ゼフィラ属とコナンテラ属の園芸植物            H17.8.25

 

   この二属、普段全く聞き慣れない植物で、園芸店で見ることはまずありません。いずれも
テコフィラエア科の春咲き小球根で、南米大陸チリが原産地です。
球根植物栽培のバイブルとでも云うべき『球根植物入門からマニアまで/ガーデンライフ編/誠文堂新光社』には、テコフィラエア・キアノクロクスの解説に続いて、この二属について以下の記述があります。引用してみましょう。

・ゼフィラ属 
   エレガンスはおなじくテコフィラエア科の球根で、優雅で野趣の深い佳品です。丈
15cmぐらいの細い花茎を抽き、シラーかチオノドクサに似てもっと洗練された六弁ユリ形の花を数輪下垂します。ほとんど純粋の水色といえる色で、花底が白く、優しく気高い姿は球根類をも含めた山野草全体の中でも抜群といえるでしょう。  扱いはテコフィラエアに準じてよいようですが、どうも気むずかしく、また殖えない点が残念です。

・コナンテラ属
  おなじくテコフィラエア科の小球根で、前二者のようなブルーではあ りませんが、、品の良い、楚々として野趣の高い草姿で、作りやすく丈夫です。ごく細い花梗が
30cmぐらい伸び、数輪ないしは十数輪の、チオノドクサに似てもっとほっそりした優雅な小輪花を下垂します。
主に藤紫色で弁の元に黒い目があります。 ビフォリアとカンパヌラタの二種があり、前者は花弁が強く反転するのが主な相違点とされています。

 この本は昭和52年に発行されており、当時ご存命だった平尾先生がテコフィラエア科など記述されています。カラーページには開花の美しい姿が掲載され、球根愛好者垂涎の的でした。その後28年が経っていますが、ほとんど園芸書に紹介されることはなく、栽培例も少なかったようです。偶然ですが探していた球根や種子を入手する機会があって、念願のこの二属について、栽培致しました。その結果などについてご紹介したいと思います。

 

 

ゼフィラ・エレガンス Zephyra elegans DDon

 チリ北部海岸地帯にみられる春咲き球根で、エレガンスを含め3種が知られています。
最近の学説では、幻の青花として有名なテコフィラエア属の2種も編入され、合計5種となったようです。  自生地は夏季雨のほとんど降らない乾燥地域で、球根が牽引根によって土壌深く潜り込んで自生しています。冬季は雨があり、早くから出葉して生長し春に抽台して開花します。
 エレガンスの基本的な花色は、淡青色でスロートが白という清楚な花ですが、文献に寄れば八重個体や花色がピンクの個体もあるとのこと。 大変美しい花なので、今後の流通が期待されます。  秋の球根販売のほか、花期が長いので開花鉢物としても良く、花茎長の長い個体の選抜育種を行えば切り花としても使え、営利栽培にも向いているでしょう。また、甘い上品な香りを有することも、本種が好まれるであろう大きな長所です。

 エレガンスの日本への導入は、本会会員の三宅勇さん(三宅花卉園)が、チリの大学研究者であったホフマン先生から種子を分けていただいたことによります。 その後慎重に育苗され、個体増殖に成功いたしました。その過程で、塩基性土壌(
pH7.58.0)を好むこと、施肥は控え目が良いこと、耐寒性は中位で0℃前後に耐えることなどの知見が得られています。小生の手元に来た球根も、この三宅さんの増殖球根です。
 営利栽培に向けた研究も、静岡大学大川教授の元で行われており、作型を決める試験栽培が愛媛県農試圃場で実施されています。

 栽培は秋10月に鉢植えすることから始まります。夏季休眠していた球根は、25〜30程度で5ヶ月間の乾燥期間を経ることによって休眠が打破され、土壌水分を与えると発根・発芽が始まります。ちょうど6月に枯れますので、5カ月後の10月植え付けが適期になるわけです。また、乾燥を続ければ休眠し続けるので、遅植えにすれば花期を初夏にずらすことが出来ます。(ただし、春植えは花期の地温が高すぎて不可能です。)
 大川教授等の研究に寄れば、20℃以下の涼しい環境で休眠させると、深い休眠が続き秋に植え付けても発芽しないとのこと。この性質から長期間の保存には向いていますが、開花させたい場合には北海道等冷涼地での夏保管に注意が必要です。

 冬季は球根や葉を凍らせない程度に夜間加温し、霜よけのフレームにて養生します。可能で有れば厳寒期のみ室内窓際での栽培が良いでしょう。 葉が細く15cm程度と短いので、草姿はコンパクトにまとまります。拙作場では5号駄温に2球植えです。
 3月下旬、花茎の抽台がはじまり、4月上旬に咲き始めます。 花茎長は
3040cmで総状花序、香りのある直径3cmの花を1015輪着けます。この花茎は長期間枯れずに残ることから光合成に極めて有効と思われ、開花した株では球根の太りが良いです。

 増殖については種子繁殖が良いでしょう。自家受粉で容易に結実します。 5月には黒い丸形の種子が採取できますので、乾燥保存した後の秋に播種します。花被片先端の淡青色の発色は個体差が大きいので、播種して良い花色を選抜することも可能です。  なお、開花球まで苗床栽培で4年程度かかると考えられます。
 花茎のない株は5月、花茎のある株は6月に枯れて休眠します。  球根は茎が変化した球茎で、古い球根の上に新球が1球生じ、まれに新球が2球着きます。

 

コナンテラ・ビフォリア  Conanthera bifolia Ruiz et Pav

コナンテラ・カンパヌラタ Conanthera campanulata (DDon)Lindl

  いずれもチリ中部〜北部にみられる種で、海岸部からアンデス山中まで広い範囲に分布しています。コナンテラ属は、ヒガンバナ科からテコフィラエア科に移る過程で、約17種が記載されていましたが、研究によって同種異名の整理が進み、現在は5種程度に分類されています。 なお、園芸植物としては、ご紹介するこの2種が使われています。

 日本では山野草店のごく一部で栽培されている程度で、ほとんど普及していませんが、前者は種子で、後者は本会会員片山繁朗さんの株提供によって栽培し、開花に至りました。
 播種ないしは球根(球茎)の植え付けは10月頃です。土壌の
pHは選びませんが、比較的乾燥した地域の植物なので、排水性の良い用土を好みます。草姿・球根共に小型であることから、容器栽培に適しています。概ね4号駄温に3球程度が良いでしょう。
 冬季は無加温フレームで養生。耐寒性は千葉県程度の冬(Z8)程度なら、十分生育しますが、植物体が小型なので強い霜には当てない方が良いと考えられます。

 開花は2種とも4月から咲き始めます。花茎長は40cmと非常に細長いですが、しなやかで折損することはありません。総状花序で下から順に咲き上がり、5月に展開する寒冷紗下では開花を継続し、6月上旬まで咲いています。花期は長いのですが、花梗が長く、花着きが疎らに見えるのが難点、群植しての鑑賞が良いでしょう。花は直径1.5cm程度の小花ですが、下向きに咲く紫青色の美しい花です。特にビフォリアは、花被片がカタクリのように反転し特徴的です。なお、受粉によって種子が得られますが、結実数が少ないので人工授粉した方が良いです。繁殖は自然分球と播種、播種後4年で開花に至ります。
 結実後に長い花茎が枯れ始め、6月中旬には休眠に入ります。開花生理や作型は研究されていませんが、鉢ごと乾燥休眠、10月灌水といった通常の方法で問題有りません。

 営利栽培としては、自然のままの花茎長ではアンバランスであり、矮化剤の適正使用方法の開発や、種子増殖・分球増殖の短縮法などの豊産性、着花数増大の育種など、越えなければならないハードルが数多くあります。しかし、洋種の山草・野草としての観賞性に優れていますので、ポットものの需要はあると思われます。 ただし、不適当な和名(流通名)が付けられないことを希望しております。

この他のコナンテラ属としては、前述の 『球根植物入門からマニアまで』 のカラーページに Conanthera trimaculataの開花写真が載っています。平尾先生から分譲された株が生き残っていることを期待したいと思います。

 
キアネラ属、ゼフィラ属、コナンテラ属と、美しいテコフィラエア科の園芸植物をご紹介してきましたが、次回はいよいよ本命、テコフィラエア属Tecophilaeaについてご紹介できればと思っております。現在誠意栽培中ですので、今暫くお待ち下さい。