることは、なんと根嚢が内外2重になっているという事です。
 たとえて言えば、根が靴下を2枚はいているという姿です。Dの部分は外側の根嚢で、Cの部分が内側の根嚢なのです。
 
 じつは、「水生シダは生きる」の57ページに、こんな記述がありました。

「根の先端にある根嚢は二重の内・外嚢からできており、内嚢は外嚢の約2倍と長い。オオアカウキクサの根は長く、根毛、外嚢はとれやすい。」

 根嚢は成長しないので、根が成長すると、短い方の外側の根嚢が、先に千切れてはがれ落ちていきます。内側の根嚢は長いので(2倍かどうかは確認していませんが)遅れてはがれ落ちます。それが図18・31の姿、すなわち内側の根嚢がはがれていた状態なのでした。

念のため、もう一度申しますが、外と内の2重の根嚢がはずれてしまわないと、根毛は顔を出すことができません。

この不思議な姿を読み解くのに、「水生シダは生きる」が役に立ちました。少しのことにも、先達はあらまほしき事なりでした。

 デンジソウも奥深い植物でしたが、オオアカウキクサも負けずに奥深いです。まさに自然の神秘です。

(3) アカウキクサとオオアカウキクサ

図34 アカウキクサとオオアカウキクサの分布図。
(出典:日本水草図鑑 角野康郎 1999 文一総合出版)

 この分布図から言うと、石川県にはアカウキクサの分布はなさそうです。

図35 石川県産のオオアカウキクサ。右のアカウキクサと比べて、全体の形が明らかに異なる。 図36 静岡県産のアカウキクサ(兼子勝明さん提供)

 日本水草図鑑では、
アカウキクサは全体が三角状で、
オオアカウキクサはアカウキクサのように整った三角状にならない。
 という記述があります。 
確かに、兼子勝明さんが画像掲示板に投稿されたアカウキクサの画像(図36)では、角のある三角状であり、石川県産のオオアカウキクサ(図35)は、角が丸くなっています。
 根毛などについての特徴は分かりませんが、図36はアカウキクサでいいようです。

お願いします
 図34のように、石川県にはアカウキクサの分布が知られていませんので、オオアカウキクサだけについての記述となりました。もし許されるなら、どなたか、アカウキクサの生品をご恵送頂けないでしょうか。
 根についての項で見てきましたように、「単に根毛の有る無し」という点だけではアカウキクサとオオアカウキクサを区別することができません。もっと詳しく、根毛の長さや生え方、気孔をオオアカウキクサと比較検討したいので、よろしくお願いいたします。

(4) 空中窒素の固定
 アカウキクサ類(以後”アゾラ”とよぶ)の葉には、藍藻類(らんそうるい)の Anabaena azollae が共生することが知られています。

シアノバクテリア(らん藻) は多細胞または単細胞の微細藻類で、藻類の仲間に入っているが、実は細菌の仲間の原核生物である. 葉緑素を持っていて、光合成をして、生活できる点では藻類である.その多くは酸素ガスの低い条件で空中の窒素ガスをアンモニアに還元して、同化できる.この働きを 窒素固定作用 という.空気中でも窒素固定作用を行えるものもいて、その大部分は ヘテロシスト(異型細胞) という大きな細胞をもっており、その細胞でのみ、窒素固定が行われる.
(渡辺 巌氏のHP「がんさんのホームペ−ジ」からの引用です。
http://www.asahi-net.or.jp/~it6i-wtnb/azolla.html )

 アゾラの空中窒素を固定する能力は高く、条件が良ければ1日1haで3〜5キロも窒素を固定できるそうです。ちょうどマメ科の植物の根に根粒バクテリアがついて空中窒素を固定するのと同じ働きです。
 固定された窒素は、アゾラが分解されてから水田の窒素肥料として役に立ちます。日本では水田の雑草として捉えられていましたが、中国南部やベトナム北部では、イネの緑肥として長い間利用されてきました。田植え前の1〜2ヵ月間、水田にアゾラを増殖させ、それを田植え前にすき込み基肥として利用する方法。田植え後のイネの株間で増殖させ、除草時にすき込み追肥として利用する方法等です。
(アイガモ水稲同時作 古野隆雄 からの引用です。)

図37 上側の裂片を縦断すると、緑色で粘液が入った空所がある。この粘液を取り出すと多数の Anabaena が得られる。 図38 上側の裂片の腹面の中央下寄りに、白い細胞群がある。ここが Anabaena の入る入り口だ。

図39 若い葉では穴の周りの細胞は白くはないが、穴が分かりやすい。 図40 このように入り口がはっきり見えることは稀である。

図41 Anabaena は藍藻類のネンジュモ(念珠藻)目に属する。ところどころにあるヘテロシスト(異型細胞)が念珠(数珠)を連想させるのだろう。

図42 600倍で観察した Anabaena 。大型の細胞がヘテロシスト(異型細胞)

 Anabaena は小さくて肉眼では認識不可能なため、初めは見つかりませんでした。上側の裂片の空所にある粘液部分を念のため顕微鏡観察して、やっと見つけることができたものです。
 図41及び42の下にスケールを挿入してありますが、いずれも単位は、1/100mmすなわち10μm(マイクロメートル)です。

(5) アゾラとアイガモ農法

 最近、アイガモ農法ということが行われていますが、ここにアゾラを加えて、「アゾラ+イネ+アイガモ」システムにすると、効果の高まることが注目されています。
 詳しく述べる余裕はありませんが、
アイガモにとっては、アゾラが餌となったり、アゾラが固定した空中窒素を主たる栄養源として繁殖するユスリカなどが増え、アイガモの餌となり、アイガモの生育に効果があります。
アゾラにとっては、アイガモがアゾラの中を泳いでかき回すことによって、アゾラの過密状態の緩和や土壌中のリンを浮遊させてアゾラの吸収しやすい形にする効果によって、大繁殖します。
イネにとっては、アゾラの死骸が緑肥としての効果があり、アイガモが雑草を食べてくれたり、アイガモの糞が肥料となります。
 この項は、「アイガモ水稲同時栽培(古野隆雄)」を参考にして執筆してあります。詳しくは、同書をお読み下さい。

(6) 外国産アゾラ

図43 金沢城公園湿生園のアゾラ。水が引いて陸に取り残されたものも見える。

図44 金沢城公園湿生園のアゾラのアップ

図45 金沢城公園湿生園のアゾラ(左:横幅約9mm)と石川県産オオアカウキクサ(右:横幅約13mm)の比較。スケールは1/2mm 単位である。

 アイガモ農法の餌として、あるいは栽培水生植物にくっつくという形で、外国産のアゾラ(Azolla)が日本にも入り込んでいます。
 石川の植物平成16年12月号の表紙に使った金沢城公園湿生園のアゾラについて、当初、オオアカウキクサとして公表したものですが、「葉が小さい」ことで疑問がありました。
 兵庫県立人と自然の博物館の学芸員、鈴木武先生に標本をお送りして同定のご依頼をいたしました。
 アゾラ類の正確な同定には「DNA分析」が必要だそうですが、先生はただいま多忙で、分析をする暇がないので、形態の上からの同定でしたが、おそらく Azolla caroliniana ではなかろうかとのことでした。春になれば時間的にゆとりができて、「DNA分析」を行えるとのことでした。急ぎませんが、その結果がまとまれば、内容の変更があるかも知れません。ご了承下さい。

 今回の取材に当たりましては、各地のアゾラを混同してはならないとの配慮から、極力石川県産のものについてのみご報告させて頂きましたが、 Azolla caroliniana については、5月頃に胞子嚢果ができるらしいので、その時点で続編をお送りできればと考えています。

 ダラダラとした長文におつきあい下さいましてありがとうございました。

また不慣れなため、思い違いをしていることもあるかも知れません。専門家の方のご意見を頂ければさいわいです。


 文献

牧野富太郎・
清水藤太郎.
1939. 植物学名辞典:9. 春陽堂.
猪野俊平. 1964. 植物組織学:414.内田老鶴圃新社.
岩槻邦男(編). 1992. 日本の野生植物 シダ:285. 平凡社.
長谷部光泰. 1996. 週刊 朝日百科 植物の世界:12-5. 朝日新聞社.
角野康郎. 1999. 日本水草図鑑:12.文一総合出版.
環境庁 編. 2000. 改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 植物1:430.環境庁.
白岩卓巳. 2000. 絶滅危惧植物 水生シダは生きる:39−94. 自費出版.
古野隆雄. 2004. アイガモ水稲同時作:61−82.農山漁村文化協会.
渡辺 巌        がんさんのホームペ−ジ  http://www.asahi-net.or.jp/~it6i-wtnb/azolla.html

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