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クロモ  Hydrilla verticillata(L. fil.)Royle 
(Hydrocharitaceae トチカガミ科)     

図1 金沢市の水路中のクロモ(雄株)(2000年8月25日)

 私たちの身近には、似たような「藻」として、クロモ、オオカナダモ Egeria densa Planch.、コカナダモ Elodea nuttallii (Planch.) St. John. の3種があります。
 それぞれ別の属であり、確かに異なるのですが、栄養状態によっては紛らわしい育ち方をする場合もあります。
 クロモは、かつては各所の水路にあって、学校教育の場では、原形質流動の観察や光合成の実験にも使われたものですが、今ではすっかり少なくなり、「絶滅危惧1類(石川県)」にランクされるまでになってしまいました。
 オオカナダモは「カナダ」という名前とは異なり南米原産の帰化植物で、石川県でも昔は、数カ所しか知られていませんでしたが、最近は増加傾向にあるように思われます。コカナダモは、北米原産の帰化植物で、クロモに変わって水路をふさぐ勢いで増え続けています。
 この度、3種を身近に観る機会がありましたので、オオカナダモ・コカナダモとの比較もしてみたい思います。

  数年前、勤務先の近所の溝で「クロモ」らしきものを発見して喜んだのですが、絶対にクロモであるという自信のないまま、無責任にも「クロモ」だと公言し、水槽に入れて育てていました。今年の8月、栽培水槽に多数のゴミのようなものが浮かんでいるのに気が付きました。実体顕微鏡で観ると、まさしく「クロモ」の雄花でした。(図2)

図2 クロモの雄花(おばな)。実物の直径は約2〜2.5mm。水面の丸い玉は花粉。

図3 雄花 図4 雄花を横から見たときの大きさ。最小の目盛りが0.1mm

 クロモの雄花は、萼片3、花弁3、雄しべ3からなり、植物体から離れて水面で開花します。
 萼と花冠が反り返って、水面に立ち上がり、花粉を放出し、わずかの風でも水面をするすると移動できます。萼片は特に大きく、お椀のようにくぼんでいて、くぼんだ面を外側に向けて、水面に立っています。花弁は細い棒状で、やはり、水面へ向かって反り返っています。
 萼片・花弁・雄しべの構造は、肉眼で観る時はかなり鮮明に分かりますが、いずれもほとんど透明に近いので、写真では分かりづらいのが難です。物の本には、「花弁は淡紫色」(日本の野生植物)とか「がく片、花弁ともに淡紫色」(野草図鑑)等と記載されていますが、私の観察したクロモでは、「
葯だけが淡紫色」(図2)でした。

図5 雄花を真上から見た。淡紫色の葯が側面で開いている

 雄しべは3個で、それぞれ2個ずつの葯室からなっています。葯室は側面で大きく開いて花粉を放出します。

図6 開花し、葯が開き始めたところ(9月23日13時54分50秒) 図7 右上の葯が花粉を放出した(9月23日13時54分54秒)

図8 左上の葯が花粉を放出した(9月23日13時55分0秒) 図9 下の葯が花粉を放出した(9月23日13時55分4秒)

 たくさんの雄花を観ることができましたが、いつ観ても花粉を放出済みのものばかりでした。ある日、例によって撮影していますと、何か視野の片隅に動くものが見えました。瞬間、雄花が浮かび上がってきたと直感して、そちらへレンズを向けますと、今まさに浮かび上がった雄花が花粉を放出しているところでした。見る見るうちに、次々と葯が裂開していきました。
 リングストロボを使い、絞りをF22まで絞って撮影していました。水面の反射の影響でカメラの向きによって明るさが変わるので、撮影のつど試し撮りをしながら露出補正をしていたのですが、急なことで試し撮りをしている暇がなく、極端に露光オーバーな画像になってしまいましたが、葯が順々に開いていくことだけはお分かり頂けると思います。なにしろ、たった14秒間のできごとでした。

 開花も面白いのですが、蕾?も傑作です。
 雄花は葉腋にある「苞鞘(ほうしょう)」というものに収まっています。苞鞘は球形でトゲトゲです。(図10)この中に蕾が1個入っています。開花時には、苞鞘が裂け、花柄が切れて雄花が水面に浮き上がります。でも、この瞬間を撮影できるのはよほどの偶然か、よほどの暇人(いえ、熱心な人)だけでしょう。なにしろ、何時、浮かび上がってくるか、分からないのですから。

図10 葉腋にあるトゲトゲの苞鞘(ほうしょう)の中に、1個の雄花が収まっている。

図11 雄花を放出した後の苞鞘

雌花(めばな)

図12 雌花

 クロモの雌花も萼片3、花弁3からなりますが、ほぼ似たような形をしています。雌花は、葉腋につき、子房が長く花柄状に伸びて、水面に半ば水没するような形で開花しています。こうすれば、水面を流れてきた花粉が、花被(萼・花冠)の隙間から雌しべに到達するのに都合がよいことになります。
 クロモのような受粉の仕方をする花を
「水媒花」といいます。

図13 雌花。花被が6枚あり、幅の狭い3片が花弁

図14 雌しべの柱頭。花粉を捉えるための透明な突起でおおわれる

 雌花の材料がうまく得られませんでしたので、不十分な内容ですが、顕微鏡で観ると、柱頭には透明な突起がたくさん付いていて、花粉をとらえるのに都合よくできているようです。

 日本水草図鑑によりますと、クロモには、雌雄異株の系統と雌雄同株の系統とがあり、雌雄異株の系統が全国的に分布するのに対し、雌雄同株の系統はおもに西日本に分布するということです。また、詳しいことは分かりませんが、「染色体において2倍体(2n=16)と3倍体(3n=24)があり、2倍体の雄株と雌株が混生している場合しか結実は起こらない。」(原文のまま)とあります。
 今回観察できたのは数年前に勤務先の近所で採集した雄株の系統と、今年、別の場所で採集した雌株の系統です。両系統を栽培すれば、受粉の瞬間や結実が観察できるかも知れません。今後の楽しみです。

 最後になりましたが、クロモ、オオカナダモ、コカナダモの比較をしてみましょう。
 原色日本帰化植物図鑑(保育社)に、詳細な比較図がありますので、一部引用させていただきます。

輪生葉の数 硬さと屈曲性 雄ずい(本) 殖芽
クロモ 2〜9
普通5〜7
硬くて折れやすい
下方に湾曲する
つくる
コカナダモ 2〜4
普通3
やや硬くて折れやすい
左右に強くよじれる
つくらない
オオカナダモ 3〜6
普通4〜5
柔らかで折れにくい
左右に少しよじれる
つくる

図15 オオカナダモの花。
 広楕円形の大きな3枚の白い花弁が目立ち、花を見ればオオカナダモであることが直ちに分かる。日本へは雄株しか入っていないとのことである。写真は、友人の鳥畠昭信氏撮影(2001年8月18日)

殖芽(越冬芽)

図16  クロモの殖芽

 クロモは、めったに種子をつくりませんが、代わりに殖芽とも言われる越冬芽をつくって冬を越し、その他の植物体は枯死します。


図17  葉の比較(1)

図18  葉の比較(2)

図19  オオカナダモの葉 図20  クロモの葉

図21  コカナダモの葉

図22 左上:コカナダモ 左下:クロモ 右:オオカナダモ 図23 オオカナダモの葉

図24 コカナダモの葉 図25 クロモの葉

 先日、ある町の公園の中を流れる水路にヘドロやゴミがたまって汚いという町民の要望で、町が業者に清掃を委託しました。業者がバキュームカーを使って、ヘドロに加えて大量のクロモとわずかに生育していたミズアオイ(いずれも石川県における絶滅危惧植物)をすっかり吸い取ってしまい、「自然保護に対する配慮が足りないと」新聞で叩かれていました。「雑草が多く、ミズアオイやクロモの存在には気づかなかった」(都市計画課)。
 どんな調査をしたのやら、クロモのせいで水がよどんだりゴミがたまったりしていたのに(私の考えでは、雑草だと思っていたものが、クロモであったはずなんですが。)。要するに、行政に「クロモ」を見る目がなかったということです。
 9段抜きの大きな記事でありましたので、かなりの関心を呼んだようでした。

 文献

角野康郎. 1999. 日本水草図鑑:.25〜28.文一総合出版.
山下貴司. 1982. 日本の野生植物 1:5〜6. 平凡社.
長田武正. 1988. 検索入門野草図鑑 1 つる植物の巻:160〜161.保育社. 
長田武正. 1990. 原色日本帰化植物図鑑:398〜399.保育社.
学名は、日本水草図鑑に従いました。.


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