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ホテイアオイ  Eichhornia crassipes (Mart.) Solms-Laub. 
(Pontederiaceae ミズアオイ科)  

 ホテイアオイは金魚鉢に入れる水草というイメージで、まさか石川県で野生の姿で見られるとは思っていませんでした。それが2002年、河北潟干拓地の西部承水路というところに繁茂していました。
 英名 water hyacinth ウォーター・ヒアシンス。漢字で書くと「布袋葵」、名は体を表すといいますが、実に良くできた名前です。葉柄の中ほどが膨らんだ浮嚢(ふのう:うきぶくろ)になっていて、ちょうど七福神の一人「布袋様」のお腹のようであるところから付いた名です。

 属名の Eichhornia はドイツの政治家 J. A. F. Eichorn に捧げられたものであり、種小名の crassipes は「太い柄のある」の意味で、膨らんだ葉柄から付いた名です。熱帯・亜熱帯アメリカ原産で、日本には明治中期に、観賞用として渡来し、九州の温暖地では野生化しているということです。(図説 花と樹の大事典)

 若い苗は1株200円で、近所のスーパーマーケットでも売られていました。石川県でも室内に入れて置けば、冬は越せるし、条件が整えば野外でも越冬できるようです。

図1 水路(河北潟干拓地 西部承水路)を埋め尽くしたホテイアオイ。右遠方の赤い箇所は上流の水門。(2002年9月24日)

図2 ところどころに美しい花が咲いていた。(2002年9月24日)

図3 場所によってはチクゴスズメノヒエと住み分けているところもある。(2002年9月24日)

図4 帰化植物として目の敵とするには惜しいくらいの美しい花だ。

図5 艶やかだった葉が、先日の寒波で、ずたずたに裂けてシュロの葉のようになってしまった。(2002年11月7日)

図6 2003年2月9日。図1の水路は枯れたホテイアオイが埋め尽くしていた。

図7 2003年2月9日。枯れてしまったかのようだったが、・・・・・。 図8 株の奥の方には未だ緑の部分が生き残っていた。(2003年2月9日

図9 2003年3月20日。枯れ腐ったホテイアオイは行政の手によって処分されてしまっていた。 図10 除草を免れたところでも完全に腐っており、生きている兆候は認められなかった。

 2002年6月、河北潟干拓地の西部承水路の橋の上を車で通った際に、遠くにミズアオイのようなものが見え、ミズアオイの新しい自生地を発見したと喜んでいました。成長を楽しみにして9月になって観察したところ、それはホテイアオイでありました。ホテイアオイの実物を見たのはこの時初めてだったのですが、独特の浮嚢によって確認することができました。

 週刊朝日百科 植物の世界によると「南アメリカ原産の多年生の浮遊植物である。1824年にブラジルで発見されてから今日までに、北緯40度から南緯45度までの5大陸50ヵ国以上に分布圏を広げた。伝播経路は観賞用としての導入が主で、日本への渡来も明治年間で、現在、東北地方以南の富栄養化の進んだ水域に群生している。水生植物で唯一、世界十大害草として、「青い悪魔(blue devil)の名で恐れられている。」

 フィールドウォッチング(北隆館)によると、分布域は1月の平均気温1℃、年平均気温13℃および最寒月(1月または2月)の日最低気温平均値−3℃の等温線と一致するとのことです。
 
 高橋 久ほか(2003)によれば、「1998年ころから西部承水路においてホテイアオイが観察されるようになった。2000年の早春には越冬個体数株が観察された。2001年8月に行われた石川県環境安全部による西部承水路の植生調査ではホテイアオイは確認されていない。しかし、2002年の4月21日に越冬個体が確認されていることから、2001年にもある程度の発生があったことが考えられる。」とあります。
 私がホテイアオイに気づいたのは、まさに2002年であり、越冬個体であったと考えています。この年の冬は全国的に記録的ともいえる暖冬だったので、越冬できたのでしょう。その日6月13日には、水路の一部にわずかに見られていたのですが、その後どんどん繁殖して記録的な大群落となりました(図1)。
 2002年の秋、ホテイアオイはどんどん枯れていき、2003年2月には、図6・7で見るようにほとんど枯れていましたが、一部には未だ生き残っているものもありました(図8 )。3月には、枯れ腐ったホテイアオイが水質を悪化させるとのことから、行政によって一部のホテイアオイが除去されて水路がすっきりしてしまいました(図9) 。除去されなかった箇所で調査してみましたが、全く生き残っているものは見られませんでした(図10)。この西部承水路では2003年夏になってもついにホテイアオイを見ることはありませんでした。
 ところが、数km離れた別の水系、こなん水辺公園の大宮川で、群落を見ることができました。管理をしている方にお聞きしたところ、春に上流から流れ着いたとのことでした。
(こなん水辺公園は2002年から、組織的に植物調査を行っていた場所で、2002年にはホテイアオイは見られませんでした。)

 いずれにしてもホテイアオイは外国産の植物ですから、誰かが川や水路へ株を捨てたか、何らかの原因で栽培していたものが逸出したものでしょう。最近の暖冬傾向、地球温暖化の影響で、石川県でもしばしば越冬することができるようになったものと考えられます。
 
図11 朝、花序の10個近くの花が一斉に開花していた。この美しい花も1日の寿命だ。(2003年9月17日9時2分)

図12 図11の見事な花も、前日の夕方(5時19分)には未だこんな状態であった。 図13 写真判定では、花の直径は4.8mmということになった。
図14 2003年9月16日。花序が7本立っていた。 図15 2003年9月17日。前日の7本の花序はすべて花茎がほぼ90度に折れ曲がって倒れていた。

図16 その後、花茎はS字クリップのように折れ曲がる。 図17 同じミズアオイ科のミズアオイも似たようなスタイルを取る。

 夕方見ると、図12のような蕾で花はまだまだだと思っていましたが、翌朝にはすべての花が開花していました(図14)。この美しい花は1日花で、花序のすべての花はその日のうちに終わりを告げます。(花序全体が1日花です)。しかし時には、花序の先端部の一部の花が当日に咲かず、翌日回しになることもありました。
 花が終わると翌日には花茎がほぼ90度に倒れ(図15)、その後花茎はさらに下(水面)へ向かって垂れ下がり、「S字状フック」(図16)のような形になります。これは熟した種子を水中へ散布するのに適した姿です。同じミズアオイ科のミズアオイも似たようなスタイルを取ります(図17)。

図18 外側から見た花。萼や花冠がよく似ていて区別が付きにくいので、外花被、内花被と呼ぶ。 図19 内側から見た花。内花被片のうち上側の1個が大きく、紫色のぼかしがあり、その中心に黄色の斑点がある。このスタイルが訪花昆虫の目印になるのだろう。中花柱花。

図20 花の縦断面。花の外側や花糸や花柱に腺毛のあるのが分かる。外からは見えにくい「短い雄しべ」が花筒部の花被から出ているのがわかる。

図21 雌しべ 図22 雄しべ

図23 雌しべの柱頭の表面の突起も腺毛状。 図24 雄しべの花糸の腺毛の拡大。

 花は萼や花冠の形が似ているので、外花被、内花被と呼ばれます。雄しべは6個ありますが、3個は花糸が長く、雌しべより外に突き出ており、3個は花糸が短くて花の奥の方に位置しています。こういう配置は「中花柱花」と呼ばれます。(詳しくは、ミソハギのFILEをご覧下さい。
 植物の世界(朝日新聞社)によると、花には3型の異花柱花があり、ここの画像のような「中花柱花」が世界的に優先しており、長花柱花は稀、短花柱花は原産地の南米以外には知られていないとのことです。異花柱花は本来、異なった型の間の受粉でなければ種子ができないものですが、ホテイアオイでは、自家受粉で種子ができるそうです。
 図解植物観察事典(地人書館)に「人工授粉すると100%結実するが、受粉させてやらないとまったく結実しない。」とありましたので、毎日多数の花について受粉を試みましたが、一つも結実したものはありませんでした。何か条件の違いがあるようです。なお、同書では「花には雌しべの長いものと短いものの二型がある。雌しべの長いものの上部の雄しべは中長である。下部の雄しべ3本は、いつでも著しく短いことに変わりがない。」となっていますが、これは明らかに、長花柱花と中花柱花のことだけを指しており、[日本国内で見られるものには]との条件付きでなければ誤記ということになります。

図25 3型の花の雄しべと雌しべの位置関係

図26 ホテイアオイが水面に浮かびながら生育できるのは、葉柄にできた浮嚢(ふのう)のお陰だ。
 走出枝を伸ばして次々と子株を作るので、短期間に大群落となる。

図27 浮嚢の断面(単位はmm)

図28 浮嚢横断面の拡大
図29 浮嚢縦断面の拡大

 浮遊植物であるホテイアオイが水に浮くことができるのは布袋葵の名前の元になった布袋様のおなかのような膨らみ(浮嚢)が葉柄にできるからです。その断面を見てみますと、スポンジのような構造でした。
 

図30 根は濃い紫色をして、ブラシのようになっているので、近所の人がメダカの産卵をさせるのだといって貰っていった。

図31 若い根は特にきれいだ。

 ホテイアオイの繁殖するところでは、水路をふさぐ害草として嫌われています。
 一方、水中の窒素やリンの吸収がよいので水質浄化の効用もありますが、そのまま水中で腐らせたのでは、腐廃物が水中を漂うことになり、かえって水質を悪化させることにもなります。
 2003年9月25日のTV(確かNHKだったと思います)のニュースで、タイでは、駆除費に年間1億円もかかる害草なので、何か役に立てることはできないかと考えて、乾燥させた茎を編んで家具、例えば椅子の表面を作るのに利用しているということを紹介していました。

読者の便りから
取水のじゃまをしますし,海に流れ込むと有明海のノリ網にかかり漁業被害を出します。冬に腐ってヘドロ化し,メタンガスを出しています。 佐賀県の農民や漁民は(たぶん)ホテイアオイが大嫌いだと思います。
栃木ではホテイアオイを水田転作対策の景観作物として積極的に栽培される地域があります。
「マレーシアでは家畜の飼料として栽培されている」と A Guide to Sungei Buloh Nature Park ( Eric Gill) HSBC に載っているとの情報もありました
種ができにくいことは、岡山県の冨久先生が論文で書かれているのを、拝見したことがあります。結さく率が3%位で、かなりできにくいとのことでした。(結さく率とは、花の数に対して、種ができている花の割合のようです。)

 文献

木村陽二郎監修. 1996. 図説 花と樹の大事典:413. 柏書房. 
沖 陽子.
1996. 週刊朝日百科 植物の世界:10-154〜10-155. 朝日新聞社.
沖 陽子. 1991. フィールドウォッチング C 夏の野山を歩く.:40〜43. 北隆館.
高橋 久・永坂正夫・白井伸和・川原菜苗. 2003. 河北潟西部承水路の水生植物の現状. 河北潟総合研究6:27〜39.
家永善文ほか. 1982. 図解植物観察事典.:571〜572. 地人書館.


花模様