FILE104  ジャケツイバラ  Caesalpinia decapetala (Roth) Alst. var. japonica (Sieb. et Zucc.) Ohashi 
       (Caesalpiniaceae ジャケツイバラ科)

 ジャケツイバラは漢字表記をすると「蛇結茨」となります。枝がもつれながらくねっているさまを、ヘビがからみ合っているようすに見立てて名付けられたといわれています。(花と樹の大事典)〔作者注:雌雄の蛇がまるで結ばれたかのように絡み合っているという情景をイメージしたものでしょう。〕
 一方、鋭く丈夫な刺に蛇でも、絡め取られてしまうという意味合いを感じることもできます。

 属名の Caesalpinia はイタリアの植物学者、哲学者、医者で、法王クレメンス8世の侍医、また『De Plantis』(植物分類体系. 1583)の著者でもあったチェザルピーノ(A. Cesalpino、1519ころ−1603、ラテン語のつづりでは Caesalpinus)の名にちなむ(園芸植物大事典による)とのことです。種小名の decapetala は、10個の花弁をもつという意味です。5個しか花弁がないのに、なぜこのような名前が付いたかは分かりません。(同色の萼片と合わせれば10個にはなりますが。)
 イバラ(茨)の名のごとく、蔓(つる)性の落葉低木で川岸や林縁に生えます。
 国内での分布は宮城県・山形県以南です。

図1 川岸の木に絡まって花を咲かせている。目に鮮やかな黄金色だ。(2004年5月15日)

図2 遠景も見事だが、株のほとりに立つと下向きの花がこちらを向いているのも見事だ。

図3 長さ30cmにもなる花序が葉の上にすっくと立つので遠くからでもよく目立つ

図4 花序は総状花序(そうじょうかじょ:ほぼ同じ長さの花柄をもつ多数の花が花軸に付く)

図5 それぞれの花が、ほぼ同じ長さの花柄をもつ総状花序であることが、真上から見ると実によく分かる。
 
図6 葉。2回羽状の偶数複葉。

 葉の感じがニセアカシアとよく似ていて始めは区別が付かなかったが、ニセアカシアの葉が奇数羽状複葉であるのに対し、ジャケツイバラの葉は2回羽状の偶数複葉なので、違いは明らかです。

図7 葉軸にある逆刺 図8 枝にある刺

図9 枝にある刺。葉を落とした葉軸は堅く丸くなり、しかも刺をもっているので、コイル状に巻いた鉄条網のようになり人を寄せ付けない。もちろん本来は、これで他の樹木に絡まって上へ伸びていくためのものであろう。

図10 大株の根元。画面の中で縦横無尽に見えている木質の枝は、太いの細いのすべてがジャケツイバラの幹や枝。とても近づくことができない。遠くから望遠レンズで撮影。

 枝や幹には鋭い刺がビッシリ並んでいます。葉の裏側の葉軸や葉柄には鋭い逆刺(刺の先が植物体の先端ではなく、元の方へ向かっている)があり、その幹や枝が蔓となってもつれ合っているので、ジャケツイバラのあるところは天然の鉄条網となっています。
 太い幹にある大型の刺を写しに行きたいと藪の中へ進んだところ、帽子やシャツが刺に引っかかり、指や額にまでトゲが刺さりました。鋭いかぎ爪になっているので外すのに苦労しました。特に額に刺さった刺は、どういう方向から刺さったかが分からず、外すのが大変でした。この分だと、無理して藪の中へ入ったら身動きが取れなくなりそうだったので、やむなく、外の細い枝の刺を撮影したものが図8ですが、それでも長さは1cmもありました。

図11 花。直径3cm程。5枚の花弁からなり、1枚は小さく赤い筋が入っている。

図12 雄しべは赤く、花糸の中部以下に白い毛が密生する。 図13 萼は黄緑色で5片からなる。

図14 葯は2個の葯室からなり、それぞれに筋が入っている。 図15 筋のところで葯が裂けて花粉が出てくる。

図16 雌しべは10本の雄しべに取り囲まれていて、外からは見えないことも多い。図の真ん中にあって毛をもつのが雌しべ。 図17 手前の雄しべを取り除くと雌しべの先端がはっきり見えてきた。

図18 雌しべの先端部は上へ向かって反り、縁に突起をもつが中は空洞になっている。どこまでが花柱で、どこからが柱頭なのか不分明である。

図19 空洞は花柱の中まで続いている。 図20 子房付近の横断面。中央の子房の断面には胚珠が見えている。周りに見える8個の毛むくじゃらのものは雄しべの花糸の断面。

図21 雌しべの子房を縦断すると、上側に胚珠が整然と並んでいた。
ジャケツイバラの雌しべは、1つの心皮でできていることが分かる。

心皮:花を構成する要素が葉に由来するとの考えがあり、この場合、花を構成する萼片・花弁・雄しべ・心皮などを総称して花葉という。「花の恰好をしているけど、元は葉なんだよ」と読めば分かりやすい。雌しべを構成する花葉を心皮という。〔詳しくは用語解説を参照して下さい。〕

 前日の嵐の影響で多数の花やつぼみが落ちていました。採集してきて顕微鏡で観察してみました。
 雌しべ(花柱)の先端にはブラシのような突起があって花粉を受け止めるようになっています。またその部分は、多くの花のような柱頭を形成しないで 、突起の生えた先端部は空洞になっています。この空洞が子房の方までどうつながっているのかを観察しょうとしましたが、困難を極めました。どうにか花柱の何カ所かを横断して切片を観察したところ、細い空洞が子房までつながっていることを確認できました。

図22 花の奥には子房と花糸の間に広い空間ができている。 図23 その空間は蜜槽で、開花と共に蜜で満たされる。

 花の底では、花弁の基部に雄しべの花糸が配置しているので、広めの花盤の中央に位置する雌しべの子房と花糸との間に空間ができています。この空間が蜜槽となって、蜜がたまっています。
 花糸にある毛は、下向きに咲く花の蜜を垂れ流しにしないための工夫と考えられます。

図24 名前は分からないがいろんな昆虫が訪れている。 図25 名前は分からないがいろんな昆虫が訪れている。

図26 ジャケツイバラの果実

図27 ジャケツイバラの冬姿 葉を落とした刺だらけの葉軸が残り、それぞれの葉の付け根の前方に冬芽が見える。

図28 ジャケツイバラの冬芽

図29 ジャケツイバラの冬芽。この場合、4個並んでいる。

 落葉した葉柄のすぐ上に数個の冬芽が縦1列に行儀良く並んでいます。一番上を主芽、あとのものを副芽と呼びます。主芽が一番大きくて、普通は主芽だけが春に展開します。主芽に事故があったときには、控えていた副芽が伸びて新しい枝となります。
 
予備の冬芽をもつなんてなかなか用心深い木です。

図30 主芽が展開を始めた 図31 主芽に事故があって副芽が膨らんできた

図32 普通は主芽または副芽が1個だけ春に展開するのだが、時には複数の芽が展開して新しい枝を作ることもある。

 ジャケツイバラの用心深さは、それだけではありません。
 冬芽が展開すると、新しい枝(シュート)ができます。それには、花の付かない枝である場合と、何枚かの葉をもちさらにその先端に花序を付ける場合とがあります。

図33 冬芽が展開してできた新しい枝。矢印は側芽。(2005年5月21日)

図34 側芽は、少ない場合は1〜2個、多い場合には、7個もできていることがある。この図では6個で、先頭の主芽が、事故によって失われている。
はじめは、気の早い冬芽と思っていたが、次の図で見るように、新しい枝(シュート)の始まりであることが分かる。(2005年5月21日)

図35 展開を始めた側芽 図36 展開を始めた側芽

図37 側芽の顕微鏡写真。毛むくじゃらである。

図38 展開を始めた側芽(シュート)

ジャケツイバラの災難

 恐れるものがないと思われたジャケツイバラにも強力な敵がいました。人間です。
 2005年4月2日、前記の冬芽がどうなったかを見るために現場へ行ってみました。
 何とずたずたに切り裂かれ、火を掛けられていました。田んぼの横の土手をふさいで生育していた木ですから、邪魔になったのでしょうが残念です。
 なお、花を撮影している木は別の所の川岸にあり、これは今のところ無事です。


図39 土手の上には、黒こげのススキの株や、ジャケツイバラの枝が転がっていた。

図40 切るのは大変だったらしく、ためらい傷のように、たくさんの傷が付き、雑然としている。多分この作業をした人も、傷を負っているに違いない。

図41 土手をふさぐように育っていた大株だが、切られた枝が隙間だらけだったので、あまり燃えない形で残ってしまった。この枯れ枝を処理するのも一苦労だ。

図42 お陰で根元付近の大きな刺をじっくり撮影することができた。

図43 刺が整然と並んでいるのに驚いた。

図44 ジャケツイバラの県内分布

ジャケツイバラ科について
 多くの図鑑ではジャケツイバラはマメ科としてあります。ここでは植物の世界(週刊 朝日百科)に従いジャケツイバラ科を採用しました。同書には次のように解説してあります。

 花の時期にジャケツイバラ科の植物を見ると、これがマメ科に最も近い仲間と思えないかもしれない。マメ科に特有の蝶形花冠(ちょうけいかかん)では旗弁(きべん)は他の花弁よりも外側にあって、形や向きなども違っており、雄しべは竜骨弁(りゅうこつべん)と翼弁(よくべん)におおわれていて外側からは見えない。ところが、ジャケツイバラ科の花では旗弁は他の4枚の内側に位置し、他の花弁とそれほどには違わない。また、雄しべが外側から見えるものが多く、1本ずつ離れている。このような花の様子はむしろバラ科の花に似ている。ジャケツイバラ科はマメ科とネムノキ科の祖先で、バラ目から生まれたと考えられている。


図45 ジャケツイバラの花 図46 ハマエンドウ(マメ科)の花


 
文献
木村陽二郎.
1996. 図説花と樹の大事典. p.219-220. 柏書房.
大橋広好. 1995. 週刊朝日百科 植物の世界. 5-39. 朝日新聞社.
秋山 忍・ 
国重正昭.
1999. 園芸植物大事典. p.439. 小学館.
石川県地域植物研究会 編. 1994. 石川県樹木分布図集. p.203. 石川県林業試験場.


花模様