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デンジソウ  Marsilea quadrifolia L. 
(Marsileaceae デンジソウ科)  

 漢字で書くと「田字草」、名は体を表すといいますが、実に良くできた名前です。四つ葉のクローバー型といってもよく分かると思います。
 属名の Marsilea はイタリアの自然科学者(L. マルシーリ)を記念したもので、種小名の quadrifolia は「四葉の」の意味です。一見普通の水草ですが、なんとシダの仲間だというから驚きです。(夏緑性多年草)
土地造成、農薬汚染、水田の放棄などが原因で減少し、環境庁編レッドデータブックでは絶滅危惧U類に選定され、100年後の絶滅確率100%と記載されています。
 石川県でも、かつて、加賀地方で野生が知られていたものですが、最近は生育状況についての報告が無く、現状不明とされていました。
 このたび、金沢市の池で数百株(根茎が枝分かれしつつ長く伸びているので、どこからどこまでが1株かは分かりません。従って、正しくは、株数不明です。)の群生を見つけましたので報告いたします。
 まずはご覧下さい。

図1 デンジソウ(田字草)。分かりやすい名前だ。(2003年10月20日)

 2003年10月20日、とある池の畔に立ちました。この池へは以前にも来たことがあるのですが、その時は満々と水をたたえ、不気味な感じの池でした。おまけに、池の縁では、マムシを含めて3匹の蛇に出会い、あまり印象の良い池ではなかったのです。
 この日は、水が引いていて、長靴ならば池の中へ入れそうな気配だったので、池の畔へおりて、池の中から顔を出した岩まで行き、何気なく水面を見ると、つややかな「四つ葉のクローバーが浮かんでいた」というわけです。このときの興奮は、クロヤツシロランの花を見つけたときに勝るとも劣らないものでした。
 山間の静かな池で、「
あった! デンジソウ!!」と思わず叫んでいました。この日の帰途は、とても満ち足りた気分でした。植物好きの読者の皆様には良くおわかり頂けると思います。
 それにしても予想していたより大形の葉でした。
 

図2 さしわたし4cmを超す。イメージしていたより大形だった。

図3 2坪ほどの水面をデンジソウが埋めていた。

デンジソウ生育地の水の増減
図4 2003年9月29日。満々と水をたたえている。 図5 2003年10月20日。かなり水が少なくなっている。

図6 2003年11月17日。池の面積のほとんど95%までは干上がってしまった。 図7 2003年12月14日。再び水をたたえ、冬の深い眠りにつこうとする池。

 ほとんど震えるような興奮で写真を撮りまくりました。
さて、デンジソウを各種の参考書で調べてみますと、日本の野生植物〔葉柄の長さ、10-15cm〕、日本水草図鑑〔5〜30(〜50)cm〕となっていますが、ここで私の測定したものは95cmにもなっていました。
 図1・2を見て下さい。デンジソウの葉の間に紐のようなものが見えていますが、これが葉柄です。じつはこの池はかなり深くて、水に満たされているときには、図6に多数見られる岩が完全に水没するくらいの深さなのです。すなわち、デンジソウの生育地は少なくとも水深95cmはあるのでしょう(この池の最深部は数mの深さがあり、デンジソウは生えていません。)。
 私が見つけた10月20日は水量が減っていたので、長い葉柄が横たわっているという状態であったわけです。下の図8のように、たくさんのデンジソウが干上がった岩に引っかかって枯れていました。

図8 干上がった岩に引っかかって枯れているデンジソウ。これにより、かつてはこの岩の上まで水が来ていたことが分かる。

図9 この群落地はちょっとした深みであったが、すっかり干上がってしまった。(2003年11月5日)

 最初に見つけた群落地は、ちょっとした窪地であったのでデンジソウが集中して生育していたのですが、11月5日にはここも干上がってしまい、多くの葉が枯れていました。根茎は枯れていないので、新しい葉が展開し、空中へ伸び出していました。
 11月17日には、池全体でほとんど水が無くなるくらいに干上がっていましたので池の底を歩く形で一回りすることができました。お陰で、3カ所の大群落の他、池の周囲全体にわたってぽつぽつと分布していることが分かりました。
中でも早く水の無くなったところでは数pの葉柄を空中に伸ばしているのも観察できました。(図10)

図10 水が早くなくなった場所では、空中へ葉柄を伸ばしている。

図11 葉の伸び始め 図12 先端がゼンマイのように巻いている。いかにもシダらしい。
図13 小葉の形が見えてきた。 図14 貝殻(扇形)のような形で、4枚の小葉が裏面を外に向けて閉じている。

図15 若葉が展開したところ。 図16 葉の裏面

 葉は最初渦巻き状になっており、だんだん渦巻きが解けると、扇形の小葉が見えてきます。これは4枚の小葉が裏側を外に向けてたたまれた状態なのです。先端の部分から反転して図15のように開いてきます。

図17 根茎の枝分かれしている箇所。新しい根と芽が見えている。

図18 芽。始めは毛むくじゃらだ。
図19 図18の右隅を拡大したもので、ベールに包まれているように見える。

 日本水草図鑑によると「胞子嚢果は堅く、長さ3〜5mm、はじめ白い軟毛に包まれるが、やがて毛は落ちて黒色〜褐色になる。中に数個の胞子嚢群があり、1個の大胞子を含む大胞子嚢と多数の小胞子を含む小胞子嚢が混じる。」とあります。また、「水中での胞子嚢果の形成は観察したことがない。」ともあります。

 最近入手した、水生シダは生きる(白岩. 2000)によれば、「胞子はいつ頃からつくられるか。自生地や栽培を通して観察した結果からデンジソウは日本では7月後半から9月末にかけてであることが確認できた。よほどよく注意していないと胞子嚢果をつけているのに出会うことは稀である。ということは胞子嚢果が形成されることがごくあたりまえであるとはいえないからである。どちらかというと、つくのをみる機会が少ないからである。」
とあります。

 ここの生育地は
長期間深い水中にあったため、胞子嚢果が育っていないと考えられます。そして、水が無くなって、やっと胞子嚢果が育てる状況になったとき、今度は時期が遅く寒くなってしまいました。
 2つの悪条件のせいで、この池では胞子嚢果を取材することができませんでした。地元の人に聞きますと、この池には流入する川は無く、この窪地に貯まった雪が溶けた水と雨水だけが水源だとのことでした。また、例年は夏頃には干上がってしまうのに、今年はなぜか、9月まで水が残っていたとのことです。そういうことならば来年はもっと良い条件で観察することができるかも知れません。
 来年が楽しみです。良い材料が得られましたら続編をお送りするつもりです。ご期待下さい。

 日本の国内ではデンジソウの他に、九州南部と南西諸島に(日本水草図鑑)ナンゴクデンジソウが自生し、また園芸種としてオーストラリア原産の Marsilea hirsuta が見られるとのことです。
 この3者はよく似ていて区別が微妙ですが、前記水生シダは生きる(白岩. 2000)によれば、小葉の扇形の開きの角度がデンジソウでは大きく、ナンゴクデンジソウや Marsilea hirsuta では小さいとのことです。私による同書所収の写真判定では、デンジソウではおよそ90度で、ナンゴクデンジソウではおよそ70度で、 Marsilea hirsuta はナンゴクデンジソウよりさらに小さいようです。このことはほかの図鑑類には記載されていないことなので、少なくとも、デンジソウと他の2種を区別する際には貴重なポイントになると考えられます。


追記:2003年12月28日、白岩卓巳 様の御指摘により、最初にこのデンジソウのFILEを発表した際に私が「胞子嚢果」だとしたものはすべて「」であることが判明しました。
 その御指導に基づき原稿を改訂いたしました。初版をお読み下さった皆様には申し訳ありませんでしたが、初版において「
胞子嚢果」としたものはすべて「」と改めるとともに、図解についても改訂をいたしました。ご了承下さい。白岩卓巳 様には御指導感謝申し上げます。(2004年1月1日)


胞子嚢果についてのレポートが、FILE111にあります。引き続きご覧下さい。ここをクリック

 文献

木村陽二郎
監修.
1996. 図説 花と樹の大事典:299. 柏書房. 
環境庁 編.
2000. 改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 植物T(維管束植物):403.
岩槻邦男. 1992. 日本の野生植物 シダ:283. 平凡社.
角野康郎. 1999. 日本水草図鑑:12. 文一総合出版.
白岩卓巳. 2000. 絶滅危惧植物 水生シダは生きる:95−138. 自費出版.


花模様