続 デンジソウ
FILE111
デンジソウ  Marsilea quadrifolia L. 
(Marsileaceae デンジソウ科)    

 デンジソウは、FILE101 として昨年発表済みですが、このたび胞子嚢果(ほうしのうか)を観察できましたので、解説を追加いたしました。前編が相当長いものになっていましたので、「続 デンジソウ」として独立させました。
 デンジソウに興味を覚えられた方は、ぜひ前編の「FILE101デンジソウ」(ここをクリック)もご覧下さい。

図1 デンジソウ(田字草)。分かりやすい名前だ。これが「シダ類」というから驚きだ。(2003年10月20日)

図2 デンジソウを栽培中のプランター(2004年8月2日)

 2003年に、自然史資料整備室の調査で見つけたデンジソウをプランターで栽培しました。
 夏頃から、毎日のように、胞子嚢果ができていないかと観察していましたが、見つかりません。もっとも図2のように茂っていたので、探すことも困難ではありました。秋になって、葉が枯れ出した頃には、すっかり忘れ去られていたのですが、2004年11月17日に、ふとのぞいて見る気になりました。

 
図3 2004年11月17日のプランター。かなり枯れている。

 プランターの内の一つ(図3の上側のプランター)が、なぜか水が無くなって、乾きかけていました。葉もほとんど枯れていたので、生え際を探していると、黒っぽい豆のようなものが見えてきました。「胞子嚢果だ!!」
 ついに見つけました。

図4 胞子嚢果。枯れた葉柄や葉が邪魔になって撮影しにくい。(2004年11月20日)

図5 胞子嚢果が立ち上がっている。

図6 毛が垂れている。

図7 「毛」は平べったく、胞子嚢果の後端には、角のような突起が突き出ている。

図8 大きさを知るため胞子嚢果を方眼スライドガラスに載せて撮影。最小の目盛りは 0.1mmで、太い目盛りは1mmなので、胞子嚢果の長さは約4mmである。

 日本の野生植物(シダ)によると、「胞子嚢果は密に軟毛があるが、毛は早落性。」とあり、
 日本水草図鑑によると「胞子嚢果は堅く、長さ3〜5mm、はじめ白い軟毛に包まれるが、やがて毛は落ちて黒色〜褐色になる。中に数個の胞子嚢群があり、1個の大胞子を含む大胞子嚢と多数の小胞子を含む小胞子嚢が混じる。」とあります。また、「水中での胞子嚢果の形成は観察したことがない。」ともあります。

 水生シダは生きる(白岩. 2000)によれば、「胞子はいつ頃からつくられるか。自生地や栽培を通して観察した結果からデンジソウは日本では7月後半から9月末にかけてであることが確認できた。よほどよく注意していないと胞子嚢果をつけているのに出会うことは稀である。ということは胞子嚢果が形成されることがごくあたりまえであるとはいえないからである。どちらかというと、つくのをみる機会が少ないからである。」とあります。


 確かに今回は、水の無くなったプランターにしか胞子嚢果は発見できませんでした。
 また、デンジソウには、図鑑等には記載されていない特徴があります。それは、図7ではっきりしていますが、胞子嚢果の果柄側の先端部(胞子嚢果の後頭部とでもいう位置)に角状の突起があることです。これが何を意味するものかは分かりません。分からないことだらけです。

 ところで、胞子嚢果とは耳慣れない言葉ですが、種子植物の果実が、中に種子を蔵しているのに対して、シダであるデンジソウでは、胞子が胞子嚢の中にあり、多くの胞子嚢が集まって、硬い殻(から)の中で保護されています。これが、胞子嚢を入れた果実のように見えるところから、胞子嚢果というのだと考えれば覚えやすいでしょう。

 胞子嚢果の中を見てみたいと思いました。胞子嚢果は外側に石化した細胞層がありとても硬くできているので、鋭利なカミソリでやっと切断することができました。中の胞子嚢が切断の際に壊れることが多く、分かりにくい点もありましたが、「水生シダは生きる」を手引きとして何とか、次のように理解することができました。

図9 胞子嚢果をカミソリで切断した。毛、黒い石化した細胞からなる壁、ベールのような仕切を構成する細胞層、大小の胞子嚢からなる。

図10 胞子嚢果の壁。4層からなる。

図11 胞子嚢果の壁の拡大図。反射光で撮影。

図12 胞子嚢果の壁の拡大図。透過光+反射光で撮影。

 胞子嚢果の壁がどういう構造になっているか。これはかなり難しい問題でした。いくつかの断面を見た結果。図10で示したように4層からできていることが分かりました。
 1は、外側の表皮の部分です。
 2は、石細胞化した硬い部分です。
 3も、石細胞化した硬い部分です。
 4は、壁の内張になっている、スポンジ状の隙間の多い
     層です。
      図9の断面図(あるいは下の図13)と併せて考えれ
     ば、この層の細胞がベールのような仕切につながる
     と言えそうです。

 はじめ、第2層と3層の区別が付きにくかったのですが、透過光で観察したところ、、図12のように光の通り方に明らかな違いがあり、別の層であることが確信できました。
 第2層には仕切が見られますが、これがどういう意味を持つのかは、今のところ謎です。

図13 小胞子嚢では、中の小胞子が見えている。大胞子嚢の中には1個の大胞子しか入っていないという。

 胞子嚢果の中は、ベールのようなものでいくつかに仕切られていました。米粒のような大型のものが大胞子嚢で、細かい粒々が小胞子嚢内の小胞子です。
 この例では、胞子嚢果の底の方に小胞子嚢が多く、上部に大胞子嚢が多く分布していました。

 右の方には、カミソリで切断された大胞子嚢も見えます。

図14 ベールのような仕切に包まれた大胞子嚢

図15 仕切の中に小胞子嚢が並んでいる。左の方では、一部小胞子がこぼれ出ている。

図16 破れた小胞子嚢から出た小胞子が散乱している。赤血球のように中央がくぼんだ形をしているのは、未成熟なのだろう。大型で卵形のものは大胞子嚢。

図17 こうやって見ると、大胞子嚢は蚕(カイコ)の繭(まゆ)のような形にも見える。

図18 大胞子嚢の切断面がドーナツ形に見えるのは、未成熟で中身が充実していないもの。

図19 中身の充実した大胞子嚢(断面)も見られる。

図20 大胞子嚢の先端は色が変わっていて、蓋(ふた)か栓(せん)のように見える。これがどういうふうに発芽するのだろうか。

 大胞子嚢の切断面を見ると、中が空っぽのものが多くありました(図18)。小胞子は、まるで人の赤血球のように中央がくぼんで見えるものが多くありました(図16)。それぞれ未成熟なのだと考えています。

 「水生シダは生きる」には「デンジソウの胞子嚢果内では大小胞子とも未成熟なものが多い。見かけは胞子嚢果ができていても、胞子の完熟することが少ないのではないか。」との記述があります。私の観察結果も、それを裏付けています。
 たくさんの胞子嚢果が得られたので、来年、どういう発芽をするものか観察したいと考えています。

図21 葉柄の途中、約1cmのところから胞子嚢果が出ている。図は胞子嚢果が2個の例。

図22 胞子嚢果が1個の場合 図23 胞子嚢果が3個の場合。左には未発達の普通葉が見える。

 デンジソウの胞子嚢果は時に葉柄の基部から出ることもありますが、普通は葉柄の基部より少し上から出る短い枝に1〜3個付きます。
 未だ見たことはありませんが、近縁で、九州南部と南西諸島に分布するナンゴクデンジソウは胞子嚢果の果柄が、葉柄の基部から直接出ることで区別ができるとのことです。

 本稿を作成するに当たり、「水生シダは生きる」の著者、白岩卓巳氏に査読をお願いし、いろいろ御教示を受けました。感謝申し上げます。

 胞子がどのようにして発芽し、どのような前葉体を作り受精するのか、まだまだ不思議が一杯です。デンジソウの第3部を発表できる日が来ると良いのですが。
    デンジソウは魅力的で、奥の深い植物です。

 文献

岩槻邦男. 1992. 日本の野生植物 シダ:283. 平凡社.
角野康郎. 1999. 日本水草図鑑:12.文一総合出版.
白岩卓巳. 2000. 絶滅危惧植物 水生シダは生きる:95−138. 自費出版.

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