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カラスノゴマ  Corchoropsis tomentosa (Thunb.) Makino 
(Tiliaceae シナノキ科)     

図1 石川県では割と少ないカラスノゴマ。金沢市で(2005年9月12日)

 カラスノゴマとの最初の出会いは、大学時代にさかのぼります。白山下の路傍で採集して先生に見せたところ、石川県で初めての採集だと言われました。
 それ以後、石川県では見ていませんでした。稀なものということではないようですが、どこにでもあるというものでもありません。2002年、2003年と相次いで自生地を見つけ写真に納めることができました。
 先日、私のところの画像掲示版に投稿があり、それをきっかけに雄しべの数がどうであるかという話に発展しました。自生地へ確認に行こうと考えていたとき、自宅の庭に覚えのある黄色い花が咲いていました。カラスノゴマでした。というわけで、雄しべの数にポイントを置いたFILEの作成と相成りました。 

図2 葉の陰に隠れるように、下向きに咲く花。

図3 黄色い5弁花。雄しべが沢山見えている。10本以上あるみたい。

 いつも参考にしている「検索入門 野草図鑑」に、「おしべ10」と記載してありました。しかし、画像を見る限り、10本以上あるような感じでしたが、正確なところは画像では判断が付きませんでした。というのも、「雄しべの数」を意識して撮影した画像ではないからです。「心ここに在らざれば、見れども見えず、聞けども聞こえず」と言いますように、意識的に撮影した画像でないと詳しいことが分かりません。
 よく1枚の画像のみで、名前を教えてほしいという依頼がありますが、漫然と撮った画像では、決め手に欠けて名前を特定できないことが多いものです。
 石川の植物が、多数の画像を使ったFILEになっているのは、ポイントをそれぞれ画像にすると、どうしても多数の画像で説明せざるを得ないからです。その代わり、ポイントについて意識した画像を使っていますので、読者の方の理解に役立っているのではないかと思っております。

 「検索入門 野草図鑑」には、萼片5、花弁5、おしべ10、仮おしべ5、めしべ1、と記載されています。そして、それぞれの長い仮雄しべの基部に2本の雄しべが描かれています。
 この辺りから実物で検討してみましょう。


 
図4 萼片5 図5 花弁5

図6 花の要素

 図6で説明いたします。長い仮雄しべが5本立っています。それに囲まれて1本の雌しべがあります。そして雄しべが多数見えます。

図7 雌しべの柱頭。裂けているが、花粉が沢山付いているとよく分からない。 図8 蕾(つぼみ)を分解して、まだ花粉の付いていない柱頭を見ると3つに裂けていることが分かる。

図9 先端が少し内側に折れている5本の仮雄しべに囲まれるように、その中心に先端が3裂した雌しべの柱頭が見える。

 雌しべは仮雄しべに比べて少し短いのですが、花粉まみれになっていますと、仮雄しべと見誤り易いことがあります。雌しべの基部の子房が、毛だらけですので、子房からたどっていけば分かります。雌しべの柱頭は3裂していますが、大きくは開かないので分かりにくいです。

図10 仮雄しべは薄っぺらで、先端部が少し曲がったヘラのような形をし、花粉にまみれていることが多い。

 仮雄しべが花粉まみれになっていることが多いので、ひょっとして仮のものではなく、ちゃんと花粉をつくるのではないかと考えて、観察を続けましたが、花粉を入れておけるほどの厚みがなく、花粉を出すための穴や裂け目も見つかりませんでした。

図11 蕾(つぼみ)を解体して雄しべ等を見た。

 そこで、蕾を解体して、どうなっているかを見ました。
柱頭の周りに毛むくじゃらで緑色の仮雄しべがありました。その周りを多数の雄しべが取り巻き、一部の葯は花粉を放出していました。
 図3・図9・図10で見るように、開花した花において、仮雄しべに多数の花粉が付いていて黄色く見えているのは、葯が裂けて放出した花粉が、仮雄しべの毛に捉えられているものであることが分かります(仮雄しべの裏側には花粉はほとんど付いていません)。
 このように、花の奥にある葯が花粉を放出するほかに、花の入り口にある仮雄しべも花粉を付けているということになれば、花を訪れた昆虫に花全体で花粉を付けようとしていることになります。
 
カラスノゴマも考えたものです。

 時々参考にしている「図解植物観察事典(地人書館)」に面白いことが書いてありました。「雄しべの位置関係を見ると、花弁の内側に4本の雄しべが並び、内側のものほど長い。最も内側のものがずばぬけて長い。これが仮雄しべである。」というものです。
 もう少し砕いて説明しますと、「
それぞれの花弁の内側には4本ずつの雄しべがあり、外側の花弁に近いものほど短く(中心の雌しべに近いものほど長く)、一番長いのが花粉を受け取る役目に変わった仮雄しべである」ということになります。そして、花弁が5個あるわけですから、花全体としては、仮雄しべ5、長雄しべ5、中雄しべ5、短雄しべ5、つまり、仮雄しべ5本に、雄しべが15本あることになります。
話が複雑になりましたので、図解で見てみましょう。

図12 花糸の長さの異なる雄しべの配置。

 図12は蕾の時に萼と花冠を取り除いて見たものですが、3種類の長さの雄しべがあることがはっきり分かります。

図13 開花した状態で、花弁を外して見た雄しべの配置。

 開花した状態で見てみましょう。中央に雌しべが見えます。仮雄しべが5本見えます。長い雄しべが5本見え、これは立ち上がっています。中雄しべと短雄しべはこの図では区別が付きにくいですが、合わせて9本見えています。

図14 雄しべの生え際で、位置関係を見た。

 先ほどの、それぞれの花弁の内側には4本ずつの雄しべがあり、外側の花弁に近いものほど短く(中心の雌しべに近いものほど長く)、一番長いのが花粉を受け取る役目に変わった仮雄しべである」が言えるかどうか見てみましょう。
 
確かに、雄しべの生え際を見てみますと、外から、短雄しべ・中雄しべ・長雄しべ・仮雄しべの順に生えていることが確認できました。
 
こういうセットが5セットあるので、仮雄しべが5本、雄しべが15本となります。
 ついでですが、雄しべの根元に「
」も光って見えています。

図15 これまで画像で見てきたところをイメージ図でご覧下さい。
この図で示した仮雄しべ・雄しべ・花弁のセットが5つで1つの花を作っています。

図16 葉の表の毛 図17 葉の裏の毛

 葉の表裏ともに星状毛でおおわれていますが、裏の方が密です。
図18 茎の毛 図19 子房の毛

図20 果実 図21 果実(2)

   まとめ

私の観察したカラスノゴマは、いずれも雄しべが15本でありました。
私の手元にある図鑑類の記載では、次のようになっています。

・日本山野草・樹木生態図鑑:雄しべ5
・検索入門野草図鑑:雄しべ10
・図解植物観察事典:雄しべ15
・野に咲く花:雄しべ10〜15
・新日本植物誌:カラスノゴマ属の記載に、雄しべ10〜15
・日本の野生植物:カラスノゴマ属の記載に、雄しべ10〜15

 皆さん、まちまちの数字を出しておいでです。雄しべの数にばらつきのあることはよくありますので、


 下記の要領で、読者の皆様に情報を求めたところ、「5本から15本の間で不規則になっている」と結論できることになりました。情報をお寄せ下さった方々、ありがとうございました。

 このようなばらつきのあるものを記載するにあたっては、自分の身近にある例だけではなく、広く観察しなければ読者に間違った情報を伝えることになりますから、図鑑の著者は、大変だな、と思いました。

 読者の皆様にお願いです

あなたの身近のカラスノゴマでは、雄しべがいくつでしょうか?

カラスノゴマの雄しべの数(仮雄しべを含まず)が、はっきり分かる説得力のある画像を募集いたします。
 向こう側が見えていなくても想像できればよいです。雄しべのはっきり写っている画像を下記のアドレスへ、ダイレクトメールして下さいませんか。

アドレスはここをクリック


気長にお待ちしています。


高木鎮夫様(兵庫県)からの情報(1) 
図22 雄しべ5本の花(仮雄しべはピントからはずれている)

高木鎮夫様(兵庫県)からの情報(2) 
図23 雄しべ9本の花(7本が見え、2本は隠れている)

高木鎮夫様によれば、図23では、5つの雄しべ群において、仮雄しべを除けば、1本、1本、3本、2本、2本の計9本であったとのことです。ちなみに図23の手前左に見えているのが、雄しべ3本の群で、右に見えているのが雄しべ1本の群です。(仮雄しべを除いて、最高が雄しべ3本となります。)

大林 道子様(東京都)からの情報(1)  
図24 仮雄しべが無く、雄しべが5本の花

雄しべの層(輪)が欠けるため、雄しべの数が少ない花があると同様、仮雄しべの層が欠けている花があってもおかしくないわけです。

大林 道子様(東京都)からの情報(2)  
図25 仮雄しべがまとまった花

雨の後、仮雄しべが雌しべを守るかのように 集まってぐるっと雌しべをくるんでいた。
【仮雄しべが雨水を受けてくっついただけなのか、雌しべの柱頭を守ろうとする動きをするのか興味がありますね。】

 文献

佐竹義輔. 1982. 日本の野生植物 2:239. 平凡社.
長田武正. 1975. 検索入門野草図鑑 7 さくらそうの巻:88.保育社. 
沼田 眞 監修. 1990. 日本山野草・樹木生態図鑑:540.全国農村教育協会.
家永善文ほか
1982. 図解植物観察事典:159. 地人書館.
林 弥栄 監修. 1997. 山渓ハンディ図鑑 1 野に咲く花:229. 山と渓谷社.
大井次三郎. 1983. 新日本植物誌:1002. 至文堂.
家永善文ほか. 1982. 図解植物観察事典.:571〜572. 地人書館.


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